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ページ18 女心がわかってないよ

「じぃー…………………………………………………………」


「うおっ、居たのか」


「居たのかじゃないの!」


 名も知らぬ少女が頬を膨らませてテーブルをドンと叩いた。

 とてもお冠のご様子である。


「ノエルは空腹を堪え、空気を読んで二人のイチャイチャが終わるのを今か今かと待ってたの!!」


 外国人だろうか。

 成長期特有の幼さが残る可愛らしい顔に白く透き通った肌。

 目深に被った深緑のケープのフードからは、ブロンドピンクの髪が覗く。

 右手には割ってない割り箸を、左手には空の発砲どんぶりを装備。


 まるでアニメや漫画から出てきたかのようなコミカルなその少女は、今のオレの心情など、知ったことかと言わんばかりだ。


「いちゃ……」


 佐伯さんが頭から煙を上げて機能を停止した。

 コイツの近くに居るとコミカルさが伝播でもするのだろうか。

 どうせ空気を読むのなら、その後の言動まで伴わせて欲しい。


「空腹をってお前、さっき二杯目をもらってただろ!?」


「美味しかったの!」


 感想を聞いたわけじゃないんだが。


「アキ、アキ!」


「えっ? あ、う、うん」


 どうやら交渉済みらしい。

 少女に名前を呼ばれ、佐伯さんが自分の分を移し始めた。

 店長との「一杯だけ」というやり取りは何だったのだろう。


「しょうがねえな」


 オレも三分の一ほど分けてやったよ。

 せっかく楓ちゃんが多めに注いでくれたのに……。

 って、まさかこれを見越して!?


 振り向いて店長の隣にいる楓ちゃんに目をやると、横ピースでウィンクされた。

 ほんと頼りになる精鋭さんだこと。


「わあ、ありがとなのぉ。んくっ、んくっ」


 少女の体内に炊き出しが豪快に流し込まれていく。

 具もあるんだけどな。

 流し込むってどんな手品だよ。


「んんーっ!! ぐるじぃ~……」


「はいはい、水水」


「ぷはあ~。死ぬかと思ったの!」


「そうかそうか。でもちゃんと噛んで食えよ」


「んくっ、んくっ…………」


 聞いてないし。

 忙し奴だな。


「んっっ!! なにこれ、めっちゃ美味しい!」


「でしょ? あの人、何を作らせてもほんっと美味いんだよ」


 店長が作った物を褒められるとオレまで嬉しくなる。


「前にさ、楓ちゃんの友達の誕生日会を店でやったんだけど、そん時は料理以外にも三段重ねの巨大なケーキ作ってたんだよ」


「うそ、凄い……」


 佐伯さんの反応を見ながら、オレも炊き出しを口に運ぶ。


「ん~~~~~~っめえ。やっぱ店長の作る料理は最高だわ! あ、このニンジン楓ちゃんが切ったヤツだ」


 花柄になってる。

 あの子は一体どこまでサービス精神旺盛なんだ。


「ふふっ」


 おおう。佐伯さんがニンジンに微笑んでる。

 一瞬ドキッとしちゃったよ。


 至近距離からの微笑み、効果抜群だね。


「前日は、店を閉めた後に一人で朝まで寝ないで用意したんだって」


「いいお父さんだね」


「それがさ、後でこっそり教えてくれたんだけど、父離れであまり話してくれなかったから、誕生日だった子よりも楓ちゃんの喜ぶ顔が見たかったらしいよ」


「わあ、店長さん可愛い~」


「え、どこが!? ただのキモイおっさんじゃん」


「え~。だって娘の喜ぶ顔を見るために頑張ったんでしょ? キュンキュンしちゃうよ」


「マジかよ……」


 わからん。

 キュンキュンがわからん……。


「まあその甲斐あって、楓ちゃんはすげえ喜んでたけどさ……」


「でしょ? 影山くんは女心がわかってないよ」


「うっ……」


 くそう、どうしてこうなった。

 解せぬ。


「のえもぐもぐ、人のもぐもぐなのっ!」


「何言ってるかさっぱりわからんが、美味いってことだけは伝わってくるから、許してやるよ」


「んっ」


 しかしコイツ、美味そうに食うよなぁ。


 外国人だろうが何だろうが、美味いものに国境は関係ない。

 うんうん、美味さの前にひれ伏すがいい。


「さっき聞いたんだけど、この子ノエル・シュトラスさんって言ってこう見えてわたし達と同い年なんだよ。モンスター騒ぎでここに連れてこられたんだって。リスみたいで可愛いよねぇ」


 佐伯さんがこっそり教えてくれた。

 自分より幼く見えるのが嬉しいらしい。


 佐伯さんも小柄で童顔な方だけど。

 でもコイツはさらに幼く、中学一年ぐらいに見える。


 言動も相まって、とても同い年には思えないのだ。

 炊き出しを掻き込んで頬を膨らませる姿は、さながらリスのよう。


 うん、こっちの可愛さならわかる。

 おっさんの可愛さなんて、オレにはわからなくてもいいや。


「お前も災難だったな。オレは影山ゆ──」


 最後まで言葉に出来なかった。

 何故なら、炊き出しを平らげた少女が、豪快に「ぷはっ~」と夜空に向けて息を吐き出したからである。


 その弾みで深々と被っていたフードがずり落ち、ブロンドピンクの長く艶やかな髪が夜風に舞った。その神秘的で妖々しい(・・・・)姿はまるで──


「あっ!」


「「えっ……」」

楓「私、ゆうとさんのことなら何でもお見通しなんですからね!」


影山「オレも楓ちゃんがスポーツブラなの知ってるよ」

※その後、影山を見た者は居なかった。


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