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第18話「木髭大行進」


 その頃、木人(ドライアド)の里にはちょうど屍人族の別働隊が到着した所だった。



 謎と危険の森(ミスティリスク)の中心部に位置する木人(ドライアド)の里の入り口は2本の大木によって囲まれ、天然の門となっている。


 その門は木の枝や、草で出来た天然の要塞だった。


 そして、その門を取り囲むようにおよそ100人の屍人族が群がっている。




「…木人(ドライアド)どモ。

 盗んダ『剣』を返セ!

 そうすれバ、何もセズに帰ってヤルぞ。」



 聞き取りにくい歪な声で、屍人は言った。


 言葉を投げかけられたのは、門の上にいる木人(ドライアド)

 賢者ピット・アルボルンである。



「『屍将ヴォルデスの剣』ならば、我らの里にはない。

 まあ、奪いたい気持ちは山々じゃがのう。」

「…嘘をつくナ!

 キサマら木人(ドライアド)以外に誰がアレを盗むト言うノダ?!!」



 屍人は掠れた(おぞ)ましい声で叫んでいる。



「…さあの。

 物好きな冒険者かもしれんし、武器マニアの変人かもしれんのう。

 なにせヴォルデスの剣じゃ。

 欲しがる武器マニアは多いじゃろうて。」

「コノ老いぼれ木人(ドライアド)めガ!

 剣を差し出さヌのなラ奪い返すマデ!!

 野郎ドモ! 木人ドモを皆殺しダ!!!」

『グウオォオオォオオ!!!!』



 問答を軽くあしらっていた賢者の態度に痺れを切らし、屍人軍はとうとう攻撃を開始した。



「…ふむ。

 できるだけ、時間を稼ぎたかったのじゃが…。

 まあ、仕方ないの。」



 そう言うと、賢者は背後に向き直り、そこに並ぶ木人(ドライアド)の兵士たちを見た。



 そこには張り詰めた緊張感。

 表情から滲み出る恐れと不安。


 木人(ドライアド)の兵士は約300人。

 兵力で勝る上、門の内側に籠っての防衛戦だから、戦略的には圧倒的に木人(ドライアド)有利なはずだった。


 しかし、彼らが恐れるのも無理はなかった。


 なぜなら、ここに並んでいるのは殆どが戦いを経験したことがない者なのだから。


 100年前、屍将ヴォルデス率いる軍に木人(ドライアド)の兵士たちは殆ど殺されてしまったのだ。


 そんなヴォルデスを、倒したからこそセスクは英雄なのだが、残った戦士は僅かしかいなかった。


 だからこそ、木人(ドライアド)にとって屍人族は憎しみの対象であり、なおかつ恐怖の対象でもあるのだ。


 しかも、この100年間、彼らは里の外に出ることなど、ほとんど出来なかった。


 そしていきなり初の実戦が訪れたと思ったら、相手は屍人族。


 それゆえに彼らは恐れていたのだ。



 彼らの気持ちを察した賢者は、安心させるように言った。



「…安心せい。

 お主らにはワシがついておる。

 それにセスクはやる男じゃ。

 必ず任務を全うしてくれるじゃろう。

 我々は、あやつが戻るまでの時間を稼ぎさえすればいい。

 そうすれば、我らの勝利じゃ。」



 英雄セスクの名を聞いて、兵士たちの緊張が幾分かほぐれた。


 彼の名声はそれほど偉大なのだ。

 

 そんな兵士達の様子を見て賢者は屍人軍へと向き直る。


 すると、屍人軍は不気味な雄叫びを上げながら門へと突進を開始した。



「——弓隊、魔法隊、構えよ!」



 賢者が命令すると、兵士たちは瞬時にそれに従う。


 迫り来る屍人軍との距離を計りながら、『放て』の合図を送るタイミングを待つ。


 


 ———すると。



 突然に、屍人よりもさらに後方から、猛烈な勢いで巨大な足音が響いてきた。



 それは森中に響き渡る轟音だった。


 それは怒りに満ちた叫び声を伴っていた。


 それは何千、何万の数に及んでいた。



 ———それは木髭(エント)達による大行進だった。




「…!?

 どういうことじゃ?!

