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ガチ勢、ゲーセンで娘ができる  作者: なかじゅん
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第一章 チャプター1~3

【第一章】

チャプター1 〔行為プレイ


「どうだ?『目隠し』の『縛りプレイ』ならイけるんだろ?」


俺は悪魔の笑いをその少女に向けた。黒髪で制服姿の少女は、ずっと苦渋を噛み締めたかのような顔で俺をにらみつけているんだろう。

でも少女のその水色の瞳は、俺には見えない。目元が隠されている状態だからだ。


突然だが、今俺は、その少女=さゆりと、ある「特殊な行為プレイ」を行っている真っ最中だ。

ゲーム方式であるのだが、まあ、俺の誘いを受け、挑んだのは、さゆりにとって大きな失敗だっただろうな。

「こんなの・・・きつすぎる・・・舐めすぎだって・・・」

さゆりは悲痛の声を漏らす。確かに舐めすぎではあるとは思う。それはそれは恥ずかしい思いをしているに違いないだろう。だが、俺にとってはそれがとっても気持ちいい。いいぞもっと苦しめ。

縛りは相当なきつさであるはずだ。どんどん俺は優位になっていく。

「高校生なのに・・・どこでこんなテクニックを・・・」

俺の手は激しく動き、的確な場所を触っていく。指まで器用に使ったテクニックにさゆりは驚いてくれて、うれしいものだ。もっと攻めてやる。

「はぁっ・・・!ダメ・・・無理・・・!」

さゆりの荒い息遣いが聞こえてくる。きっと頬を紅潮させ首筋には汗が光っているな。こいつは熱くなるといつもこうなるし。

(となると、さて、そろそろフィニッシュを迎える頃だな。)

最後は一気に速くなる。最後までしっかりハメて・・・




よし!!!



