第21話「襲撃」
さて、木人の里を出発した俺たちは3人で謎と危険を南に向かって歩いていた。
呪いの解かれた森は清々しく、新鮮な空気に満ちている。
時折、木髭や魔獣達と会話するセスクやミモザの姿は、まさしくファンタジー世界そのもので、素晴らしく幻想的だった。
俺がキラキラした顔でその様子を眺めていると、ミモザが特性共有を使って、俺にも森の生物の声を聞こえるようにしてくれた。
俺のテンションは爆上がりだったのだが…
俺は木髭達から嫌われてしまっていた。
理由は明白。
ここ一週間、レベル上げのために木髭達に石を投げつけまくったからだ。
俺の精神はどん底に叩き落とされた。
だって憧れるだろ?
森に愛される男。
自然を愛し愛される男。
厨二たる者そうでなきゃだろ??
なのに、俺は森に嫌われてしまったのだ…
「うおおおおおぉおぉおお!!!!??
この俺が一体何をしたと言うのだああぁあ?!!?」
(石を投げた)
(高笑いしながら石を投げた)
(何度も何度も醜悪な笑みで石を投げて来た)
俺の叫びにそこら中の木髭達が即座に返答してくる。
実際に石を投げたのは1時間に1回ペースなので、森中の木髭というわけではないはずなのだが、どうやら一週間の間で、悪い噂が広まってしまったらしい。
いや、木髭にも噂というものがあるのだな…
制作者としたことが、、想定外だ。
いや、ここのところ想定外ばかりなのだが。
とはいえ、ミモザとセスクが、俺のことを弁護してくれて一応、木髭達とも仲直りできた。
主に呪いの武具を回収した実績を盾に弁護してくれていた。
うむ。
本来なら、森の救世主として木髭達からの愛情を一身に受けるはずだったのに…。
やはり自重することも時には大切なようだ。
しかし、何かを得る為には何かを犠牲にしなければならないというのは世の常!
俺は「森の愛情」を犠牲に「経験値」を手にしたのだ!!!
ククク。
愛を犠牲に強さを手に入れるなど。
厨二っぽいじゃねぇかあ!!!
最高だあぁあ!!!
「フゥーッハッハッハッハアァア!!!」
「…ソージさん、あんまりショック受けてませんね?」
「これは、弁護する必要なかったか?」
「案ずるな!森の英雄よ!!
もちろんあった!!!
フゥーッハッハッハッハアァア!!」
と。
こんな調子で旅路を行くのだった。
◇
「…では、ソージ殿。
我々は、まず城塞都市ヴェルニカに向かいアデルフォス孤児院にてエルフ修道士の『フィン・フィルディン』と合流。
その後、『首都アンノール』に向かうと。
…そういうことだな?」
「ええ、その通りです。」
道すがら今後の予定を2人に話すと、セスクが俺の言った内容をまとめてくれた。
そう、俺はこの後一旦ヴェルニカに戻り、孤児院でフィンと合流する予定だ。
なぜ最初からフィンを連れて来なかったのかというと、謎と危険の森の呪いの武具の回収が〔ステルスモード〕を使った1人プレイでないと不可能だったからだ。
それに、孤児院の仕事もあるので、いたずらに彼を連れ出すことはできなかった。
だが、仲間が増えた今、少しでも長い期間一緒に行動した方がチームの連携が深まる。
『魔王クルエル解呪作戦』の成功率を少しでも上げる為、まずは一旦フィンと合流しておきたかった。
そして、合流を果たしたらバリエッタの首都『アンノール』へ向かいたいと思っている。
アンノールへ向かう目的は3つ。
1つ、『黒焔槍鬼・ベイムラス』への協力要請。
2つ、強力な聖職者を仲間にすること。
3つ、アンノールでしか出来ない裏ワザを使うこと。
ベイムラスは首都アンノールにて家族と過ごしている。
元々、家族とゆっくり過ごして貰うために自由の身として解放したのだが、戦争を止めるという大義名分が出来た。
それに、もしも戦争が起こればやがてベイムラスも徴兵される可能性がある。
それくらいなら俺が軍よりも高い給料で雇い、未然に戦争を防いでやった方がいい。
奴にとってはちょっとした出張みたいなものだ。
こちらとしても、魔王の領地に侵入しようというのだから、強い奴がいてくれるに越したことはない。
次に、強力な聖職者についてだが、フィンがいくら強者であるとしても流石に1人で呪會王マレの呪いを解呪は出来ない。
他にも聖職者が必要だ。
とはいえ、人数が多くなるほど潜入作戦としては都合が悪い。
なるべく少数精鋭で行きたいので、より強力な聖職者が必要なのだが、アンノールにはまさにうってつけの人物がいるというわけだ。
3つ目に、アンノールには世界一腕が悪い鍛治師の溜まり場がある。
そこにとある物を持っていって暗号を唱えれば、ぶっ飛び性能の武器が出来上がる。
つまり強力な装備を手に入れる裏ワザだ。
そうすれば、俺は【夢人】に達するまでのクソ雑魚期間もある程度戦うことができるわけだ。
ククク。
待っていろ、アンノール!
この俺様がお前の所に行くからなあ!!
