第24話「邪竜無双…いや厨二暴走だった」
あれは数年前のことだった。
俺は自宅でいつものようにメガトラオムの制作を進めていた。
長い時間をかけて一つのことに取り組んでいると、どうしたって気持ちが乗らない日もでてくるものだが、その日の俺はテンションが上がりきっていた。
なぜなら、その日作っていたのは人類最強種族『龍人族』についての設定だったからだ。
『最強』というものに心をトキメかせてしまう気持ちは、きっとお分かり頂けるだろう。
俺はノリにノッて、龍人族の設定を作っていった。
龍人族の生息地、通称『ドラゴン諸島』について。
史上最強の龍王について。
龍人一人一人のペアとなる相棒竜について。
などなど、いろいろな設定を作っていった。
毎度お馴染みの『裏設定好き』も爆発させて、本編には関係ないようなことも、幾つも作っていった。
そうして、テンションが上がっていくと、俺はいつもの如く病気を発症させてしまう。
そう、いつものアレだ。
厨二病を発症し、悪ふざけに走り出した俺は思った。
最強の龍人族の中に、俺と同じような『厨二病』キャラを作りたいと。
そいつは、厨二病であるが故に龍人族から邪なものと見做され、ペアのドラゴンと共に追放されるだけのギャグキャラ。
そのドラゴンは当然『邪竜』と呼ばれることになる。
この設定を思いついた時、俺は思わずも『いい!これはいいぞ!!』と叫んでいた。
うむ。
時がたった今、思うことを言っておこう。
『やはり、すごくいい。』
あまりに素晴らしい設定だったので、俺は思いつくままに設定ノートにペンを走らせ、その勢いでPCに情報を入力していった。
どうせ裏設定のギャグキャラだから、ストーリーには何の影響も与えない。
どうせならぶっ飛んだ奴にしようと、メチャクチャにふざけまくった結果、パワーバランスを無視したチートキャラを作ってしまった。
そいつは龍人族の中では、龍王に次ぐ強さになった。
鬼王や古代七勇者辺りとも良い勝負をするかも知れない。
だが、所詮はギャグキャラ。
古代の時代に異界へと追放されて以降、歴史には全く関与しない。
奴は異界で相棒竜と共に楽しくやっていくのだ。
本当は追放先の異界に選ばれるような場所だから、相当に過酷な場所なはずなのだが、なにせ奴らは厨二。
どこへ行っても逞しく生きる。
言うなれば、メガトラオムから別の世界への異世界転移物語。
それが、その日の勢いで作ってしまったギャグ設定だ。
こういう風に本編に関係ない場合は、勢いだけで設定を作ってしまうことが結構あった。
まあ、俺の厨二の発症頻度を考えれば想像つくだろう。
そのため、ノリだけで作ったような設定は、あまりに多すぎて覚えていないものが多いのだ。
それを俺は今になって思い出すことになった。
なぜなら、今俺の目の前に件の厨二病龍人族の相棒竜である『邪竜チューニート』がいるからだ。
『フハハハハハァア!!
どうやら、この虫ケラ共にやられたようだな?!
安心せい!
我に任せろ!!
瞬く間に蹴散らしてくれるわ!!』
邪竜は、倒れている俺と、辺りに広がっている黒蜘蛛の隊員を見てそう言った。
その声は色々な周波数帯の音域を歪に拡大したようで、高くもあり、低くもあり、人のようでもあり、化け物のようでもあって、何重にも響く恐ろしい音だった。
次の瞬間、邪竜チューニートが翼を大きく羽ばたかせる。
「…!?総員、回避しろ!!」
「うひゃ〜!!逃げろ!!」
怒号のように飛ぶネトの指示。
それに従うベンをはじめとした黒蜘蛛達。
邪竜の羽ばたきは、小さな竜巻のような斬撃の渦を無数に生み出し、奴らを襲う。
「がはっ!」
「ぐぅ!!」
「…!みんな大丈夫かい〜?!」
回避出来なかった黒蜘蛛隊員達は、服が切り裂かれ、血飛沫をあげている。
「…っ!?