 まだ、セスク達は『兜』を持ち帰っておらぬぞ!?」



 賢者でさえ、理解不能の事態。

 呪いの武具はまだ里に届いていない。

 だから、呪いが解除されるなどあり得ないはず。


 だとすれば、あの木髭(エント)達の行進は里を狙ったものなのか。


 しかし、いくら呪いの状況下にあるとはいえ、木髭達に里を襲わせるなんて出来るはずがない。


 そんなことが出来るなら、100年前にとっくにやっているはずだ。



「…?!

 呪いが消えた??!!」



 その時、賢者は明らかに森を覆っていた重たい空気が消え、澄み渡るような澄んだ空気に変わった事を感じ取った。


 それは、一緒にいた木人(ドライアド)の兵士たちもであった。



「…まさか、『剣』と『鎧』を回収した者が『兜』も回収し、森の外に持ち出したのか?」



 確信は持てないが、そうでもない限りこの事態は説明がつかない。


 

 目の前では木髭(エント)達が瞬く間に屍人軍へと追いつき、蹂躙を始めている。


 その様子を木人(ドライアド)軍は、呆気に取られ眺めていた。




 そして———




「うおおお!!!木髭(エント)の大行進だ!!!」

「すごいぞ!!なんて迫力だ!!」

「おっしゃああ!!俺たちの勝利だ!!!」

「森の呪いが解かれたんだ!!」

「きっと、セスクさん達がやってくれたに違いない!!」



 木人(ドライアド)軍は歓喜に沸いた。



 だが、賢者だけは冷静だった。


 なぜなら、呪いの武具は里に持ち帰って、聖職者によって呪いを解除する必要があるのだ。


 だから、セスク達がまだ戻っていない以上、彼らの手柄というのはあり得ない。



 もしも誰かが呪いの武具を森の外に持ち出したのなら、別の場所が呪われることになる。



 もちろん、外部の聖職者が呪いの解除をするなら問題ないが、下手をすればとんでもない被害を招く可能性がある。



 賢者は今一度、気を引き締めるのだった。

 












「クゥーッハッハッハッハァ!!!!

 雑魚どもめがああ!!!!

 この俺様の力を見たか!!

 ひ!れ!ふ!せい!!!」



 ステルスモードで誰にも聞こえていないセリフを、全力で叫ぶ中年オヤジ。


 うむ、俺は今すこぶる機嫌がいい。



 その原因は、眼下に広がる光景だ。



 いや、この光景を何と説明すればいいのだろうか…。



 圧巻。


 壮観。


 驚異的。


 

 どんな言葉を使っても、今俺の目の前で起こっている出来事を形容するには足りないように思う。


 森中の木が蠢き、激しい戦いを繰り広げていた屍人達を瞬く間に蹂躙してしまったのだ。


 そのくせ、見事に木人(ドライアド)達は傷つけることなく保護されている。


 残る屍人族は、俺の目の前——すなわち木髭王(エントキング)の頭頂にいる屍人隊長のみとなった。



「…ヌグッ。

 一体、何ガ起コッタ…?」



 屍人隊長は、困惑していた。


 当たり前だろう。


 正直、俺自身も想定していなかったことなのだから。



 しかし、事が起こった今なら分かる。



 それは〔ステルスモード〕の本質に関わる問題だ。


 

 ステルスモードとは、もともと対象の存在が()()()()()()()()()()()()()()()()()


 それゆえに、屍将ヴォルデスの呪いの3つの武具を全て回収した状態でステルスモードを発動した今、呪いの武具は()()()()()()()()()()()()()()なのだ。