と。
俺がニヤニヤしていると、隣の女戦士も顔を綻ばせていた。
だが、俺と違って下品な笑みではない。
なぜこうも差が出るのだろうか。
顔の造形の問題だろうか。
それとも、心の問題なのか…。
とにかく、女戦士は屈託のない笑みを浮かべて言った。
「…ふふふ!
楽しみだなぁ、バリエッタ王国!!」
ミモザは期待に胸を膨らませ、輝くような表情で景色を眺めている。
昨日まで好奇心旺盛な箱入り娘だったのだ。
楽しみに思うのも当然だろう。
きっと、俺がファンタジー世界に憧れたように、彼女もまた外の世界に憧れているのだ。
その横顔は期待に満ちて、キラキラとしていた。
しばらく歩くと、ちょうど森を出るところに差し掛かる。
背の高い大木が連なる森を抜け、景色が開けて陰りのない太陽が顔を出す。
「…うわぁ。」
「……」
ミモザは感嘆の声を上げ、セスクは100年ぶりの景色に感慨深い表情をしている。
そこから見える景色は、木によって隠されることもなく、どこまでも高く、広い。
視界の端に聳え立つ山。
そこから流れ出る川。
遠くに見える集落。
広大な田んぼ。
枯れた荒野さえ。
目に見える全てが彼女にとっては幻想的で、夢に見た美しい世界なのだ。
「……本当に、解放されたのだな。」
英雄がボソリと言った。
呪いが解放されたとはいえ、この一週間は里で過ごしていた。
だから、実感が湧いていなかったのだろう。
しかし、セスクは森の呪いのことで100年間、誰よりも重荷を背負って来たであろう男だ。
その心情は計り知れない。
彼の瞳には、うっすらと光るものが見えた。
「…隊長…ひっぐ…。
わだじ…ぅ。生ぎでてっ…よがっ…た!」
「…ああ。ああ!
そうだろうとも!!
これからは、いつでもこの景色を見れるのだ!」
ミモザの方は目を覆いもせずに泣いている。
うむ。
俺もつられて少しだけ目頭が熱くなった。
少しだけな。
こういう場面を共有できるというのは、まさに制作者冥利に尽きるというものだ。
俺達は感動に心を震わせながらしばらく道を進んだ。
————すると。
突然に。
あまりにも突然に。
敵襲を受けた。
四方八方から現れる10人ほどの真っ黒い暗殺者達。
2人は俺に。
2人はミモザに。
5人はセスクに。
目にも止まらない速度で襲いかかって来た。
そいつらは一瞬にして俺たちの背後を取ると、首筋に手刀を当て、俺とミモザの意識を落としてくる。
しかし、セスクだけは流石だった。
瞬時に戦闘態勢を取り、己を狙って来た5人の刺客に一撃も入れさせないどころか、その内2人を返り討ちにしてみせたのだ。
あの一瞬のうちにである。
しかし、問題は襲撃者だ。
俺とミモザには2人ずつの刺客しか付けなかったのに、わざわざセスクには5人の刺客をつけていた。
しかも、呪いが解けたばかりの森から俺たちが出てくるのを待ち伏せていたのだ。
これらが意味すること———
こいつらは、森の呪いが解かれたことを知っている。
そして、この中で誰が強いのかを知っている。
さらに、セスクが森の中では無類の強さを誇ることも知っている。
だからこそ、セスクに多くの人員を割いた。
そして、森を抜けたこのタイミングでの襲撃。
つまりコイツらは情報に強い。
俺は薄れゆく意識の中で、そこにいた人物を見た。
———それは圧倒的な存在感を放つ男だった。
腰のあたりまで、スラッと伸びる紫色の長い髪。
白く美しい肌を覆う全身の黒装束。
切れ長の目にキレイな鼻筋。
気味が悪くなるほどに整った顔立ち。
俺はソイツのことを知っている。
いや、忘れるわけがない。
転生直後に俺を襲った黒蜘蛛の隊長———
ネト=ハルマクラである。
つづく
(次部分で地図を載せます。よろしくお願いします!)
—————
※補足 (黒蜘蛛の強さ)
黒蜘蛛は隊長のネト、副隊長のベンがA級暗殺者、A級諜報員のライセンスを持っています。
残り18人は全員B級。
全部で20人の部隊です。
【ネト・ハルマクラ】
魔人族,男,786歳
国 :神聖大魔王国
所属:黒蜘蛛
職業:暗殺者〔中:Lv.82〕
【ライセンス】
A級暗殺者
A級諜報員
【既修職】
間者 工作員
諜報員 スパイ
【特性】
暗心 忍足 模倣 殺意
【称号】
《魔王の懐刀》
《影の殺戮者》
《百の顔》
《知られざる者》
(↓黒蜘蛛の副隊長)
【ベン・クォーク】
魔人族,男,784歳
国 :神聖大魔王国
所属:黒蜘蛛
職業:忍者〔初:Lv.26〕
【ライセンス】
A級暗殺者
A級諜報員
【既修職】
間者 探偵
諜報員 名探偵
【特性】
推理力 心眼 俊足 怪力
【称号】
《影の殺戮者》
《執念の追跡者》