なぜ突然ドラゴンがこんな所に現れた!?
貴様、いったい何をしたのだ!!」
ネトが当然の疑問を俺にぶつけて来た。
状況から見て俺しか有り得ないと踏んだのだろう。
なぜなら、邪竜は俺から流れ出た血液から出現したのだから。
しかし、俺だって訳がわからない。
なぜ、俺の右腕から流れた血から、今ごろ異界にいるはずの邪竜が……
あ。
そういうことか。
俺が賢者に付与してもらった特性の【右手に封印されし邪竜の力】。
その詳細欄には、こう書かれている。
『右手に邪竜が封印されている……かもしれない。』
これまた悪ふざけで、『…かもしれない』などとジョークを書いた。
だが、実際には〔奇系職〕の経験値を上げるだけの代物で、邪竜など封印されていないと俺の頭の中ではなっていた。
しかし、ゲームのシステムに『実際には邪竜は封印されていない』などという情報をわざわざ入力などしていない。
メガトラオムが現実となったこの世界では、俺の頭の中にあったことではなく、システムに入力された情報を世界が読み取ったということだろう。
そして、俺が随分昔に入力して忘れ去っていた古代の『邪竜チューニート』と、この【特性】の詳細として入力した『邪竜という文字』がリンクしてしまった。
その結果、俺が【右手に封印されし邪竜の力】を獲得した今、本当に右腕に邪竜が宿ってしまったのだ。
あくまでも『…かもしれない』なのでこの特性を獲得しても宿らないこともあるのだろう。
いや、正直に言うと色々と分からないことばかりなのだが、とにかく俺の右腕には邪竜チューニートが宿ったというのは事実らしい。
……。
………。
…………。
クックックックック…。
「ヴゥーッバッバッバアァア!!!!
びあお!おえおいあいあ!!!」
(翻訳:…フゥーッハッハッハッハアァア!!!
来たぞ!俺の時代だ!!!)
『…お?
やはり貴様は我らと同類のようだな??
フハハハハハ!!
愉快!実に愉快ぞな!!』
ククク!
側から見れば地獄絵図だろうなあ?
厨二が二人など!
カオスすぎるだろ!!!
フゥーッハッハッハッハアァア!!!
俺は心の中で叫ぶと、邪竜チューニートに向けて命令を……
あ。
ちなみに凄く大事なことだから言っておくが、チューニートは厨二無職と書いてチューニートである。
気に入った方はぜひ、お子さんの名前にでもしてやってほしい。
俺が作った数えきれないキャラ達の中でも最高の部類に入るネーミングだ。
じゃあ、忘れるなって話だがな!
…オホンッ。
それでは、話を元に戻そう。
俺は厨二無職に命令を下した。
「あえ!!
ぼおおばおおおおべいあうぼあ!!」
(翻訳:やれ!!
そこの雑魚共を蹴散らすのだ!!)
『フハハハハハ!!
不思議だな!
お主は奴によく似ておる!!
初めて会った気がせぬなあ!』
うむ、そうだろう。
なにせコイツの相棒である龍人族の『リミト・フロンティエール』は、俺の厨二エッセンスをふんだんに突っ込んだキチガイなのだから。
ていうか、コイツ猿轡状態の俺の言葉が通じているのだろうか?
心の声が聞こえるとかか?
分からんが、通じるのはありがた…
『というかお主なんて言っとるのだ?!
訳が分からんぞ!!
日本語をしゃべれ日本語を!!!」
「べへぇ!ぶあえんあ!!
えっあぶういえうぶいんいあいああっえ!!
あいあい、ほおいうおいあ
『いおんおえおえ』あおあ!?
えんおういあおいえおい!」
(翻訳:てめぇ!ふざけんな!!
めっちゃ通じてる雰囲気出しやがって!!
