第3話 初めて行く家は緊張する
これもほぼ実体験の話です。
少し時間は遡り、お世話になる農家さんの家に到着した時の様子だ。
お世話になる農家さんの家は、平屋の一戸建てだが、田舎だけあって広い。
短期のバイトの間に使わせて貰う部屋に案内された。
「ここを使ってね」
「あ、ありがとうございます」
「ご飯 準備してあるから、早く食べてしまってね。明日は朝早いから」
「わかりました」
準備された晩御飯を食べる為に、台所に移動する。
「ご馳走様でした」
言われた様に、食器を台所のシンクに入れる。
そして、自分に準備された部屋に戻って、早々に布団に入る。
自宅でなら、まだ起きている時間なので、眠くない。
しかし……
良かった。
見た感じ、《嫌な感じのする部屋》は無さそうだ。
僕は、初めて行く家は、凄く緊張する。
その家の人達に対して…は、あまり緊張しない。
僕は社交的な性格なので、それは無いのだが、家自体に緊張する。
何故かと言うと、家庭の事情で、幼い頃から何度か引越しを経験したのだが、その引越した先の家で、二回程 凄く嫌な部屋が在る物件が有ったのだ。
今回は、その一軒目の話を書こう。
あれは……
僕が小学校六年生の時だった。
一戸建ての平屋で、短期のバイトでお世話になる農家さんの家と較べたら、かなり小さいが、三部屋ある家で、二部屋は南側の日当たりの良い部屋で、
もう一部屋は、北西の日当たりの悪い部屋だった。
その北西の部屋は、母の寝室になるのだが……
初めてその家に行った時から、その北西の部屋が、嫌で嫌で堪らなかった。
その部屋の中を見るのも嫌で、その部屋に居るだけで、居心地の悪さから、脂汗が出た。
夜だけの話では無い。
昼間の明るい時でも、その部屋は嫌だった。
見るのも嫌なのだ。
何と言うか、空気?雰囲気?何か嫌なモノを感じるのだが、何が嫌なのか、自分でもよく解らない。
でも、嫌なのだ。
しかし……
新居に引越して喜んでいる親兄弟に、そんな事は伝えられない。
表面上は、新しい住まいを喜んでみせた。
引越してからの生活は、凄く大変だった。
何故なら、三部屋の内の一部屋を避けながらの生活だ。
何も知らない親は、平気で「あれを取ってきて」とか言うので、嫌でもその部屋に入らなければならない。
風呂トイレに行く時も、その部屋を視線に入れない様に移動する。
ほら、想像しただけでも、大変なのが解るでしょう?
そして、引越してから数ヶ月が過ぎた時、母親が変な事を言い出した。
「寝てたらね。出たの!」
「(ヲイ・・・)」
「多分ね。あれは仲の良かった○○ちゃんが、会いに現れてくれたんだと思う」
母は、数年前に死んでしまった、仲の良かった女性の友達の霊だと思っている様だった。
「(いやいや・・・違うと思うぞ母さん・・・)」
「それでね?みんなで夜に出て来るのを待たない?」
「(!?)」
「(おーーーーーい!僕は昼間に入るのも嫌な部屋なんだよ!)」
と、心の中で叫ぶ。
でも、仲の良かった友達だと思っている母に、そんな事は言えません……
「うん!みんなで待とう!」
そんな理由で、家族で夜にお化け(母の中では、仲の良かった友人の霊)が出て来るのを待つ事になった。
もちろん、家の中を真っ暗にしてね……
そんな真っ暗な中で、見るのも嫌な位の部屋に、親兄弟と座して待つ。
初夏でエアコンも無かったので、凄く暑い。
「暑いね・・・」
母が言う。
「「うん」」
僕と弟。
「現れてくれないね?」
「そうだね」
見るだけでも嫌な部屋に、親兄弟と真っ暗で暑い中 母の想いに応える為に座して待つ。
精神的な拷問の様なものだが、お兄ちゃんは頑張る。
家族を守るのも、長男の仕事なのだから。
ん〜
結果としては、何も出なかったんだけどね。
もう僕と弟が寝なければならない時間になり、解散して寝た。
そんなのも有って、僕は行った事の無い家に行くのは、凄く緊張するのだ。
今回は、そんな部屋が無い所で良かった。
まあ……僕には霊感なんて無いし、気分の問題だと思うけどね。幽霊なんて見た事が無いしさ。
あの嫌悪感は何だったんだろう?
兎に角 その部屋は嫌でした。