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ページ44 絶対に挫けないために

 あれからしばらくしてジャー先も目を覚ましてくれた。

 顔が腫れていて片目が開いてなかったけど、それ以外は何とも無さそうで少しホッとした。


「逃がしてやれなくて、すまなかったな」


「いえ、先生は充分頑張ってくれました。私の方こそ役立たずで……」


 無力で守られているだけのただのお荷物。

 守られる価値なんて無いのに……。


「古賀さんは頑張った」


「はい……」


 本城先輩の言葉が何より救いだった。

 普段の生活の中では絶対に気付くことはできなかっただろう。


 私は一人で生きているんじゃない。

 多くの人に助けられて生かされている。


 だから、……だから私もそれを返そう。

 いつかみんなのために何か出来る時ができたら、きっとその時こそ──






  ◆ ◇ ◆






 痛み、(うら)み、恐怖。

 様々な感情渦巻いて、私達は未だ希望の見えぬ三日目の朝を迎えた。


 時刻は午前十時。

 体育館の掛け時計の秒針が動く度、カチカチという音だけが響いてくる。

 たった一日、たった一日で人はこうまで絶望に打ちひしがれるモノだろうか。


 ──もう限界だ。


 もう誰も口を開こうとはしない。

 一向に目を覚まさない校長とその隣で眠る森先輩の姿──。


 理不尽なまでにその傷跡を見せつけられては、次あの二人の隣に寝かされるのが自分かもしれないという恐怖に戦き、誰一人として己を奮い立たせて立ち上がる者は現れなかった。


 所詮、私達は戦争も経験したことのない平和な世界で育った一般人、突然の理不尽に立ち向かえるほど、身体も心も強くはなかった。


 思えばもう二日近く何も食べてない。

 誰もが毛布に身を包み、暗澹(あんたん)な時が流れるのをじっと待つだけになっている。


「音がする」


「音……?」


 突然ポツリと世良先輩が呟いた。

 耳を澄ませると確かにそれは聞こえた。


 風を切るような、この音は……。


「ヘリだ!」


 誰かが叫んだ。

 その言葉に連鎖するように周囲からも声が上がる。


 プロペラが空気を切る音が徐々に大きくなっていき、それは確信に変わる。


 ついに助けが来た。

 そう思った矢先、体育館の扉が激しく開かれた。


 慌てた様子で一人の黒づくめの男が入ってくるなり周囲を見渡したのだ。

 まるで品定めするかのようなその視線に誰もが顔を反らし、そして私と目が合った、合ってしまった。


 ──まずい。

 咄嗟に顔を伏せたけど──遅かったみたい。


「おい、そこのお前ッ」


 身体がビクリと震えた。

 男の足音が近づいて来る。


 まずいまずいまずい。

 心臓がけたたましく脈を打ち、背筋を冷たいものが駆け抜ける。

 お願い。こっちに来ないで!


「きゃっ!?」


 男が私の腕を引っ張り上げた。


「来いッ」


「嫌っ」


「いいから来いッ」


 握られた腕が悲鳴を上げ、半ば引きずられるような体制になった。

 行きたくない。行きたくない。

 誰か、誰か助けて……!


 そんな私の願いが届いてしまったのかもしれない。


「だめええ──────ッッ!!!」


 突然世良先輩が声を上げて私に飛びついたのだ。

 遅れて本城先輩が世良先輩に覆いかぶさる。

 伸し掛かった重りに腕が軋んだ。


「古賀ちゃんは行かせない!」


「この者にタンスの角に小指をぶつけた痛みを。この者にタンスの角に小指をぶつけた痛みを……」


 世良先輩が目尻に涙を浮かべながら歯を食いしばり、本城先輩はブツブツと呪いの言葉を唱えていた。


 前後に引っ張られる腕の痛みに顔を歪めたのも束の間、男が世良先輩の肩に足を乗せた。


「放、せッ」


「ぐっ……」


 足の裏で無理やり引き剥がされた世良先輩が呻き声を上げる。

 覆いかぶさっていた本城先輩ごと後ろに突き飛ばされてしまった。

 彼女達はすぐさま起き上がり、また私に飛び付こうとしてその動きを止めた。


 何故なら、私が泣きながら首を横に振っていたから。


 もういい。もういいんです。

 もうこれ以上私のために傷つかないで下さい。


「古賀ちゃん……」


 その場にへたり込んでしまった先輩達に、必死に笑顔を作る。


 大丈夫。今度こそみんなを助けてみせるから。

 あのヘリが本当に助けなら、絶対に助けを連れて来ますから。

 ……だから待っていて下さい。


 最後に先輩達が泣き崩れる姿をこの目に焼き付けた。

 絶対に挫けないために──






 体育館の外で私は後ろ手に縛られた。


 外は中以上に音が大きく、ヘリがすぐ近くまで来ていることがわかった。

 強いて言えば、あのヘリがこちらに気づかずに通り過ぎて行ってしまわないことを願うばかりだ。


 みんなを助ける。

 気持ちが固まった私は、外の空気を吸って少しばかり冷静さを取り戻していた。


 ──他の男達はどこに行ったのかしら。


 ちょくちょく体育館の周りを見張っていた男達の姿がそこにはなかった。

 ヘリが来たとはいっても一機だけだ。


 あまり詳しくはないけれど、窓から見えた感じだと乗っているのは精々十人前後だ。荷物や戦う道具などを考慮すればもっと少ないかもしれない。


 人数では黒ずくめの男達の方が多いはずなのに、見張りが一人も居ないというのはちょっとおかしいと思う。


 今なら逃げ出せるのではないかとすら思えてくる。


「さ、さっさと歩けッ」


 それにこの男の慌てようだ。

 中に居た時は私も必死で気付かなかったけど、どこか焦っている。


 ロープを結ぶのも一度間違えて、結び直していた。

 下っ端なのだろうけど、その様子はまるで何かに怯えているように思える。


 私は男の言われるままに運動場へと向かったのだった。

どうも、ロングブックです。


人は水だけでも二、三週間は生きられるそうですが、水なしだと三日から六日で脱水症状を起こし死に至るらしいです。


つまりこの時の響恋達は、かなりきつい状況にあったと言えます。

そんな状況で涙を流すのは自殺行為かもしれませんね。

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