 だから、呪いが消えたということだろう。


 まあ、それなら何で水中で体内に水が入って来て、喋れなくなるのか疑問だが…。



 うん、まあ、そこはゲームと現実の融合の中で、よく分からない部分だな。


 でも、そういう曖昧な部分が、意外と何かの抜け道や、それこそこの世界の裏ワザ的な機能を発揮して役に立つ時が来るかもしれない。


 他にも、こういうおかしなことがあったら、記憶していくといいかもしれないな。



 とにかく、そんなわけで、屍人族は隊長を残して全滅したのだった。



 とはいえ、俺がステルスモードを解除したら、また呪いは復活してしまうことになる。



 俺は里に行って、誰も森に出ていないタイミングで『呪いの武具』を聖職者に渡すとしよう。


 誰かが森にいたら、突然呪いが復活して木髭(エント)にぶっ殺されるかもしれないからな。



 というわけで、俺はセスク率いる精鋭部隊が里に帰るのに合わせて、その後に付いて行くことにした。



「…ん?」



 ふと、見ると屍人隊長が最後の悪あがきに闇魔法をぶっ放そうとしていた。


 屍人隊長の手にドス黒い魔力が収束していく。



 しかし、その魔力を放つよりも先に、木髭王(エントキング)の手が自らの頭頂に乗る屍人隊長を掴み、有無を言わせず握り潰した。


 ぐしゃり、とトマトのようにひしゃげた肉体を地面に叩きつけ、踏み潰す木髭王(エントキング)



 余程、憎らしかったのだろう。

 100年も自由を奪われていたのだ。


 それもそうだろう。



 何はともあれ、こうして屍人軍は全滅したのだった。
















「いったい……何が起こっているのでしょうか?」

「……わからん。」



 木人(ドライアド)の女兵士ミモザに聞かれた英雄セスクは、そう答えることしか出来なかった。



 ついさっきまで老木髭(エダールエント)5体による広範囲魔法によって絶体絶命の状況に置かれていたのだ。


 それが、蓋を開けてみれば屍人の蹂躙である。


 そして、明らかに森の呪いが消えている。



 流石の英雄も木髭の大行進をただ眺めていることしか出来なかった。



 しばらくして、屍人が全滅し、屍人隊長も木髭王(エントキング)によって捻り潰されると、木髭王(エントキング)が心に話しかけて来た。


 

(…森の守り手よ。

 呪いを解いたのはお前なのか?)



 『森の守り手』と呼ばれたセスクは答えた。



「いえ、私ではありません。

 我らとは関係なしに、突然、呪いが消え去ったのです。」

(…そうか。

 それは、少し不安だのう。)

「はい。ですが、ご安心ください森の王よ。

 我々が森を調査し、必ず原因を突き止めます。」

(…うむ。木髭(エント)達にも調べさせよう。

 よろしく頼むぞ。)



 突然の出来事に、木髭王(エントキング)木人(ドライアド)も困惑しているのだ。


 ただ、100年ぶりに呪いが解けたこの瞬間は格別なものであることは間違いなかった。



(…フォフォフォ。

 それにしても、100年ぶりの美味い空気じゃ。

 もしも、呪いを解いたのが悪党だったとしても、この空気を味合わせてくれたのだから、多少は大目に見てやるとしようかのう。)

「ははは!

 そうですね!!

 我々もこんなに清々しい気分は久しぶりです!」



 こうして、木人(ドライアド)部隊は気を引き締めつつも、意気揚々と森の調査を開始するのだった。

















 




 セスク率いる精鋭部隊は、しばらく周辺を捜索し、撃ち漏らしの屍人や、呪いの武具、呪いを解いた何者かの痕跡などがないか探していた。


 しかし、特に有益な情報が得られなかったので、一旦里に帰って、森の調査は後日時間をかけて行うことになった。


 何せ激しい戦闘の直後でもあったから、彼らには休養が必要だった。


 俺は3つのヴォルデスの武具を抱えながら、ステルスモードでその後に付いていく。



 呪いが解けた森は、生き生きとした活力が溢れており、木々も動物も心なしか嬉しそうに見えた。


 来た時には薄暗かった森は、日の光が差し込み爽やかな風が吹いている。


 枯れていた木々には命あふれる緑があって、木髭(エント)達の鳴き声は、明るい雰囲気を孕んでいる。


 俺はそんな森の中を歩いているだけでも、癒されるような気分だった。


 これが本来の謎と危険の森(ミスティリスク)なのだ。



 森の中を闊歩する魔獣達。

 森の中のあらゆる生き物と親しげに会話する木人(ドライアド)の精鋭部隊。



 そんな姿を見ながら、俺はいつものようにニヤニヤしていた。


 呪いから解放された喜びを味わっている森の様子を見るのは、制作者冥利に尽きるというものだ。



 そんな調子で歩いていると、しばらくして木人(ドライアド)の里に着いた。



 2本の大木に囲まれた門。

 草や木で出来た美しい天然の要塞。


 20、30メートルを越す木々が乱立する森の中心で確かな存在感を放っている。




 『木人の里(トレンティア)



 そう呼ばれる森のオアシスだ。


 俺は精鋭部隊の後にくっついて里の内部に入った。



 すると、すぐにある人物の出迎えの声があった。



「セスク! そして、精鋭部隊よ!

