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第22話「黒蜘蛛 vs 英雄」

※セスクの特性【軍の申し子】の名称を【戦の申し子】に変更しました。効果は変わりません。


それから、本話の後書きにセスク・ベン・ネトの特性と称号の詳細を載せています。


それでは、本話もご愛読よろしくお願い致します!


 黒蜘蛛の隊長ネト=ハルマクラは、魔王の命を受けて以来、【花村想実(はなむらそうじ)】の捜索に全力を上げていた。


 近隣の街や村を調査し、有益な情報がないかしらみ潰しに捜索。

 情報がなければ次の街へ。


 そうして、捜査の手が城塞都市ヴェルニカに伸びた時、気になる情報を入手した。



 それは、闘技場(コロシアム)であった出来事だ。


 つい先日、初出場の鬼人族が試合に出て優勝したという。


 まず、それだけでも滅多にないことだが、問題はその大穴を当てたという賭博客(ギャンブラー)だ。


 1人はしょっちゅう闘技場(コロシアム)に来て賭けをしている「だっぺ」が口癖の壮年男。


 これは、まあただのギャンブラーだろう。


 だが、ソイツと一緒に肩を組み、奇妙な歌を歌っていたという人物が問題だ。


 その男は、それまでに闘技場(コロシアム)で目撃されたことはなかった。


 しかも、「ソージ」と名乗っていたというではないか。


 下の名前が【花村想実】と一緒である。



 そこで、その「だっぺオヤジ」を探し出して問い正した。


 すると【ソージ】という男は、旅の途中に盗賊に襲われ、命からがら逃げ出し、ヴェルニカのスラムにやって来たと言っていたそうだ。


 それも、ヴェルニカに来たのは闘技場(コロシアム)で目撃された前日というではないか。


 

 ネトが【花村想実】を取り逃したのが、6月4日。


 【ソージ】という男がヴェルニカにやって来たのは6月8日ということになる。


 【花村想実】を取り逃した場所からなら、もっと早くヴェルニカに行くことは可能だが、奴は怪我をしていたから普通よりも時間がかかったと考えられる。

 あるいは、真っ直ぐ向かったわけではないのかもしれない。


 そう考えると時系列的にも合致する。



 つまり【ソージ】という男は、【花村想実】が逃亡したのと同じようなタイミングで街にやって来て、初出場の鬼人族が勝利するという偶然に居合せ、さらにその大穴を当てるという奇跡を演じた。