大体、そういう時は『日本語でOK』だろが!?
勉強しなおして来い!)
『ワハハハ!
そのままでも愉快だが、話が通じらんのはまどろっこしい!!
どれ、そいつを解いてやろう。』
「…お?」
(翻訳:…お?)
チューニートはそう言うと、鉤爪を一閃して俺の口を縛る猿轡を断ち切った。
いや、数センチずれたら大怪我する所だったが、きっと鉤爪のコントロールにそれだけ自信が…
『ワハハハ!!
当たるとこだったな?!!
危ない危ない!!』
「てんめぇ!!!
ふざけんな!!!
俺の体は相棒の龍人族ほど頑丈じゃねえんだよ!!!」
『お?
なんだ、お主!
リミトを知っておるのか?』
「ああ!知ってるよ!!
…まあ、その話は後でゆっくりしてやるから、今はコイツら倒してくれ。」
『ククク。
…よかろう。』
ふと見ると、ミモザは呆気に取られ、ポカンとしていた。
当然だろう。
正直、俺も事態についていけていない。
一方で黒蜘蛛達はと言うと、さすがのプロフェッショナルだ。
最初こそドラゴンの登場に驚いてはいたが、すでに切り替えており、チューニートに対して戦闘態勢を取っている。
「ひぃえ〜、ドラゴンをこんな近くで見たの初めてだよ…。
隊長は見たことある?」
「…いや、俺も遠くに飛んでるのを見たことしかない。」
ベンとネトは言葉を交わしながらも、チューニートを注意深く観察し、隙がないか伺っていた。
対する、チューニートは鋭い瞳で黒蜘蛛達を睨み返した。
すると、睨まれた黒蜘蛛がバタバタと倒れていった。
「…な?!
制圧だと??」
「…え、うそでしょ?」
制圧。
それは、圧倒的な強者のみが持つことを許された力で、大きな実力差のある敵をひと睨みするだけで気絶させることが出来るのだ。
要するにあれだ。
覇王色の覇気だな。
雑魚専の瞬殺能力。
違うところは目が合わないと効果はないという点。
とはいえ、B級クラスの強者を気絶させる為には、少なくともSS級クラスの実力者でないと無理なのだが…
「ククク。
驚いたかこの殺戮者どもめがあ!!
なにせコイツは、最強魔獣であるドラゴンの中でも2番目の実力を持つ最強格の個体!
貴様ら人間風情が天下の邪竜・厨二無職の前で立っていられると思わぬことだなあ?!!」
俺が調子に乗って言うと、ネトが反応した。
「…!?
奴はドラゴンについてそこまで知っているのか?
やはり、我々の知らない知識を異常なほどに持っているようだ。
必ず捕らえて、魔王様の元へ連行するぞ。」
「…うん、そうだね。
ドラゴンと戦うなんて、ドキドキするよ。」
どうやら先ほどの発言を聞いて、俺を捕まえる意思をさらに堅くしたようだが、もはや関係ない。
なにせこっちには反則的な強さを持った邪竜がいるのだからなあ!!
「フゥーッハッハッハッハアァア!!!!
形勢逆転だなあ?!
貴様ら全員まとめて誇り高き厨二魂の糧となれ!!
この雑魚共があ!!!」
すると、俺のあまりの変貌ぶりと、挑発的な態度に黒蜘蛛の隊員達が苛立ちを顕にした。
「…ちっ。自分は雑魚のくせに調子に乗りやがって!」
「そうだ!
強いのはそこのドラゴンで、貴様じゃないだろう!!」
「だぁまぁれぃ!!
この殺戮者どもがあ!!!
貴様ら、さっきはそこでぶっ倒れてる女兵士が愛してやまないウチの英雄に何をしたあ!?!」
「へっ!?
…えっ、ちょっ、、なに急に/////。」
俺は女兵士を無視して続ける。
「たった1人の英雄相手に大勢で
寄ってたかって囲みやがって!
こっちがドラゴン召喚したらその態度とはなあ!!?
