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今日は1ヶ月の労働の対価、汗水流して働いたものだけが得られる給料日。働き始めてから休みもとらないでずっと働いてきた。
この日に私は絶対にやるべきことがあった。そのためにお金をバッグに入れ、休みを取り、リナを誘い買い物に行く計画を立てていた。
だが今朝、リナが熱を出してしまいオーナーが看病をすると言うので私は誘う相手もなく1人で出かけることになった。
リナは熱が出てもなお一緒に行くと聞かなかったがやはり体がついてかないらしく氷枕をしてすぐ寝てしまった。
「また一緒に行こうね」と言い頭を撫で、まだどこに何があるか定かでない街に足を運ぶ。
***
長方形の可愛らしい名刺と今この場所を交互に見て、商人の声が響く街を通る。これはいつも朝来る美容師のお姉さんの名刺だ。
名前はイオさん。いつもウェーブのかかって、亜麻色の髪が特徴の清楚な雰囲気漂う女性にしては背が高いスタイルのいい美女だ。
毛先整えて前髪をシースルーにしてもらうという約束をしている。今日も貸切にしてもらった。
それにしてもなかなか見つけれない。名刺に書いてある場所はこの近くのはずだがどこにも美容院という感じの店がない。
「道間違えたかなぁ…」
「間違えてないよ」
後ろから耳元で声をかけられ鳥肌が立つような震えを感じた。
「驚かせちゃったかな」
あははと健気にわなう彼女こそイオさんだ。今日も髪を巻いていてお姉さん感が半端ない。
「迎えに来てくれたんですか…。びっくりしましたよ」
「ふふ、こっちだよ。おいで」
口元を手で隠し笑う上品さ、手を引っ張って案内する強引さ。この人といると私の姉みたいに思えてしまう。
建物と建物の間の狭い道を通り、日が差さなくなり足元が暗くなってきた。
「どこにあるんですか? イオさんのお店は」
「もうちょっともうちょっと」
「えー名刺と全然場所違くないですかー?」
「あーそれ何年も前のやつだからだよ。街とか変わっちゃったから」
なぜ、と言いたいが言えない。この人はこういう人だから。
「この辺かな」
引っ張った腕を離し何も無い真っ暗な行き止まりで止まった。
この行き止まりから店が現れるのか、実は扉があったり、なんて考えたが違うらしい。
後ろから抱きつかれ、白い腕が首の前で組まれる。
意識が遠のき、イオの息が耳に触れ、「おいで」と声が聞こえる。何も無い空間に落ちるような感覚に陥、体の所有権を奪われようだった。
―――眩しい。冷たい。心地いい。
私が目を開ける、それを確認してから口が開かれる。
「久しぶりね」
金色で覆われた懐かしい部屋。死んだ時に来た女神の部屋の玉座でイオが座っていた。