 奇妙な偶然である。


 他に目ぼしい情報もなかったので、その男の捜査をさらに続けると、とある居酒屋で件の鬼人族を奴隷として買っていたことが分かった。

 それも、割に合わない大金を払おうとしたとのことだ。


 そして、その日の内にその鬼人族が闘技場(コロシアム)に出場し、優勝を掻っ攫い【ソージ】は大儲けを果たした。


 …その鬼人族は武器を持ったこともなかったのにだ。


 さらには【ソージ】は、鬼人族の男を買う前に闇金で多額の借金をしており、賭博で稼いだ金で次の日には返済したという。


 まるで、最初から知っていたようではないか。



 ネトの時もそうだった。


 ネトの名前を知る者など、魔王クルエルと黒蜘蛛の副隊長ベン・クォークしかいないはずなのに、奴は当たり前のようにその名を口にしたのだ。



 明らかに怪しい。



 さらに情報を集めていると、予想外の所から驚くべき情報が入った。



 なんと、100年の間『屍将の呪い』によって閉ざされていた謎と危険の森(ミスティリスク)の呪いが、解呪されたというのだ。


 そんなことは滅多に起こることではない。


 先日の不吉な前兆(アポカリプス・ワン)に続き、ヴェルニカでの闘技場(コロシアム)にまつわる出来事、そして謎と危険の森(ミスティリスク)の解呪。


 すべて、この期間の中で移動可能な範囲で起こっている。


 一連の出来事が【花村想実】によるものだと言うには早計だが、疑うには十分すぎる。



 ネトは黒蜘蛛を引き連れ、謎と危険の森(ミスティリスク)に向かった。



 そして、黒蜘蛛の探索部隊によって探知魔法を行使した。


 探知魔法は人間の魂の波動そのものを検出する魔法で、【探索者】【探偵】【捜査官】などの職業で身につけられる能力だ。


 【花村想実】の魂の波動は、以前取り逃した時に記録済みだった。


 数日かけて森を探索していった所、森の中に【花村想実】の魂の波動を検出した。



 奴は間違いなくこの謎と危険の森(ミスティリスク)にいる。



 とはいえ、森の中は木髭(エント)達がいるため暴れることはできない。


 しかも、もし森の解呪が【花村想実】の仕業だとするなら、木人(ドライアド)を仲間にしていると見た方がいい。



 木人(ドライアド)の中には、実力者が2人いる。


 英雄と賢者だ。

 彼らと森の中で戦闘になれば勝ち目はない。



 もしも、やり合うなら森の外———



 こうして、ネト率いる黒蜘蛛は謎と危険の森(ミスティリスク)の外側で、【花村想実】を待ち伏せするのだった。









 

 








 謎と危険の森(ミスティリスク)から、西南へ3km。


 小高い丘の陰に隠れた、人通りのない野道で、黒蜘蛛と英雄は対峙していた。


 英雄は剣を正面に構え、あらゆる方向に対し、警戒を向けている。

 周囲には3人の黒蜘蛛。

 その後方に先程セスクに一撃を入れられた2人。


 左へ数メートルの所には、気を失っている女兵士ミモザと、ソージ。

 彼らには黒蜘蛛がそれぞれに2人ずつ張り付いて、人質のように確保している。


 右側には蜘蛛の頭——ネト・ハルマクラがいた。



「…ほう。

 さすがは森の英雄だな。

 うちの隊員の奇襲を受けて倒れないばかりか、反撃してみせるとは…。」



 不気味で、感情の起伏を感じさせない平坦な声でネトが言った。


 対するセスクは務めて冷静に振る舞い、鋭い視線で問い返す。



「…何者だ?」

「答えると思うか?」


 至極、真っ当な問い。

 当然、襲撃者は答えない。

 セスクは質問を変える。



「…我らに何の用だ?」

「用があるのはそこの男だけだが…

 奴は姿を消す厄介な能力を使うからな。

 せっかく捕らえたのに、逃げられては敵わん。

 1()()人質になって貰う。」



 ソージを連れていくために『1人』人質にすると。

 ネトはそう答えた。


 ソージの他に、ここにいるのはセスクとミモザ。

 数が合わない。


 それはつまり——



「お前には死んで貰う。

 人質にするには少し強すぎるからな。」

「…?!」



 次の瞬間、黒蜘蛛達が一斉に動いた。



 周囲の3人が同時に攻撃を仕掛けて来る。


 1人は左からナイフで斬りかかる。

 1人は右から蹴りを入れて来る。

 1人は正面からタックルを仕掛けて来る。


 さらに、先程セスクが一撃を入れた2人が後方から何やら魔法を発動している。

 捕縛魔法を使い、セスクの行動の自由を奪おうとしているのだ。


 その上、ネトも同時に動いていた。


 蜘蛛の頭はセスクの唯一の逃げ場であった背後に周り込み腰に蹴りを繰り出す。



 見事なまでの連携。

 一切の容赦もない対象を殺すためだけのチームプレイ。


 彼らはこのようにして、これまで何人もの人間を捕らえ、殺してきたのだ。


 その中には当然かなりの実力者も含まれている。


 だからこそ、相手が屍将を屠った英雄であろうとも恐れることも侮ることもせず、迷いなく行動して来る。



 英雄に逃げ場など何処にもない。

 絶体絶命のピンチ。


 

 しかし、セスクは逃げようとさえしなかった。


 彼は深く腰を落とし、目を天に上げると、腹の底から咆哮を放つ。


 次の瞬間、黄緑色に輝くオーラが英雄から溢れ出し、円が広がるように周囲へと拡散していった。


 オーラは英雄を取り囲んでいた黒蜘蛛を吹き飛ばし、霧散する。


 しかし、セスク本人の体はなおも黄緑色に輝くオーラを纏い続けていた。


 