貴様らそれでも、この厨二に作られし世界の住人か?!??
…許せん!許せんぞぉお!!
やってやれ、チューニート!!」
『ワハハハハハ!
実に愉快!
お主、リミトに負けず劣らずのキチガイよのお!
どれ。
この誇りのない連中を踏み潰してやろう!!』
邪竜はそう言うと、天高く頭を上げ、大きく息を吸い込んだ。
「…ベン、させるな!!」
「りょうか〜いっ!!」
ネトは指示を出しながら弓を3本まとめて引いた。
指示を受けたベンは邪竜との距離を一気に詰め、天を向いているチューニートの首に一撃を入れようとする。
合わせるように、残った7,8人の黒蜘蛛が魔法を放ったり、剣戟を喰らわせようとしたりしていた。
次の瞬間、邪竜がバッと翼を広げると激しい風圧とともに漆黒のオーラが円状に広がっていった。
それは、ちょうど英雄セスクが放った〔無双モード〕の咆哮と酷似しており、周りにある全てのものを吹き飛ばした。
…そう、俺も含めて。
「おい!
俺も吹っ飛ばされたじゃねぇか?!!
この野郎!!!」
『ワハハハハ!
すまんすまん!!
なにせ、久しぶりじゃからのう。』
チューニートはそう言うと、次の瞬間、間髪入れずにブレスを放った。
圧巻の威力。
漆黒の破壊光線が触れるもの全てを消滅させ、一直線に伸びていく。
「…避けろ!!」
「うああ!これはやばいって〜!!」
「ぐあ!」
「うおおお!!」
黒蜘蛛は避けるのに必死で完全に逃げ腰になっている。
さっきまで、全く敵わなかった敵が突然噛ませ犬のようになってしまった。
俺は散々な苦痛を味わわされた黒蜘蛛のそんな姿を見て、ますます気を良くした。
「クゥーッハッハッハッハァア!!!
跪け!虫ケラ共よ!!
そうすれば命だけは助けてやろう!!
…まあ?
その時は、貴様らの名は黒蜘蛛ではなく『ソージ様に楯突いたアホは私たちです。…え? 呪會王のおもちゃにされてるイカレ魔王を裏切り、命を助けてもらった負け犬はどいつかって?? はい!それも私達です!!!ソージ様には一生感謝してもしきれません!!!』に変わるがなぁ!?!」
「てめぇ、ふざけんなこのクソやろうがあ!!」
「そんなクソ長ぇ名前があるかあ!」
「ドラゴンの影に隠れてイキッてんじゃねぇぞお!?」
さらに俺が魔王を愚弄したことで、ネトやベンまでが苦情を言い出す。
「…貴様、魔王様を愚弄する気か!?」
「カッチ〜ン!今のは僕キレちゃったよ?」
そんな2人の言葉に俺はハッとし、神妙な顔つきになって言った。
「…すまん。
お前らの主人のことまで悪く言うのは言い過ぎだった。
それに、たしかにお前らの言う通りだ。
強いのはチューニートであって、俺じゃない。
…俺は……ただのクソ雑魚だ…。」
『お?
なんだ、お主。
突然しおらしくなったのう??』
突然、様子が変わった俺にチューニートが尋ねてきた。
「いや、事実を言ったまでだ。
ちゃんと謝るべきは謝る。
これは厨二の基本だろ?」
『ワハハハハ!
お主の言う通りよのお!』
「けっ!何を今更言ってやがる!!
それが分かったならドラゴンの陰に隠れてないで、出てきやがれ!」
「そうだそうだ!俺たちがボコボコにして、魔王様の元に連れていってやるからよ!」
「…謝ったところで、魔王様を愚弄したことは許さぬがな。」
「…まあ、僕は分かってくれればいいけどねぇ。
でも、任務は任務だからね。
キミは連れて行かせてもらうよ?」
口々に言ってくる黒蜘蛛の連中。
俺はさらに落ち込んだ様子で続けた。
「ああ、そうだな。
俺も自分の誇りが傷つくようなことをしてまで生きたくない。
…ただ、その前に一つだけ言わせてもらえないか?