「っ・・・!!!ふぇぇ・・・!?」

最後の絶頂にさゆりは声にならない声をあげた。




「えっ・・・しゅ・・・すごい・・・!」

その目線は、泳いでいるように見えて、俺の ”画面” に向いていた。


《FULL COMBO!!!》


俺の画面の、華やかに彩られた、その文字に。




チャプター2〔リザルト〕


そして俺は ”自分につけられた” 「目隠し」をはずし、”素手”のその手に握る。

目の前には・・・時計のような形をした、光る画面の ”音ゲー” があった。

自分のリザルト画面を見る。画面の中心に映された《FULL COMBO!!!》の文字とその周りをピョンピョン跳ぶディフォルメのキャラクターたち。

随分と見慣れているからか、普通に感じる。

「まぁいいんじゃね?」

普通の感想を述べる。普通に。

「いいんじゃね?じゃないよね!? ”目隠し”と”素手”っていう『縛りプレイ』でなんでフルコンが出せるの!?」

すると、さゆりは画面を指差しながら真っ向から講義を申し出た。なにキレてんだこいつ。

「でもLV.10の初級楽曲だし、というかこれくらいのハンデを申し出たの、お前じゃん」

「たしかにそうだけど・・・。だって、これならソウくんにも勝てるかなって。」

「甘いな、これでも舐めプのレベルだ。本当に勝ちたいなら俺の腕を切断でもしないとな」

「じゃあ今から電動のこぎり買ってくるから待ってて」

「さすがにやめてくれ」


―――千葉県、船橋市船橋。

駅から降りるとすぐ近くにその建物はあった。

ゲームセンター「GRIM」。

7階建ての大きな建物についている赤い看板には、白い文字でそう書かれている。

地域最大級を誇るそのゲームセンターには、クレーンゲームやメダルゲームをはじめとした様々なゲームがある。

普段から老若男女、様々な人が利用するここは、今日もたくさんのお客でにぎわっていた。

今は夏休みということもあってか、平日というのに学生の客も大勢いた。

このゲーセンでは、それぞれのフロアにジャンルごとにゲームが配置されている。

そして5階のフロア。他のフロアより少し照明が暗いそこは「音楽ゲームエリア」となっている。

他のフロアより圧倒的にうるさいここだが、いろんなジャンルの音ゲーを、いろんな人がプレイしているのが見受けられた。

その階の、一番奥。そこには一際目立った配色の音ゲーが四台並んでいた。


さて、俺は自分の名前をしっかり覚えてくれない同級生、「藤本ふじもと さゆり」との勝負に勝った。

やれやれ。俺の名前は「かなで あおい」であって、音読みはでは ”ソウ” だけど、俺の名前は ”かなで” であって、あーもういいや。

高校1年からの関係だからもう3年目だというのにいいかげんに覚えてもらいたいものである。

さゆりは俺のクラスメイトであり、数少ない友達のひとりである。

けっこうおっとりしていて、天然。さらに子供の面倒見が良い。だから突然飛び出す怖いセリフは普通に驚く。

普段から艶やかな黒髪を二つに結って肩の上に乗せている。たれ目から覗く瞳は澄んだ空色。

胸のふくらみは、意識しないようにはしているが・・・まぁ、そこそこある。

友人に言わせると「天然系お姉ちゃんキャラ」だとか。よくわからんが。

今日は学校帰りで私服の俺とは対照的に整った制服を着ている。


俺らは今、音楽ゲーム「BeaTaps」でスコアの対決をしていた。

まずこの音ゲーから説明すると、このゲームはレーン式ボタン型、時計みたいな見た目の音ゲーである。

丸い画面の周りには12個のボタンがあり、そのボタンを叩いてノーツを取る。

正しいタイミングでボタンを的確に触り、ハイスコアを目指すといった、一般的な音楽ゲーム。かなり簡単だと思う。

このゲームは初心者にもやりやすく、さらにやりこみ要素が多く、深いためハマる人も多い。

さらに二人以上で対戦もできる。というわけで、さっきまで俺とさゆりは対戦していた。

ちなみにこのゲーム、俺は結構やりこんでいるが、さゆりはまだ初心者。実力に差がありすぎた。

それだと不利なので、さゆりはあるハンデを俺につけてきた。

それが ”目隠し” と ”素手” といったいわゆる「縛りプレイ」である。

このゲームにおいてこのハンデは相当なきつさである。まぁ俺には関係ないけど。


まず目隠しということは「視界が奪われる」ということに他ならない。

基本的に、音ゲーというものは主に「視覚」「聴覚」「触覚」の三つの感覚が重要な要素である。

音を聴き、目でノーツを捉え、手でとる。これが一連の流れとなるからだ。

その中でも視覚という情報は最重要な要素となっている。

ボタンの位置を把握する、ノーツの飛んでくる位置、形状や長さ、どのタイミングかなどを全て判断するのが、この「視覚」であるからだ。

つまりである。俺がやった、この目隠しは「無理ゲー」なのである。普通なら。

だが、俺はその状態で全てのノーツを取ることができた「FULL COMBO」を達成した。すごいっしょ。

そんな無理ゲーをクリアできたのは、失われた情報を別の要素で補ったからである。

その要素とは「記憶力」である。つまり、「位置」「形状」「タイミング」を、俺は全て ”把握” していたのだ。

簡単に言えば、あらかじめこの譜面を覚えていたということ。

俺は記憶力はよいほうである。でもそんなに簡単なことではない。

繰り返し譜面をみて覚え、実際のプレイに重ねてみる。それもボタンの位置も把握しながら。

結構むずかしい。目隠し状態ではボタンの位置もわからないしね。だから、すごいっしょ?