 軍系上位職【司令官】の持つ奥義——〔無双モード〕である。



 無双モードは、術者の基礎能力を著しく引き上げるモードで、軍隊同士の激突における乱戦時に、驚異的な力を発揮する。


 しかし、発動時間には制限がある。


 職業ランクや、レベルに応じて、能力の向上度合いや、継続時間が変わるのだ。


 それゆえに使い所が重要な諸刃の剣でもある。


 セスクは、この僅かな時間の間で、敵が相当な手練れであると判断し、一切の出し惜しみをせず奥の手を使ったのだ。


 黒蜘蛛も()る事ながら、彼もまた百戦錬磨の戦士である。

 数多の戦場を潜り抜けてきた経験から、力の使い所を知っているのだ。



 さて、セスクはオーラで周囲の敵が吹き飛び、一瞬できた隙を見逃さなかった。


 吹き飛んでいる敵には目も暮れずに、敵の手にあるソージとミモザの元へと走り出す。


 尋常ではないスピードで地を蹴る英雄。


 しかし、次の瞬間セスクと人質の間に2人の者が割って入った。


 

 ひとりはオーラで吹き飛ばされたにも関わらず、見事に受け身を取り舞い戻ったネト。


 そして、もう1人は——



「はい、スト〜ップ!

 お兄さん、強そうだからちょっと僕と遊んでよ?」



 小柄な体格に禍々しい狂気を孕んだ黒髪の男。

 軽薄で神経を逆撫でする声。

 黒蜘蛛の副隊長ベン・クォークである。


 彼はさっきまで姿の見えなかった新たな刺客だった。


 実は、姿を現していないだけで、さらに何人もの黒蜘蛛がこの場所を取り囲んでいるのだ。


 その数は全部で20人。


 しかも、ベンとネトはA級暗殺者の実力を持つ男。

 つまり、今英雄の前に立ちはだかっているのは2人とも10万人に1人の実力者だ。



 しかし、セスクは引くわけにはいかない。

 なにせ〔無双モード〕の時間はそう長くないのだ。


 普通に使うなら5分程度が無理のない範囲。

 限界まで使っても10分少々。


 だから、迷っている暇はない。


 そもそも、セスクは軍人。

 軍の乱戦においては駆け引きもクソもない。


 迷わずに動き続け、遮るものを薙ぎ倒し、迫るものは反射で躱す。


 その連続なのだ。


 一瞬でも迷えば死ぬ。

 それが戦場だ。


 そんな修羅場に身を置いてきたセスクは寸分の迷いも見せずに、立ちはだかる2人をまとめて薙ぎ倒さんと剣を腰に構える。


 ところが、ネトは英雄にではなく、自身の背後に向かって合図を送った。

 そこにいるのはソージとミモザを確保していた部下。


 合図を受けた部下はナイフをソージに振り下ろした。



 ——グサリ、と。


 ソージの右足の太腿が貫かれた。



「うああぁああぁあ!!!」



 意識を失っていたソージが、あまりの痛みで目を覚ました。



「…貴様!!」



 セスクは瞬時にその意味を悟った。

 つまり、抵抗すれば人質を傷つけるということだ。


 だが、そんなことでセスクは止まらない。


 なぜなら、コイツらはソージに用があると言った。

 そして、ミモザはその人質であると。


 だから、ソージとミモザを殺さないことは分かっている。


 だから、2人には手を出さないと踏み、全力で戦闘行動に及んだのだ。


 凄まじい勢いでセスクの剣が振るわれると、ベンの短剣と、ネトの剣が纏めて弾かれた。

 

 すると、軽薄そうな調子でベンが言う。



「…ひゅう〜!