俺は、今どうしても言っとかなきゃいけない大切なことに気がついたんだ。」
「…なんだ?」
真面目な俺の態度にネトもベンも真剣になった。
チューニートでさえ、黙って様子を見ている。
すうっ、と。
ゆっくり息を吸い込んでから俺は言った。
「俺は、アンタらについて……行きまっしぇ〜〜ん!!!」
「…!??! なっ!? キサマ!!?」
「ねぇどんな気持ち?今どんな気持ち?!
実力で圧倒的に勝ってるクソ雑魚野郎を目の前にしてるのに捕まえることもできず、馬鹿にされるのどんな気持ち?!
歯痒いよねえぇ〜??
あれほど、なんども殺しかけた相手に舐められてコケにされるのどんな気持ち?!!?
おせぇ〜てぇ?!!?」
くぅ〜っ!!
決まったぜぇ!!
闘技場以来の『ねぇどんな気持ち?!』だ!!
「こんの、クソガキャー!!!!!」
「ぶっ殺す!!絶対ぶっ殺す!!」
「ドラゴンだろうと何だろうと全て排除しててめぇを殺す!!!」
「…隊長、僕、こんなにムカついたのはじめてだよ。」
「安心しろ、俺もだ。」
『ワヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!
お主、筋金入りのキチガイよのお!!??
こんなに愉快なのはリミトとおった時以来じゃわい!!』
黒蜘蛛の連中が騒いでいるが、俺の暴走は止まらない。
きっと、奴らから受けたストレスが異常だったせいだろう。
うん。
そうに違いない。
「ククク!
そこの副隊長!!
何が『僕、こんなにムカついたの初めてだよ』だあ?!
こちとら、キサマの気色の悪い喋り方にずぅ〜っとムカついてんだよお?!!
このサイコ野郎!!」
「…な!?」
「キサマ、俺の部下までも…!?」
「だぁまぁれい!!
テメーもだ!この蜘蛛頭!!
なぁ〜にが『貴様が死ぬ理由はそれで十分だ』だ!
あ!
もしかして、アレ?アレでしょ?!
そのセリフ、カッコいいとか思っちゃってんでしょお?!」
「おんのれぇ貴様ぁ!!!!」
まあ、そのセリフを作ったのは俺だが、今はそんなの関係ねぇ!!
「ププププ!
ハッキリ言って、アレちょーダサいよ?!
ちゃんと、誰かが教えてあげないとね!
だいたい、この世に死んでいい理由なんて何一つないって小学校の道徳で習わなかった??
ネトくぅ〜ん、だめだなぁ。
黒蜘蛛の隊長がそんなんじゃあ。
キミ、小学生からやり直しね!」
「………総員、戦闘態勢を取れ。」
『ワヒャヒャヒャヒャ!!!
あー、腹痛いわい。
…どれ、こちらもソロソロやるとしようかの。』
ブチ切れたネトの一言で黒蜘蛛は戦闘態勢を取り、チューニートもそれに応じる。
邪竜は再びブレスを放とうとした。
——そして。
プスンッ、と。
ただの呼気しかでなかった。
「クハハハハ!!
朽ちよ!
古の邪竜の咆哮にて……」
『……すまん。
電池切れじゃ。』
「……へ?」
チューニートが言った言葉の意味を俺はしばらく理解できなかった。
「………………………え?」
そして———
「うおおおおおおおお!!!!!」
「やれぇえええ!?!ぶっ殺せええぇええ?!!」
「殺す殺す殺す殺す殺す!!!!」
「奴はどうせ死なんのだ。
魔王様の元へ連れていくまで、永遠に殺し続けてやろう。」
「わ〜い!楽しい遊びができたぞお?!?」
———黒蜘蛛が襲いかかって来た。
うん。
そりゃそうだよね。
「ってヤバイヤバイヤバイヤバイ!!