さらに、”素手プレイ” も俺をかなり束縛していた。

一見普通のように思えるかもだが、音ゲーマーはたいていの人は ”手袋” を着用してプレイをする。

このゲームに限ったことではないのだが、手袋はかなりプレイングに影響する。

手袋をつけると良い理由はゲームによって違うが、BeaTapsの場合はすべりやすくなり、ボタンを押しやすくなるといった長所がある。

つまり手袋がない素手プレイはやりづらっくてしょうがないわけだ。

俺は普段からイベントで購入した青色の手袋を愛用しプレイしているのだが、今回はプレイ前にさゆりに没収されてしまった。手袋ぉぉ。


まぁ、つまりまとめると。

「俺、TSUEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE」

「うるさい」

「さぁせん」

一瞬で黙らされてしまった。俺、弱ぇぇぇ。

さてと、自分のスコアをスマホで撮影しておく。

そしてコンティニュー画面を放置し、プレイを終了させる。


「見ろよ、サファイアのプレイだぞ」

「目隠し、素手でフルコンって化け物かよ」

「これが ”全国優勝経験者" のプレイかぁ・・・」


すると、後ろに立っていたギャラリーの方々の話し声が耳に入った。

BeaTapsの筐体の後ろは通路になっているのだが、そこには10人程度の観客がいた。スマホで撮影している人もいる。

この人たちは俺がプレイしていると自然と集まってきた。

どうやら俺の正体に気づいている人もいるようだ。

賞賛の声は普通にうれしいし、しっかりと敬意を払わねばと思う。

俺はさゆりから手袋を返してもらうと振り返り、ニコッと微笑んだ。

・・・おい、誰だ今キモいって言ったやつ。




チャプター3〔サファイア


「ニヤニヤしちゃって。キモ」

その声はギャラリーの端の方から聞こえた。誰が言ったかは声で気づいている。

暗く、よどんだように聞こえたその声の主は、これまた同級生の女子、「神林かんばやし 麗華れいか」。赤茶髪でショートカットの彼女はこのゲームセンターでアルバイトをしている。

普段から機嫌の悪そうなオーラを放っており、あまり人とは接しないタイプなのだが、なぜか俺に向けてはよく口を開く。出てくんのは大抵するどいやいばなのだが。


「はいはーい、皆さん。サファイアのプレイは終わったよー。ほらプレイしないなら出てった出てった」

神林は抑揚のない言葉とともに手に持ったモップで観客たちを解散させていく。まるでほこりのような扱いだ。


「おいおい、俺のファンたちをどうするんだよ」

「何がファンよ。あんた見世物扱いなのよ、ここでは」

「見世物とはナンだ。俺は皆さんにパフォーマンスをだな・・・」

「いるだけ邪魔な障害物に見せるものなんてないでしょ。あんたのプレイを見るだけ見て、何にもプレイせず帰るなんて邪魔よ邪魔」

神林はため息混じりでそう言った。

たしかに正論ではある。店側としては何にもプレイしないのにただ集まってくるやつらは邪魔なのかもしれない。せめて邪魔にならないようにするとか、プレイしてくとかならいいんだけど。

でも、もうちょっとやさしい対応してやろうぜ?


「俺は普通のプレイをしてるだけなんだけどな」

「ねぇ、なんでソウ君のプレイにこんなに人が集まってくるのかな?」

解散していく客たちを見ながらさゆりが口を開く。そうかこいつは知らないんだっけ。

俺が胸を張って「実はだな」ときりだすと、

「こいつはね、二年前のBeaTaps全国大会でたまたま優勝しちゃったヤツなのよ」

その返答を俺の代わりに神林が答えた。おい、たまたまとは何だ。

「全国大会の優勝者!?すごい人だったんですかソウ君は!?」

そうだよ、すごい人だったんだよ?俺は。もっとほめてもいいんだよ?


そう。俺は二年前、確かに全プレイヤーの頂点に君臨した。

BeaTapsの全国大会、「BeaTaps・Battle・of・Japan・Ver.BLUE」という大会である。略して「BBOJ」。

毎年行われているこの大会はトーナメント式で行われる。

六年前の初代のバージョンからやりこんでいた俺はこの大会で優勝することができた。というのもトーナメントであまりランカーの人たちとぶつからなかったからなのだが。

当時高校一年生だった俺は「最強高校生」として一気に名が広がった。

そういうわけでこのようにギャラリーの人が集まるのである。


「たまたまでも大会に優勝すると限定の称号がもらえるんだけど、そのときの称号が二年前のBLUEバージョンになぞらえて『調律主サファイアチューナー』だったの。そんでプレイヤーの人たちは愚かな見世物を『サファイア』と呼び、嘲笑するのだった、というわけ」