 凄まじい武力だねぇ。」

「…やれ。」



 それとは対照的に表情ひとつ変えていないネト。

 彼の言葉にソージを捕らえていた男が再びナイフを振り下ろす。



「がああぁあああぁ!!!」



 今度はソージの左足の太腿が抉られた。

 


「…貴様ら!!」

「…なに、心配するな。

 奴は()()()()()()()()()のだからな。」

「…?!」



 無感情に恐ろしいことを言ってのける目の前の男。


 どうやら、コイツらはソージがどれほど痛めつけても死なないと知っているらしい。


 それで、セスクが抵抗するたびにソージを傷つけるつもりなのだ。


 しかも、奴らはソージに太い縄で猿轡をして、喋らせないようにしている。


 ソージが「ことば」によって姿を消すことを知っているからだ。



 ———しかし。



 それでもセスクは迷わなかった。


 彼はこれまで幾度も仲間の死を体験してきた。

 いや、死よりも悲惨な目に遭うのを見てきた。

 

 屍将ヴォルデスとの戦いでは、数多の同胞が殺され、拷問に駆けられ、目の前で陵辱された。


 ヴォルデスだけではない。


 これまで、対戦してきたあらゆる敵がそんな事をしてきた。


 それは卑怯と非難されるべきだろうか?


 たしかに、そうかもしれない。

 実際、高潔な心を持つセスクは忌み嫌う行為だ。

 

 しかし、命を賭けた戦場において、卑怯などという言葉を発するのは甘えでしかないのだ。


 (おのれ)がせずとも、敵はする。


 だから、そんな覚悟は常に出来ている。



 まして、ソージは死なないのだ。

 幸い()()()のミモザにはまだ攻撃されていない。


 しかし、された所で止まるセスクではない。


 なぜなら、彼女は戦士なのだから。

 彼女は森の呪いを解くために戦士となった日に、とっくに命を捨てているのだから。


 もし、ここでセスクが止まったなら、ミモザは目を覚ました時激怒するだろう。


 だから、セスクは止まらない。


 その代わりに、コイツらを確実に仕留めるべく全力の一撃を繰り出した。



「おっ!そうこなくっちゃ!!」

「……」



 ベンは楽しそうに。

 ネトは無言で。

 各々に戦闘態勢で身構えている。

 


 セスクから放たれた斬撃は黄緑色のオーラを纏い、剣閃の延長戦に伸びていく。


 〔無双モード〕で放たれた渾身の一撃は、流石のA級暗殺者でさえ、防ぐので手一杯だった。


 2人は飛んできた斬撃をそれぞれの武器で食い止めているが、足場ごとズリズリと押されている。


 その隙にセスクは、ソージとミモザについている4人を相手取る。


 

