おちんちん結婚相談所
あまり上品ではない内容があります。
お察しください。
男性は、すこし緊張したようすで、用意されたイスに、背すじをのばして座っている。
そこに、やわらかな微笑をたたえた女性がやってくると、やさしい口調で話しかけた。
「本日は、わたくしども、『おちんちん結婚相談所』の無料相談会にお越しいただき、まことにありがとうございます」
男性は、はじかれたように立ち上がると、まるで仕事のときのように、ペコペコと頭を下げながら口をひらく。
「いえ、こちらこそお手数をおかけします。ぼく、実は婚活というのが初めてなので、色々なお話をおうかがいできれば、と思っています」
スタッフの女性は、男性に座るようにうながすと、みずからも腰かけて資料を取り出し、微笑のままで説明をはじめた。
「わかりました。では、さっそくですが、夫婦が離婚する原因をご存知ですか」
「え? すみません、ぼくは婚活に来たのであって、離婚調停の申し立てに来たのではないのですけれど……」
「大丈夫です、分かっていますよ。ですが、失敗は成功の母、と申します。失敗、つまり離婚の原因を探ることで、成功、すなわち理想の結婚への道すじが見えてくるのです」
「なるほど、そういうものの見方もあるのですね。理屈としては、なんとなく分かりました。お話を続けてください」
「ありがとうございます。では、こちらの資料をご覧ください。これが離婚原因のベスト10になります。数値は、左側が男性のもの、右側が女性のものです」
①性格の不一致 ♂ 63% ♀ 46%
②異性関係 ♂ 19% ♀ 27%
③暴力を振るう ♂ 5% ♀ 31%
④精神的虐待 ♂ 12% ♀ 23%
⑤浪費癖 ♂ 14% ♀ 17%
⑥親戚と不和 ♂ 18% ♀ 11%
⑦家庭をかえりみない ♂ 9% ♀ 16%
⑧異常性格 ♂ 15% ♀ 9%
⑨性的不満 ♂ 11% ♀ 7%
⑩同居の拒否 ♂ 11% ♀ 3%
「うーん、ぱっと見た限り、特に違和感はないように感じますが……それで、このデータから何が分かるのでしょうか」
「まず、①の『性格の不一致』です。よく見てください。これはアナグラムなんです。よくみると、この『格』の部分はノイズだと分かりますよね。つまり、それを除去すると、正しくは『性の不一致』だったんだよ!」
「な、なんだってー!? Ω ΩΩ」
「これを踏まえて、さきほどのベスト10を再確認してみましょう! どうなるかといいますと……」
① 性格の不一致 ♂ 63% ♀ 46%
→ 実は『性の不一致』 ♂ 63% ♀ 46%
⑨ 性的不満 ♂ 11% ♀ 7%
両方の合計 ♂ 74% ♀ 53%
つまり、男性の74%と、女性の53%が、なんだかんだで、性的な要素の、不一致や不満によって離婚している、という、隠された恐ろしい真実が明らかになるのです」
呆然としている男性を前にして、女性スタッフは熱弁をつづけた。
「そこで弊社は、結婚と○ックスの関係に目をつけることにいたしました」
「つまり、どういうことでしょうか」
「簡単なことです。通常のお見合いのかわりに、セ○クスをすればいいんです」
「…………はい?」
「まず最初に、セッ○スで夜における夫婦の相性を確認してもらうのです。性的な欲求が一致していれば男性は74%、女性は53%が満足するので、円満な夫婦生活を送ることができるのは、確定的に明らかです」
「それでも、女性は53%ですから、約半分にとどまってしまうのですね」
「そういう細かい数字を気にする男性は、女性に嫌われますよ? 女なんて、とりあえずアヘ顔ダブルピースで落とせ自分のものになる。それぐらいの気概が必要なのです」
「ファッ? あの、失礼ですけど、あなたも女性ですよね?」
「はい、ですが、かくいうわたしもおなじような経緯で結婚しましたから。わたし自身の場合は、気の強い女はア○○が弱いの法則により、即堕ちさせられてから無事に結婚しています。容赦なく後ろに打ち込まれながら、よだれまみれの婚姻届に記入したのは、今でもよい思い出です」
「そうでしたか、実体験に基づいていたのですね、失礼いたしました」
「ではお話を戻します。さきほどお伝えしたとおり、弊社ではまず、ご紹介したお相手さまとセック○をしてもらいます」