おい、チューニート!!
どうにか出来んのか?!?」
『血を流せ。』
「…は?」
『右腕の血を流せ。
そうすれば、我が地上で解放できる力は増大する。』
「…まじ?」
『マジ。』
「おれ、今日は血を流しすぎてて、、、」
『あー、それはまずいの。
雑兵はともかく、敵の主力2人をやるには、ちと体力がいる。』
「…やべぇじゃん。」
『ワハハハハハ!!
安心せい!
お主が気を失うまで血を流せば、逃亡するくらいの体力は注がれるじゃろうて!!』
「お前!
だったらなんで、さっき大技無駄撃ちしやがったんだよ!?」
『ワハハハハハハ!!
それをお前に聞かれるとはのお?
そんなもん、決まっておる!
ノリじゃ!!!』
「てめー!ふざけん…」
『ちょっと失礼。』
ガプリ、と。
チューニートが、俺の右腕を噛んだ。
「ガハァッ!」
どくどくと血が流れる。
『フム。
たしかに、血の量が少ないの。
まあ、よい。
それじゃ、行くぞ!!』
「ちょ…そこの木人2人も、連れてってくれ…。」
俺は血が抜けて、遠くなっていく意識の中でチューニートに言った。
『よかろう!!
お主の仲間ならば歓迎じゃ!!
フゥーハハハハハァア!!!』
チューニートはそう言うと、ミモザとセスクを拾い上げ背中に乗せた。
「キャッ!」
『女子よ。
気をつけて捕まっておれよ?!
一気に行くからのお?」
チューニートはグッと、足に力を込める。
すると、黒蜘蛛達が憤怒の形相で攻め寄ってきた。
「待てこらああ!!!」
「くらえこの!!」
「おらあああ!!」
最初、一切無駄口を叩かず、粛々と任務の遂行に勤めていた暗部組織の面影は見る影もない。
これが、厨二の力というもの。
人の本質を暴き出す!
その力にはたとえ黒蜘蛛でさえ抗えない!!
「フゥーッハッハッハッ…ぐはあっ!!!」
「ソージさん!!大丈夫ですか?」
ネトが追尾式の矢を放って来た。
その標的は、チューニートではなく俺にしたらしい。
たしかに、この邪竜に射ったところで効かんからな。
賢い選択だ。
「ククク。
さすが俺が作ったキャ…ぐはうっ!!」
「ソージさん!!」
『ワハハハハハ!!
良いぞ!
運良く、右手に当たってくれて我の力が漲ってきおった!!
それでは、ゆくぞ!!!』
そうして、邪竜は力強く地を蹴ると、浮き上がった体を一回転させてから、翼を広げ、大きく羽ばたいた。
「うおっ!」
「…きゃあっ!」
ブワッ、と。
魔法でもないただの羽ばたきでも、ものすごい風圧が発生する。
俺とミモザは、セスクが落ちないように必死で支えながら、何とかチューニートの背中にしがみつく。
次の瞬間、チューニートの体は凄まじい速度で飛翔し、一瞬のうちに天高く舞い上がった。
地に残されたのは黒蜘蛛だけだった。
「…隊長。あいつ、ぜったい捕まえよう。」
「無論だ。」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
「あのクソガキがぁ!!」
「があー!!!」
この日、黒蜘蛛にはソージへの怒りと執着心が生まれたのだった。
つづく
———————
※補足
(制圧について)
制圧を使うためには、【特性】として持っている必要があります。
魔法ではないので、魔力の消費などはありません。
また、どんなに強くても特性として【制圧】を持っていなければ使えません。
一方で、弱くても生まれながらに制圧を持っている者もいますが、発動には相当な実力差が必要なので、強くならないとあまり意味はありません。
ドラゴンは基本的にデフォルトで持っていますし、魔獣や屍人族の中にも使える強キャラはいます。