 2人がそれぞれを抱え、その盾になるようにして、残りの2人が出てくる。



 次の瞬間、悲鳴が2つ響き渡った。



「ぐがあぁああ!!!」

「ゔああああぁあああ!!!」



 奥の2人は俺の動揺を誘い、今度はソージだけでなくミモザも斬りつけた。



 しかし、セスクは止まらない。

 いや、だからこそ止まらない。


 2人を助けるため。

 戦争を止めるため。

 悪に屈しないため。



 だからこそ彼は【高潔】なる心を持った《悲哀の英雄》なのだ。


 その【特性】と《称号》はこのような状況下でますますセスクの力を引き出す。


 すなわち、悪に屈せず正義を貫く時。

 悲しみに立ち向かい、犠牲を厭わず他者のために戦う時。


 彼の能力は驚くほどに引き上がる。


 セスクは引き上がった能力値で目の前の2人を、まとめて吹き飛ばそうと剣を一閃した。



 ———ところが。



 先程オーラで吹き飛ばした者たちが、5人まとめて、セスクの動きを捕縛魔法で縛っていた。


 流石の無双モードでも、B級5人がかりの捕縛魔法を掛けられては、攻撃の威力が落ちてしまう。


 そのため、セスクの剣戟は2人に受け止められてしまい鍔迫り合いとなった。


 その上、どこかに隠れていた黒蜘蛛の隊員が一斉に魔法や弓矢を放ち、遠隔攻撃を仕掛けてきた。


 セスクは、剣を逸らし鍔迫り合いをしていた2人と距離を取る。


 すると、2人はさらに追い討ちをかけるように剣戟を放ってきた。


 迫り来る魔法・矢・剣戟。


 セスクは捕縛魔法を掛けられたまま、回転斬りにて全ての攻撃を斬り伏せた。



「…わぉ!すんごいなあ!?」



 すると、先程放った斬撃を消滅させたベンが、回転切りの反動で隙ができたセスクに背後から短剣を突き刺そうとした。


 一方ネトは、気配が見つからない。


 しかし、ベンが既にここにいるということは、ネトも攻撃態勢に入ってる可能性が高い。

 おそらく気配を殺して死角を狙っているのだろう。


 さらには捕縛魔法は掛けられたままで、そのうえ第二波の遠隔攻撃が仕掛けられている。


 先程は、A級2人抜きの一斉攻撃だったから回転斬りで何とかなったが、次はそうもいかないだろう。


 それを悟ったセスクは再び天に向かって咆哮を上げた。



「カァッ!!」



 無双モードの『咆哮』は、全方位に防御不能のオーラを繰り出すことが出来るのだ。

 しかも、術者が敵と認識しているものだけに有効である。


 しかし、その超絶的な効果の代償としてオーラを一気に消費してしまうため〔無双モード〕の残り時間が一気に減ってしまう。


 セスクは発動時と合わせて2度目の咆哮を使ってしまったから〔無双モード〕が持つのはあと数秒だろう。

 黒蜘蛛を相手に勝利するには絶望的な時間である。

 

 しかし、セスクの目的は勝利ではない。


 最初の時点で、黒蜘蛛が相当な実力者集団であると見抜いていたセスクは、勝利するという選択肢を瞬時に捨てていた。


 むしろ、この状況での本当の勝利条件は『逃亡に成功すること』。



 セスクは、黒蜘蛛が吹き飛ばされたことで空中に放り出されたソージとミモザをキャッチすると、全速力で駆け出した。



(森にさえ入ってしまえば…!!)



 そう、つい先程出たばかりの謎と危険の森(ミスティリスク)


 そこに入ってしまえばセスクは無敵の力を誇る。

 何せ、森中の木髭(エント)が彼の仲間なのだから。


 

 森までの距離は約3キロ。



 2人を抱えての逃走は半端ではないが、セスクは【職業】【特性】【称号】などによって強化された強靭な体で走り出した。


 そして、次の瞬間に〔無双モード〕が切れる。


 ガクッとスピードが落ちるが、構わずに足を踏み出し続けた。



 オーラによって吹き飛ばされた黒蜘蛛は、既に起き上がっている。


 半端な相手ならば、オーラを一発食らっただけでも、失神するだろう。

 中には即死するものもいるくらいだ。


 しかし、奴らは1人も倒れていない。

 恐ろしいまでの実力者集団なのだ。


 セスクはとにかく走る。

 前だけを見て必死に走る。


 黒蜘蛛は全速力で追いかけてきていた。



「うひゃ〜、楽しいねぇえ!!

 森の英雄と追いかけっこだ!!」


 この場に似つかわしくない、軽薄な声がどんどんと近づいて来る。


 さらに悪いことに、追いかけて来る黒蜘蛛のさらに後ろから複数の矢が飛んできた。


 矢は明らかに外れていたのだが、その内の一本があり得ない弾道を描きセスクの方へと曲がって来た。

 

