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光に包まれ体が少し暖かい。全身が徐々に消えていく感覚、だが実体は無くしていない。誰かに引っ張られるようだ。
足から感覚を取り戻し地面に体重をかける。よく見る庭の景色、毎朝掃除していた外壁が見える。
玄関の方まで歩くとオーナーのおばさんに「おかえり」と言われた。そういえば働いてた時は外に出なかったからおかえりなんか言われるのは初めてだ。「ただいま」と言い、階段まで歩く。
「リナちゃん元気になったよ」
「あ、そういやありがとうございます。看病してくれて」
「寂しそうにしてたからいっぱい構ってあげな」
「もちろん!」
本当は行って欲しくなかったのかもしれない。
本当は一緒にいたかったかもしれない。
なんて言っても遅い。でもリナのことは知っておきたい。初めて自分から知りたいと思った友達だから―――。
***
ノックは高い場所でした方がいいらしい。面接はノックから始まると本で読んだことがある。面接ではないが少し緊張してきた。過去の詮索なんかすべきじゃないんじゃないかなんて思えてきた。
とりあえずノックする。木と骨の当たるの音が響く。
「はーい」
いつもの声が聞こえる。なんだか懐かしくも感じてしまう。
「リナー入るよー」
返事も聞かず入る。いつもはノックもしないが。
「え、アオイ!? もう帰ったの?」
「うん、髪切っただけだから」
「あ、私と同じだー。色も変えてる。似合うね」
「ありがとー!」
起き上がってベッドに座るリナが隣においでと布団を叩くので隣に座る。
「風邪大丈夫そうだね」
「うん。ずっと看病してくれてたのー」
「そっかそっか…」
気まずくなっても嫌なのでとりあえず頭撫でておく。
猫みたいに嬉しそうに目を瞑っている。可愛いなぁ。
このままじゃ話が出来ないと思ったので自分から切り出す。
「今日、イオさんに会ったんだ。髪もイオさんに切ってもらったんだけどね」
「あ、私もイオさんに切ってもらってるよ」
「うん。それでね…」
「私が知らないリナのこと教えてもらったんだ…」
突然暗い顔になる。さっきまでの輝くような顔とは違う、下を向き口も半開きになってしまった。
リナのことといっても詳しく聞いたことではないし、いきなり親のことなど話してもと思ったので少し濁して聞いてみた。
沈黙が続く。息が空気にあたる音まで聞こえるような静かな空間。
それを破ったのはリナの方だった。
「じ、実はね…アオイ…私、恋愛対象が女の子なの―――」
「…………え?」