第2話「いきなり絶体絶命」
目を覚ますと、見えたのは夜空だった。
あたりを見渡すと、そこは荒野。
いや、荒野のように見えるが、実際には違った。
俺を中心に半径100mほどが荒れた焼け野原となっているが、その周りは森林が広がっている。
むしろ、まるで俺がそのあたりの木々を焼き払ったかのような光景だ。
「——えっと、ここは一体?」
おかしい。
俺は確か家でやっとの思いで完成した自作ゲーム『メガトラオム』を初めてプレイしようとしていたはず、、
なのに外にいる?
どういう状況だ??
とにかく、一旦記憶を整理してみよう。
「たしか‥‥あの時、突然なにかの光に包まれたよな。」
それが、最後の記憶だ。
そのあとは何も覚えていない。
うん、何も分からん。
「そうだ、スマホ!」
俺はポケットに手を突っ込んで、スマホを探すが空だった。
続けてあたりを見回してみるがどこにもない。
「あ〜、スマホないのは詰んだな」
迷子の状態で現代人にとっての命綱であるスマホがないのはダメージがデカい。
主に精神的に。
特にこんな森の中でスマホがなければ、
誰にも連絡が取れず助けも呼べない。
本当に危険だ。
「まいったな〜、どうしようか。」
「貴様、何者だ?」
「へぇ?!」
と、悩んでいると突然目の前から声をかけられたものだから、俺は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
(え?こ、こいつどっから来た??
さっきまで誰もいなかったのに。)
顔を上げると、そこには圧倒的な威圧感を放つ男がいた。
腰のあたりまで、スラッと伸びる紫色の長い髪。
白く美しい肌を覆う全身の黒装束。
顔は切れ長の目にキレイな鼻筋で、
気味が悪くなるほどに整っている。
そんな不気味な空気を纏った男は、
鋭い目つきで俺を注視し、再び口を開いた。
「貴様は誰だと聞いている。」
「え、えっと、花村想実と言います。」
冷静に考えれば、野外でぶっ倒れてたやつを捕まえて、イキナリのキサマ呼ばわりとは、大分理不尽な状況なのだが、俺は目の前の男が纏う恐ろしい空気に呑まれてしまっていた。
「貴様、どこの国の者だ?」
「へ?えーっと、日本ですけど。」
俺は混乱していた。
突然、見知らぬ場所にいて、初対面の不気味なイケメンに圧倒的上から目線で質問されているのだ。
無理もない。
ただ、この男について、さっきから気になることがあった。
(‥‥何か、どっかで見たことある気がするんだよな。)
「ニホンだと?
そんな国はない。
貴様、嘘を吐くようなら命はないぞ。」
男は本当に俺を殺すのではないかという勢いとオーラを纏い、俺に迫ってきた。
「い、いやいや待ってください!!
わわ、ワタクシメは本当に何も分からないんです!!
気を失って、気がついたらここにいて、、
ここが何処なのかワタシも知りたいのです!!」
(こ、こえー!!
いきなり、殺すってなんだよ!!
目がマジなんだよ、コイツやばすぎる。)
男の放つ圧倒的なオーラを前にして、俺は必死に弁解の言葉を並べるが、男は余計に怪しんだ。
「貴様、見たところ人族のものだな?
遭難を装ってこの土地を偵察しに来たのかもしれん。
ここが我らが主、魔王クルエル様が治める神聖大魔王国と知ってて立ち入ったのか?」
「え‥‥?!」
『魔王クルエル』に『神聖大魔王国』だと…?
俺はその名に確かに聞き覚えがあった。
あたりまえだ。
なぜなら、それは俺が26年かけて作った自作ゲーム『メガトラオム』のキャラクターだから。
そして、その名を聞いた瞬間、目の前の男になぜ見覚えがあるのか分かった。
こいつは、魔王クルエルが抱える暗部組織「黒蜘蛛」の隊長。その名はーー
「…ネト=ハルマクラ」
「‥‥ッキサマ!なぜ俺の名を知っている?!」
ビンゴ。
(ってことは、ここはメガトラオムの世界?!
まさかの転生か??!
はは、でもそんなのありえない。
夢だ。夢に違いない。
ゲーム制作で徹夜続きだったから、寝落ちしてしまったんだな。
自作ゲームの世界の夢を見るなんて、俺も末期だなぁ。)
ただ、夢にしてはあまりにも感覚がリアルだった。
人には夢を見る時、それが夢とわかるタイプとそうでないタイプがいるが、俺はいつも前者だった。
今まで夢だと分からなかったことはない。
しかし俺は今、あまりに意識がはっきりしていた。
リアルな感覚があった。
本能が「これは現実だ」と言っている。
しかし、理性がそれを受け入れない。
これは夢なのか、現実なのか。
俺が困惑していると、目の前の男、もといネト=ハルマクラが動いた。
「‥‥おい、キサマ。
なぜ俺の名を知っているのかと聞いているだろう?
答えぬと言うことは、やはりスパイか。
ならば死ね!」
ネトは腰に差した剣を抜刀し、俺に斬りかかって来た。
「黒蜘蛛」は暗部組織だから、メンバーの名が知られるということは、普通あり得ない。
その上、ネトの本名を知る者は魔王と黒蜘蛛の副隊長しかいなかった。
もし、その名が知られているとしたら、それこそ敵国のスパイか何かだろう。
そして、そんな黒蜘蛛のモットーは、『疑わしきは殺せ』。
残忍な魔王クルエルに仕える彼らはそんな恐ろしいモットーを忠実に遂行する部隊なのだ。
(まずい、死ぬ。)
その瞬間、瞬速のはずのネトの剣がやたらとゆっくりに感じた。
(ああ、これが走馬灯か)
俺は後悔した。
夢か、現実かは分からない。
でも、たとえ夢だったとしても、せっかく自分が愛情を込めて作り上げたメガトラオムの世界にやって来たのだ。
どうせなら、もっと楽しみたかった。
(そうだ。もしも、ここが本当にゲームの中なら——)
俺はあることを思いつき、一か八かの思いで呟いた。
「〔uw . tutorial mode sh 001〕 」
そして、ネトの剣は容赦なく俺の心臓を貫いた———
つづく