「あの、簡単におっしゃいますが、そんなことが可能なのでしょうか」
「可能です。弊社では、月に平均でおよそ千名さまの会員が、ファースト○ックスに成功しています。まさに性交に成功しているのですよ?」
「ですが、女性会員さまは嫌がるのではないでしょうか」
「性交に成功しているのですよ? 大事なことなので二回言いました」
「ぼくが男性で、あなたが女性であっても、そんなボケに突っ込みませんよ?」
「チッ」
「いま、お客さんに向かって舌打ちを……」
「まあ、そんなことはいいでしょう」
「いやそれ、お前が言うのかよ」
「おやおや~? 結婚したくないのかなぁ? 本当にそれでいいのかなぁ?」
「ぐぬぬ……」
営業スマイルにもどった女性スタッフが、口調もさわやかなものに戻していく。
「さて、続きですね。このファーストセ○クスですが、実際にテスト運用してみたところ、意外な結果になりました。特にご年配の女性の方がむしろ積極的で、逆に男性会員さまの方が、緊張して立たないことの方が多かったのです。女ってこわいですよね」
「な、なるほどぅ……」
「そしてここからが大切なのですが、弊社の場合、通常のお見合いと異なり、釣書には年収や学歴は表示されません」
「え? ではどうやって、ファーストコンタクトをするんですか?」
「弊社は通常の釣書にかえて、『性の釣書』をご用意しています。内容は、SかMか、オーラルは可か不可か、といった性的趣向の項目に加えて、今までの体験人数、体験済みのプレイ、そしてNGプレイといった項目をご用意しています」
「あれ? もしかして、そういう性的な要素だけで、釣書にYESの回答をするかどうか、決めなくてはいけなんですか?」
「そういうことです。ですがご安心ください、釣書にYESと答えても、すぐに交際にはいたりません。まずはファーストセッ○スをしていただき、性の相性を十分にご確認いただいたうえで、翌日の十時までに、交際するかどうかを、お客さま担当の婚活コンシェルジュまでご連絡いただく流れです」
「時間制限があるあたりは、通常のお見合いと、それほど変わらないみたいですね。あの、ちょっと訊きいくいのですが、ファーストセック○って、どこまで許されるんですか?」
「原則として、プレイ時間は一時間を目安にしていただきます。また、行為内容もノーマルなものに限定させていただいております。たとえアブノーマルな嗜好の持ち主同士であっても、初回のファースト○ックスだけは、ノーマルな形で肌の相性をご確認いただくのです」
「一時間ですか。童貞のぼくでもなんとなくわかりますが、できることは限られそうですね」
「その通りです。ただ、ご交際にいたった場合は、もちろん好きなプレイを、好きなだけ楽しんでいただいて構いません。一般的な結婚相談所のように、肉体関係になったら、強制的に結婚退会させられるようなことはございません」
「そう言われると、普通の結婚相談所は、セ○クスを重視していないようにも聞こえますね」
「まさに、おっしゃる通りです。弊社がファーストセッ○スにこだわる理由もそこにあるのです。うちは真剣交際にいたれば中出しもOKです。できちゃった結婚なんてめずらしくもないですよ」
女性スタッフさんは、どこまでもさわやかな雰囲気でニコニコと笑っている。
今日はお話を聞きに行くだけ、そんな軽い気持ちだった男性も、その雰囲気に飲まれつつあった。
「まあ……それは……うん、そうですよね、わかりました。なんとなくですが、システムがわかってきました。ただ、心配なんですが、ぼくは容姿に自身がありません。ファッションセンスもダメダメです。ぼくのようなブサメンだと、やっぱりお相手さまと、ファーストセック○にたどりつくのは難しいですよね?」
「その点はご安心ください。ファースト○ックスにいたるまでに、顔写真は公開されません」
「え? 写真のたぐいが、まったく釣書には載らないんですか?」
「いや、そうではありません。写真は載りますが、それは顔写真ではありません。男性の場合は性器の写真、女性の場合にはそれにくわえて乳房の写真が掲載されます」
「マ ジ す か ?」
「美形だとか不細工だとか、あるいは太っているとか痩せているとか、もしくはファッションセンスが良いとか悪いとか、そういう表面的なことで取捨選択をして欲しくないのです。ですから、そのような余計な要素はすべて省いてあります。じっさいに、性の釣書の見本をご覧ください。こちらがそうです」