 ネト・ハルマクラの放った矢である。


 彼は暗系上位【暗殺者】を職業としている。


 【暗殺者】には、追尾式の投擲能力があるのだ。


 有効範囲や、攻撃力は職業ランクとレベルによって変わるが、今のネトとセスクの距離くらいは訳のない距離だった。



 しかも、彼は暗殺のプロ。

 攻撃の気配を殺して矢を放った。


 対して、セスクが活躍してきたのは戦場。

 剥き出しの殺意が渦巻く場所。


 その気配を察知して、戦ってきたのだ。

 前だけを見て一心に走っていた彼は、背後から迫る矢に直前まで気づかなかった。


 そして、矢が背負っていたソージごと、セスクを貫こうとした寸前。


 彼は足元に映る矢の影に気がつき、体を捻ってすんでの所で回避した。



 ——ところが。



 外れたはずの矢は、唐突に軌道を変え、セスクの背後に迫ってきた。


 止むを得ずソージとミモザを放り投げながら、体を反転させると振り向きざまに剣で矢を叩き斬る。


 しかし、ネトの放った矢の威力は凄まじく、簡単には切れない。


 〔無双モード〕が解除された今、ネトとセスクの実力は伯仲しているのだ。


 何とか矢を斬り伏せたセスクだったが、さらに何本もネトの矢は放たれていた。


 次々と襲いかかる矢の嵐。

 火・水・氷・雷、あらゆる属性の遠隔魔法。

 さらに追いついてきた黒蜘蛛達。



 もはやここまで——



 セスクは天を仰ぎ、祈るように一瞬目を閉じると、次の瞬間カッと目を見開いた。



「ガアッ!!!!」



 英雄の咆哮は、黄緑色のオーラとなって迫り来る黒蜘蛛と、矢の嵐を(ことごと)く弾き飛ばし、地に叩き伏せた。



 ———そして。



 英雄は力尽きた。


 

 セスクがうつ伏せに倒れると、瞼がゆっくりと閉じていく。


 そこにいたのは、蟻だった。

 自分の体よりも遥かに大きいカマキリの死体を、何匹もの蟻が束になって、せっせと運んでいる。


 一匹では到底敵わないであろうその相手。

 ならば、大勢でかかる。


 それは自然の摂理だった。


 ちょうど、英雄セスクを襲った黒蜘蛛のように。


 

 セスクは気が遠くなる最中(さなか)、ぼんやりとした意識の中でそんな光景を見たのだった。






 つづく









————






※補足 (ネト、ベン、セスクの特性と称号の詳細について)



 セスクは無双モードを使えば個人でもかなり強いですが、特に本領が発揮されるのは軍隊として戦争を行う時や、リーダーとして集団戦を行う時です。


 対して、黒蜘蛛は100年前のセスクの情報から対策をして暗殺しに来ています。


 なので、状況的には黒蜘蛛が圧倒的に有利です。


 以下に3人の特性・称号の詳細を載せます。

 以前載せたステータスも併せて載せときます。







【ネト・ハルマクラ】

 魔人族,男,786歳

 国 :神聖大魔王国

 所属:黒蜘蛛

 職業:暗殺者〔中:Lv.82〕


【ライセンス】

 A級暗殺者

 A級諜報員


【既修職】

 間者 工作員 

 諜報員 スパイ


【特性】

 暗心 忍足 模倣 殺意 


【称号】

《魔王の懐刀》

《影の殺戮者》

《百の顔》

《知られざる者》




※特性と称号の詳細



【暗心】

〔暗系職〕に適した精神

(効果)

〔暗系職〕の獲得経験値2倍




【忍足】

 忍者のように気配を殺した素早い足。

(効果)

 俊敏性が上がる

 移動中の気配を殺せる(姿が消えるわけではない)




【模倣】

 見たものを模倣する力

(効果)

 自身の能力の範囲内で再現可能な技を視認することで、とても早いスピードで身につけることができる。(技に限らず動作全般。見て瞬時に模倣できるわけではなく、訓練して身につけるまでの早さの上昇)




【殺意】

 対象を殺す強い意志

(効果)

 対象を殺意によって威圧し、動きを鈍らせる(俊敏性が少し低下。対象の精神力に左右される)

 殺意の気配をコントロール出来る

 



《魔王の懐刀》

 魔王に信頼される実力のある秘密の忠臣

(効果)

 魔王の命令により行動する時、基礎能力が少し上昇

(獲得条件)

 魔王から、他の者に知らされていない任務を直接拝命し、完遂する(10度以上)。




《影の殺戮者》

 暗殺のプロ

(効果)

 暗殺、及び目撃者のいない戦闘において、俊敏性と攻撃力が上がる

 気配のコントロールが出来るようになる

(獲得条件)

 100人以上の暗殺





《百の顔》

 百の顔を持つ男

(効果)

 容姿を変えることが出来る。

(獲得条件)

 自身のことを100以上の別の存在として、誤認されること。




《知られざる者》

 正体不明の実力者

(効果)

 自身の本名を知らない者と対峙する時、相手の俊敏性が少し下がる(相手の精神力に左右される)

(獲得条件)

 本名を知られないでB級以上のクエストを達成する。(10個以上)







