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ページ47 青井誠の切り札

 『怪物』を『モンスター』と呼び、異世界から来たエルフと行動を共にする。

 オレ達は自分でも気付かないうちに関係者だと語っていたのだ。


「もう一度聞くよ」


 オレはここでようやく気付いた。

 公安警察から来た青井誠は、とんでもなく切れ者だったのだと──


「『ワールドオブオンライン』というオンラインゲームを知っているね?」


「……はい」


 高校生の浅知恵など簡単に看破されてしまった。

 途中ちょっと苦しかった部分もあるけど、それをナシにしてもこの男を欺くことは難しかったかもしれない。


「いやー、よかったよかった。一時はどうなることかと思ったよ」


 終始笑みを絶やさない青井さん。

 彼が一体何を考えているのか、まったく見当も付かない。


 言葉を失ってしまうオレと佐伯さん。

 そしてノエルまでその異常性を悟ったのか押し黙っている。


「でもこれでようやく本題に入れるよ」


 そう言って机の上で手を組んだ青井さんは、先程までとは打って変わって鋭い眼差しで事件の全貌を語り始めた。


「君達が昨夜戦った怪物は、現在日本だけではなく世界中で出現が確認されており、昨日の日本時間午前十時にアメリカ、ワシントンで正式に世界的大災害と公表された。現在各国大急ぎで原因の究明並びに対応、対策が求められている」


「……っ」


 まず驚くべきはその情報量だ。

 人伝では色々聞いてはいるものの、今やテレビやラジオ、ネットなどの情報媒体は完全に停止している。


 そんな中これだけの情報を確保できているのはさすが先進国日本だ。

 恐らく何らかの連絡手段(ホットライン)が存在するのだろう。


 世界中でモンスターが出現したという事実。

 高々レベル20前後ですでに自衛隊の手に負えないモンスター。

 それが世界中に現れたという。


 ──無理ゲー過ぎる。


「僕が所属する公安警察には、通称『ゼロ』という組織があってね、普段はテロ活動などの脅威を未然に防いだり、対抗するためにスパイや協力者からの情報収取を主に行っている部署なんだけど」


 そこで一呼吸置き、手元の資料に一瞬視線を向けて続けた。


「日本警察並びゼロの調べで、日本のある企業が運営するVRオンラインゲーム『ワールドオブオンライン』が今回の件に深く関わっていることが判明した。しかし、その運営元をいくら探っても特定には至らなかったんだ」


「──は? 確かWOOの運営会社は神奈川に拠点を置いてたはずじゃ……」


「うん、でもその情報も偽物だったんだ」


「マジかよ……」


「ネット上にサーバーを構築し、何重にも国を経由することで運営元を分からなくしてあったんだ。しかも現在すべてのゲームデータが削除され、一バイトの情報も残ってない。まさに神隠しだよ」


 日本の一企業がある日忽然と姿を消した?

 しかも、その足取りは警察でも追えないときた。

 そんなことがあり得るのだろうか。


 事件の対応に追われる中。

 モンスターの襲撃を受けた東京のショッピングモールがあったらしい。

 それを救ったのがたまたま居合わせた元プレイヤー達だった。


 自衛隊の装備でも対抗出来なかったモンスターを討伐出来る存在。

 それはまさに救世主だったという。


 彼らはモンスターに対抗する術を持っていた。

 その後の事情聴取で元プレイヤー達にゲームの力があることが判明。

 すぐに公安警察が動き出したらしい。


「そんなわけで、僕は西日本を担当する平凡な警察官というわけさ」


 と、シニカルに締めくくった。


 ちなみに、最初に見つかったプレイヤーが自分のことを『冒険者』と名乗ったことから、ゲームの力を持った者を総じて『冒険者』と呼んでいるらしい。


 痛過ぎるわ!

 この最初に見つかった奴誰だよ。

 絶対中二病拗らせてるだろ。


 まあそういう意味では確かにオレ達は『冒険者』だけどさ。

 でも、だからと言って戦わないといけない理由にはならない。


「オレ達にモンスターと戦って死ねと言うんですか?」


「もちろんモンスターの討伐以外にも隔離された人々の救助や治療、支援など、生身の人間である自衛隊やレスキュー隊には難しくとも、君達ならできることも多いんじゃないのかい?」


 オレのストレートな物言いに、青井さんは眼を反らさずに答えてくれた。

 でも、それは本質を反らしているようにしか聞こえない。


 モンスターと対峙して初めて伝わってくる威圧感からくるプレッシャー。

 一歩間違えば自分が命を落とすかもしれないという、全身が震えるほどの恐怖。


 それは決してゲームをやっている一部の人間、つまりは家で長時間引きこもっているような人間が耐えられるような生易しいモノではない。


 そんな人間にいくら協力だのと持ち掛けても断られるのが関の山だろう。

 結局のところ、誰だって自分の命が大事だし、死にたくない。

 好き好んで戦場にいくようなバカなんて普通はいないのだ。


 これはゲームではない。

 死んだらそこでゲームオーバーだ。


 それがわかっていながら協力という体裁を取ろうとする意図がわからない。

 結果がわかりきっているこの茶番に何の意味がある。


「まるでオレ達はもう人間じゃないみたいな言い方ですね。それはオレ達が慈善事業をする理由にはなりませんよ。はっきり言ったら良いじゃないですか」


 確かに佐伯さんの回復魔法は異常だ。

 どんな大ケガを負っても生きてさえいれば助けられる。


 但し、現状では連続使用ができない。


 どんなに凄い回復魔法を持っていても、マナが無ければただの人だ。

 回復魔法を使った直後にモンスター……いや、周囲の人間にすら襲われる可能性がある。


「か、影山くん」


 熱くなったオレの制服の裾を佐伯さんが引いた。


「……っ。すみません、少し言い過ぎました」


 オレの言葉を噛みしめるように聴いていた青井さん。

 彼もその重みを知らないわけではないのだろう。

 一度目を閉じて、大きなため息を吐いた。


 公安警察。

 その中でもゼロと呼ばれる特殊組織に組する男。


 その役職(ポスト)に着くのにどれだけの苦労や修羅場を潜り抜けて来たのか、オレには想像もできない。


 ただ言えることは、ため息を()いて尚この男の眼は諦めていなかった。


 静かに次の一手を繰り出さんとするその瞳。

 それはまるであの時対峙したゴブリンのようで──


「うん、誰だって命は惜しい。影山くんの言うことは間違っていないよ」


 だが彼はここで満を持して切り札を切ってきた。


「──但し、その場合はノエルくんをこちらで預からせてもらうよ。彼女は本来いるはずのない存在だ。その害意に関わらず、野放しにすれば周囲に混乱を招くことになるからね」


「なっ──」


 オレは言葉を失った。


 一見聞こえの良い言葉(セリフ)を並べているが、それは全部この一手のために警戒心を削ぐための罠だったのだ。『友愛の証』をもらい、一緒に一晩明かして仲良くなったオレ達には初めから選択肢などなかった。

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