女性フタッフさんは、サンプル用の、分厚いクリアーブックを取り出した。
男性は、目を見開いてそれに食いついている。
「ほほう、これは興味深いですねえ。こんなにたくさんの無修正画像が……あれ? なんですか、これ。処女か非処女か、なんて項目がありますけど、このファーストセ○クスのシステムを理解した上で申し込む、処女のひとなんているんですか?」
「少数ですが、おりますね。これには二つのパターンがあります。まずは単純に、男性との交際経験がなかったパターンです。このケースでは、ファーストセッ○スの際に、挿入がNGというオプションをつけることができます。ただし事前に、専門の医師による処女膜検査を受けて、処女である証明書をとってきてもらいます。担当医の紹介もしておりますよ」
「ほほう、それで、もう一つのパターンは?」
「それはいわゆる、レズビアンのケースです。弊社では、同性同士のカップルでも、ファーストセック○できるようになっておりますので」
「はい? でもそれじゃあ、結婚はできないじゃあないですか?」
「もちろん、日本ではできません。ですから、海外で同性婚が認められている国を紹介し、同性での婚姻や、それに付随した国籍の取得サポートなども含めた、特別なサービスも提供しているのです。もちろん別途金額はかかりますが、専門のスタッフがおりますので、評判はかなり高いですよ。同姓による出会い系のサイトは多数ありますが、結婚までフォローするところはまずないですからね」
「あのぅ、まさかと思いますけど、ぼくの性の釣書が、男性に見られたりするんですかね」
「それはお客さまの条件設定によります。ご紹介するお相手さまを、異性のみにすれば公開はされません。ただ、とくに制限をかけないと、同性の方にも見られます。実際のところ、バイで両刀というひとは、思っている以上に多いです。隠している人が多いというのもありますが、性的嗜好というのは、そこまでハッキリした境界線があるわけではないですからね」
「そうでしょうか? そこはさすがに、簡単に同意をしかねるのですが……」
「失礼ですが、お手持ちのオカズの嗜好はいかがですか?」
「き、急になにを!?」
「すべて、純愛ものですか? それとも、鬼畜ものですか? あるいは、NTRものですか? オカズの嗜好はひとつだけですか? ほかのジャンルに、まったくご興味はない?」
男性は、まじめな顔で考え込んだ。
「いや、すべておなじ嗜好、ではないですね。純愛イチャラブもあるし、鬼畜陵辱もあれば、そりゃあ、NTR妊娠堕ちのオカズだってありますよ」
「男の娘はいかがですか?」
「くっ……少数なら……持っていますけど」
「正直なご返答を、ありがとうございます。性的嗜好の境界線があいまい、というのは、そういう意味ですね」
「……なるほ、ど?」
「私が担当したかたで、興味本位で試してみたらはまってしまい、ホモの世界へ一直線、最終的には○ッテン場デビューしたという会員さまもいらっしゃいますよ。たしか最終的にはカナダに移住して、そこで同性婚を挙げられたはずです」
「いや……でも……それって、怖い話じゃあないですか?」
「そうでしょうか? 逆に、女性のお客さまで、考えてみてください。外見はきれいな女性なのに、ずっと同性とレズ交際しかしていなかった処女の女性会員さまが、一度試してみたいから、という理由で、男性と肌を重ねてしまう。それだけで、ご飯三杯はいけませんか?」
「むぅ……ぼくなら、きっと五杯はいけますね」
「そうでしょう? 性なんて、考えている以上にあいまいなものなのです」
「でもぼくは、仮にお願いするなら、異性だけでお願いします」
「チッ……さて、簡単ですが、弊社の婚活の流れは、以上になりますね」
手元の資料を見つめていて、幸いにも舌打ちが聞こえなかった男性に対し、女性スタッフは営業トークを続けていく。
「通常のお見合いのほかにも、各種パーティやイベントなどもご用意しております。『せんずりチ○ポパーティ』、『まじめなオナ○ーパーティ』、『はじめてのハッテ○場プチお見合い』、などがありますね」
「偏りすぎィ! おまえホモかよぉ!」