【ベン・クォーク】

 魔人族,男,784歳

 国 :神聖大魔王国

 所属:黒蜘蛛

 職業:忍者〔初:Lv.26〕


【ライセンス】

 A級暗殺者

 A級諜報員


【既修職】

 間者 探偵

 諜報員 名探偵


【特性】

 推理力 心眼 俊足 怪力


【称号】

《影の殺戮者》

《執念の追跡者》




※特性と称号の詳細



【推理力】

 類稀な推理力

(効果)

〔探系職〕の獲得経験値2倍




【心眼】

 本質を見抜く心の眼

(効果)

 見たものを少し鑑定できる



【俊足】

 足が速い

(効果)

 俊敏性が上がる


 

【怪力】

 優れた筋力

(効果)

 筋力が上がる





《影の殺戮者》

 暗殺のプロ

(効果)

 暗殺、及び目撃者のいない戦闘において、俊敏性と攻撃力が上がる

 気配のコントロールが出来るようになる

(獲得条件)

 100人以上の暗殺




《執念の追跡者》

 強い執念で対象を追跡する者

(効果)

 追跡魔法の威力が上がる

 追跡時に体力、俊敏性が上がる

(獲得条件)

 対象の追跡を三日三晩休まず行うこと








【セスク・ウッドポッド】

 妖人(木人ドライアド),男 , 421歳

 国 :木人の里

 所属:木人軍〉木人精鋭部隊

 職業: 司令官〔上級:Lv.18〕

    (軍系上位職)



【ライセンス】

 S級軍人

(屍将ヴォルデスを倒した功績が評価されS級になった。)


【既修職】

 歩兵 騎兵 弓士 弓豪


【特性】

 高潔 森の心 勇敢 武才

 リーダーシップ 戦の申し子


【称号】

 《森の守り手》

 《木髭の友》

 《屍将殺し》

 《悲哀の英雄》






※特性・称号の詳細



【高潔】

 悪に屈しない高潔な心

(効果)

 精神力が上昇する。

 他者のために行動する時、基礎能力が上昇する。

 悪に対して立ち向かう時、基礎能力が上昇する。

(世界が悪と認識するもの)

 



【森の心】

 森に住むあらゆる生物と通じ合う心。

(効果)

 周囲のあらゆる生物と同時に会話できる。

 それらの生物を仲間にできる。

(森に生息するものに限る)




【勇敢】

 勇気を持って行動する力

(効果)

 精神力が上昇する。

 格上との対戦時、基礎能力が少し上昇




【武才】

 武の才能

(効果)

 武力に関する職業の獲得経験値2倍





【リーダーシップ】

 優れたリーダーシップ

(効果)

 リーダーになると仲間の基礎能力が少し上昇する。




【戦の申し子】

 戦うために生まれてきたと言われるほどの戦の才能

(効果)

〔軍系職〕の獲得経験値10倍

 戦いにおける行動選択のアイディアや判断が優れる








《森の守り手》

 侵略者から森を守っている者

(効果)

 森の中において防御力が上昇する

 森の生物からの好意を受けやすくなる

(獲得条件)

 森に害をなす者を50回以上撃退する。

 あるいは、森の滅亡の危機を救う(一度でいい)


 ※セスクはどちらも達成しています。






《木髭の友》

 木髭から認められた友人

(効果)

 木髭の近くにいると攻撃力上昇

 木髭が近くにいると一緒に戦ってくれる

 木髭からの信頼を受けやすい

(獲得条件)

 100体以上の木髭と友達になる

 あるいは木髭王に認められる功績を残す






《屍将殺し》

 屍将を屠った者

(効果)

 屍人族に対する攻撃力が大幅に上がる

 屍将に対する攻撃力が爆発的に上がる

(獲得条件)

 屍将を殺す





《悲哀の英雄》

 悲劇に見舞われた英雄

(効果)

 悲しみを伴う状況で、それでも他者のために行動する時、攻撃力が大きく上昇する

(獲得条件)

 仲間の犠牲を乗り越えて他者のために戦い、勝利すること。(10度以上or戦争などの大規模な戦い)



※下位互換に《悲哀の戦士》《悲哀の勇士》がある。








 

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