「『敬愛する』の間違いだろ」

さすがにここまで連続して飛んでくるナイフは捌ききれない。説明は丁寧だけど、俺に対する攻撃は見事なほどだ。

「つまり、ソウくんのプレイがすごいからいろんな人が見に来ると」

「そういうこと」

「んで、そいつらは集まってくるだけの障害物だから、俺にはプレイを控えてほしいと」

「そういうこと」

「容赦ねえな」

神林が俺を嫌がってるのはそこにあるのだろうか。嫌なのが集まってくんだったら、もとを絶つという意味で。

嫌な客という虫に好かれた俺という花は、神林という除草剤に駆除されるというのか。除草剤で直接客を攻撃しちゃえばいいのに。


「しかも邪魔である上に、本当にプレイしたい人がプレイできない状況だから、困っちゃって」

「確かにそれは迷惑ですね」

同感だ。これだけ人がいれば圧力でまともにプレイできないだろうしな。

集まってくるやつらも俺のこと知ってるってことは、少なからずプレイヤーだろうに、なんですぐ帰っちゃうんだろうか。


「というか藤本さんもこいつとプレイすることないのよ?嫌な客に注目されるわけだし」

すると、神林は腰に手をあて、あきれたような表情でさゆりに質問を投げかけてきた。

まぁ、確かにやりづらいとは思うな。こいつにも苦労かけさせて悪いと思う。

しかしその質問に、

「いや、でも、私はいいですよ。ソウ君と一緒でも」

さゆりは目線を下に向け、少し言いづらそうにして答えた。

意外な答えである。そうなのか。嫌じゃないならもっとイジメてやってもいいのだが。

・・・さすがにかわいそうだな。


「この変態のどこがいいのよ」

またしても質問を投げかけてくる。質問の意図はよくわからないのだが、俺は変態ではないぞ。

「・・・えっと、それは・・・」

するとさゆりは両手をもじもじさせながら返答をためらった。

必死に答えを探しているように見える。 うん? 俺のいいところそんなに思いつかないかな? 少し傷つく・・・。


「まぁいいんだけどね。どっちでも。そういえば、もう六時ですよ」

「おう、そんな時間だったか」

急に店員口調に戻した神林は、手元の腕時計を指差す。

外はまだ明るいが、確かに人は減ってきているようだ。

今日は昼過ぎから来たからざっと三時間くらいたったか。夢中になりすぎて時間を把握していなかった。

高校生だから六時以降でも入場はできる。俺はもう誕生日を迎え、18歳なので一応閉店までいられる。

まぁでも帰るとしよう。これ以上さゆりをつき合わせても悪いし、俺は邪魔な客ホイホイでもあるんだし。


「んじゃ、行くか。さゆり」

俺は筐体の前に置いといたカバンを取り、歩き出す。そして、後ろからついてきたさゆりと横並びになる。

「んで、俺勝ったけどなんかあんの?」

「それなら帰り道、喫茶店でも寄ってく?なんか買ってあげよっか?」

「まじか!なら例のカフェオレ、トッピングましましで」

「・・・ガムシロましまし?」

「甘いわ!!!」


これは普段通りの、他愛のない会話。こいつとはこんなくだらない話ばっかりである。

確かに俺は全国優勝経験のある「ガチ勢」といわれるものかもしれないが、あくまでこっちが地なのだ。

いかにガチでも普段から音ゲーの話題ばかり話しているわけではないし、さゆりのような初心者の友達とも関係をもつ。

こいつとの関係は不思議とリラックスでき、俺にとってはとても居心地よく感じるのだ。


さゆりと笑いながらエレベーターを待つ。

すると突然、背後から何かきつい視線がした気がした。

振り返るとモップを持った神林がなぜかこちらを見ている。

こころなしかその表情はいつもより不機嫌そうに見えた。

「ん?どうかしたか?」

「っ・・・!なんでもないから!!」

確認するとやたら語調を荒げ、神林は怒鳴った。なんなんだか。


逆に神林はよくわからない。敵意をむきだしにしてるのはわかるが。

でもこいつも嫌なやつとは思わない。普段からゲーセンでお世話になっているし、なにより不思議と関係を続けているからだ。

俺自身もわかってないけどこいつは不器用なやつだ。自分の気持ちを素直に表現できないんだと思う。

わかってないけど、理解はしている。

今の視線も、きっとこういう意味だ。

「お前もカフェオレ飲みたいのか?」

「違うわ!さっさと帰れ!!」

あれ?違うのか?ガムシロの方?


「・・・ばか。」

エレベーターの扉が閉まる瞬間、確かではないが神林がそうつぶやいたような気がした。

俺はその意味不明な言葉とともに改めて思った。やっぱりこいつはわからないな、と。

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