「ホモが嫌いな女子なんかいません!!!! ……まあ、普通のパーティとかもありますよ、そりゃあ。おなじ趣味のお客さまで集まってとか、そういうありふれた、つまんないやつですけどね。乱交もないですし。ハァ……」
「思いっきり、やる気がないんですけど……それは大丈夫なんですかね」
「普通の婚活コンシェルジュをやるのが嫌で、わざわざ弊社に転職しましたもので。新しいことに挑戦したいじゃないですか」
「まあ、その、最後の部分はわかりますけど」
ため息をついていた女性スタッフが、すこし姿勢を正した。
「弊社はプライバシーマークに基づいて、性に関する個人情報を厳重に管理しております。情報漏洩の心配はありませんよ」
「まあ、そこは大切ですよね」
「また、地球環境にも配慮しております。弊社はISO14001も取得しておりますので、環境にやさしく無駄のないセックスを推奨しております。プラスチックごみの削減のため、ゴムを使わない生でのご提案もさせていただいておりますね」
「えっ?」
「成婚退会のノルマも達成しやすくなりますし」
「おいィ? お前それで良いのか?」
「童貞が何か言ったの? 私のログには何もないですね」
「あのさぁ……もう取り繕うつもりもないんすかね」
「童貞捨てたいんでしょ?」
「うっ……」
「結婚したいんでしょ?」
「あっ……はい……」
「年収にも、容姿にも、話術にも、自身がないんでしょ?」
「……(無言)」
「ママ、とっても心配しているのよ?」
「急にバブみを出すのやめて……」
「ちなみに、うちは結婚相談所にしては安いですよ」
「にゅ、入会料は?」
「入会費と年会費を合わせて、十四万三千円です」
「うせやろ! ぼったくり……じゃないですね。え? ネット婚活でもないのに、ちゃんとした結婚相談所の形式で、この価格ですか? 安いですよね?」
「弊社は、紹介だけならお値打ちですよ」
「どこで利益を出すんですか?」
「追加オプションの相談料ですね。たとえば、さっきの、同性婚がわかりやすいですね。同性婚ができる国を紹介してほしいとか、通訳さんを都合してほしいとか、もろもろの書類手続きを代行してほしいとか、そのあたりのオプションで手数料をいただきます。あとはノーマルなお客さまでも、色々なご相談はありますよ」
「やっぱり、性の相談ですか?」
「左様ですね。立たないとか、濡れないとか、そんなありふれたものに始まって、器質的・心因性の性交痛による悩み、器具や道具の使い方のイロハ、相手にケガをさせないための注意点、上手でお手軽な女装のやり方、などもあります。また、性的嗜好のうち、九割は一致して満足しているけど、残りの一割が不一致で不満足だから、成婚退会まで踏み切れない、ということもあります。内容は、本当に多種多様で、同時に千変万変です。料金を払っても相談したい、というお客さまは後を絶ちません」
「他では、相談がしにくいのでしょうかね」
「なにせ、デリケートな内容ですから。性の問題は、親兄弟や友人知人には、うちあけにくいのでしょうね。うちは、お客さまのプライバシーを、規則で厳守しています。お金を払って契約しているからこその安心感、というものがあるのだと考えております」
「ふむふむ」
「弊社には、本物の経験者が在籍している、というのもアピールポイントですね。相談したいと思うようなお知り合いで、実際に、バラ鞭を使ったり所持したりしているかたはいらっしゃいますか? 手錠やラバースーツをお持ちのかたは? 拡張や吸引の経験のあるかたは? 同性同士での経験があるかたは? 食べたり塗ったり飲んだりしたかたは? ……どうですか、ご存知ですか?」
「いませんね、まったく。なるほど、そう言われれば、納得もできようというものです」
男性は考え込んだが、それは短い時間だった。
「わかりました。入会します」
「ありがとうございます。同性限定でよろしいでしょうか?」
「異性限定でお願いします」
「チッ」
「ぶれませんね、最後まで」
男性が、すこしだけ困った感じで笑う。
「それはそうですよ。だって、好きでやっている仕事なものですから」
女性スタッフさんは、満面の笑みを浮かべた。
(了)
五年くらい前に、息抜きで執筆した作品を、修正したものです。
R18ではない、と信じております。なので通報しないで。おねがい許して。