 よく帰って来た!! …みな、無事かの?」



 賢者ピット・アルボルンである。



「アルボルン様!

 ありがとうございます。

 こちらは負傷したものはおりますが、

 重傷者・死者はおりません!

 そちらの方こそ、よくぞご無事で!」



 両者、命を懸ける覚悟で戦いに挑んだのだ。

 まずは再会を心から喜んでいた。



「ああ、お前も知っておるだろうが、

 ちょうど屍人軍との戦いが始まる直前に

 木髭(エント)の大行進が始まったのよ。」

「そうでしたか…。

 我々も、老木髭(エダールエント)

 追い詰められ、絶体絶命のタイミングで

 呪いが解かれました。」



 …なんと。

 ギリギリのタイミングだったらしい。

 まるで、漫画やアニメのようなタイミングだな。


 フゥーッハッハッハッハアァア!!!



 …いや、ホントにあの時俺がステルスモードを解除するのが、一瞬でも遅れてたらヤバかったんだな。

 よかった、よかった。



「まるで、天の助けかのようなタイミングですね。

 …そういうことなのでしょうか?」



 あまりのタイミングの良さに、神なる存在の介入があったのかと、英雄は問うた。



「…分からぬが、しばらくは

 原因を調査する必要があるじゃろう。

 それでも、何も見つからぬ時は、

 天の助けとしか言いようがない。

 歴史の中には時々、そういう不思議なことが

 起こっておるものじゃ…。」

「…そうですね。」

「うむ。

 今日はとにかくゆっくり休むのじゃ。」



(ククク。

 困惑しているな。

 まあ、当然か!

 どれ、いっちょ驚かせてやるとするか…。)



 『バカは学習しない』という言葉がある。


 ついさっきまで、あれほど自分の浅はかな行動を後悔していたはずなのに、俺はまたしても調子に乗っていた。


 つまり俺はバカなのだ。



 いや、言い訳をさせて欲しい。


 この時、まだ俺は屍人の短剣によって受けた呪いを、まだ解除して貰っていない。


 きっと、そのせいだ。


 そうに違いない。


 だから、俺はついさっき犯してしまったばかりの『調子に乗る』という過ちを繰り返したのだ。



 俺はステルスモードを解除し、英雄と賢者の前に姿を現した。




「フゥーッハッハッハァア!!!!

 賢者ともあろう者が、目と鼻の先にいる

 この俺に気づかぬとはなあ?!

 『屍将ヴォルデスの呪いの武具』を回収したのは、

 この俺様、『ソージ』である!!!

 ひ!れ!ふ!せぃ!!!」




 ———その瞬間。



 賢者と英雄、そしてその場にいた精鋭部隊のメンバーが、一斉に戦闘態勢を取った。




 うん、あれだ。

 これは呪いのせいなんかじゃない。

 そういえば、俺の頭は26年前からヤってるんだった。

 それが、ちょっと後悔したくらいで今更治る訳はなかった…。



 ———そして、俺はボコボコにされた。




 死ななかったのは〔チュートリアルモード〕のおかげである。



 しかし、厨二というのはやはり素晴らしい。


 俺はボコボコにされたおかげで賢者と英雄、そして精鋭部隊の1割の経験値を得た。


 これだから、厨二はやめられない。

 つまり不治の病だ。

 だから仕方ないのさ。


 

「フゥーッハッハッハッハアァア!!!」

「…こいつ!まだ息が!!」

「己、ワシの全力魔法で叩き潰してくれるわ!!

 『超魔(スーパーマジック)核弾頭(ミサイル)・雷炎!!』

「…げぼほはおぐはあっ!!」

「賢者様!

 おやめください!!

 あなたが全力を出すと我らまで…」

「げほあっ!!!」

      ・

      ・

      ・




 うむ。

 時には自重も必要であることを学んだのだった。







 つづく



 



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