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文章の前を1マス開けてみました。
「どんな髪にするー? アオイちゃん」
「前髪をシースルーバングにしたいんですよ。前々から思ってて。髪型はリナと同じくらいがいいですね…肩ぐらいで。あと灰色にしたいですねぇ」
黄金に輝く広間(イオ曰く自室なのだが)、そこの一室が個室の美容院になっており、黒の艶々した椅子に座り髪が服につかないように首にクロスが巻かた。目の前の鏡に映るイオがシザーを手に馴染むよう動かしている。
私をこの世界に、自分が楽しみたいという理由で送り込んだ女神様と、宿屋にいつも来る美容院のお姉さんが同一人物だったとじは。何となく、雰囲気は似てたと言われれば似ていた。
だが女神の姿になると髪はストレートになるらしい。
「なるほどねぇ」
先程の要望を聞き少しにやりとした顔が鏡を通して見えた。
「随分と仲良くなれたんだね。リナちゃんと。呼び捨てなんかしちゃって」
「まぁ、毎日一緒にいますからね」
やけに落ち着いていると思うが、最初は女神がイオで、イオが女神だったことに驚きはした。が、話し方、声はイオのままなのでいつもの感じで片付けられているのだ。
「うんうん。同じ境遇だしねぇ」
「ん? 何が同じなんですか?」
聞き返す時バッと振り向いてしまい、シザーの先端が顔に刺さりそうになった。「危ない危ない〜」なんて危機感なくヘラヘラして顔を前に向けてくれた。
「んーだからねー、親がいないから同じだなぁって思って。私が初めてあった日は愛情のあの字も知らないような子だったからさぁ」
女神云々イオ云々の話よりもリナの親がいない、私と同じということに驚いた。そしてそれをなぜイオが知っているのか、私の家の事情のこともだ。
「アオイちゃんの人生はちゃんと全部見たよ。だから知ってる。リナちゃんは本当に偶然、彼女の運が私と出会わせたのかな。本来出会うはずじゃなかったんだよね」
「なんでわかるんですか? 出会わないって…」
「この部屋だと世界の全てがわかるんだ。アオイちゃんが死ぬことも、そのきっかけとなったことも」
そのきっかけ、というのはアオイが死ぬことに誰かが関与したなどのことではなく、なぜ、アオイがそこにいたか、という意味で言っているのだろう。そういう意味で捉えると言ってること全て説明できるからだ。
「私はね、アオイちゃん。リナちゃんに会った時、君はこの子となら仲良くなれるなって思ったの。だから会わせた」
「それは感謝ですけど、リナの親の話とか聞いたこと無かったです」
この1ヶ月、世話焼きでしっかりしていて頼られていて悩みがないように思えたリナのことをまだ何もしれていないようだ。
「じゃあ帰ったら聞いてあげて。言いたくないことを言わないままにしておくのも優しさ。だけどそれじゃ変われないよ」
どうぞ、とクロスが取られた。話しているうちに髪がリナと同じ長さになっていた。色は紺のような色になっていた。
「髪を切るのは好きだけど染める作業は嫌いなんだ。だから女神っぽいことしてみたよ」
たしかに髪は切っていたがカラー剤を塗ることは無かった。女神の力で髪色を変えるくらい容易いのだろう。
「ありがとうございます…。でもなんで紺なんですか? 灰色にしようかなって…」
「だって同じ髪色でリナちゃんと並ぶとどっちがどっちかわかんなくなっちゃうからね。紺の方が似合うと思ったし」
確かに合っている。日本人顔には暗めの髪の方が似合う気がしていた。色にムラがなく艶々している。
「ありがとうございますイオさん」
「どういたしまして。あ、お金はいいよ。給料は他に使いな? リナちゃんにとかね。そのかわりまた切りにおいでね」
「え、でも…あ、切りには来るんですけどお金は…」
パチンとイオが指を鳴らすとアオイの体は光に包まれる。
「この光が宿屋まで君を届けてくれる。リナちゃんをよろしくね。一緒に寝てあげたりなんかもいいかも」
うふふ、ともち前の上品な笑顔を見せ、それが視界から少しずつ消えていった。
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