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陰陽戦線  作者: 小林剣輔
第一章 地獄
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第一話 人と人の戦


 キン、キン、と銀閃が闇夜に何度もぶつかっては響き合う。


 片方は夜中なのでかなり目立った白い髪の少年。後天的に色素が抜けたわけでもなく、ましてや染めたわけでもない。彼の天然のものだ。

 もう片方は何故か仮面をつけた中年の男性らしき人物。ずっしりと重さのある長刀を身体全体を使って巧みに操っている。筋骨隆々なその姿は、今までも一日も鍛錬を抜かしていなかったのだろう、幾度も戦場をくぐり抜けてきた戦士のそれだ。


 白髪の少年が扱っているのは通常より短い白刃。中年の男の長刀は逆に一般的なものより長いため、余計に少年の刀は短く見える。

 しかし戦局は対等、いやむしろ少年が押しているようだった。

 

 激しく剣戟を打ち鳴らし、二人は一旦距離を取る。少年の方が受けた衝撃は強く、大きく後ろへ跳躍して衝撃を減らしていた。

 ビリビリと未だ衝戟の残滓が少年の腕を揺らす。大した筋力だ、と思う。もしかしたら長刀に何かしらの術式を掛けているのかもしれない。これが素の力だと言うならもはや上級陰陽師程だろう。重い刀を持っているにも関わらず素早い動き――僅かにしていた過小評価は見直さなければならないらしい。 

 

 思考は一瞬で巡り、短刀を構える少年。男も長刀を構える――ことはなく、そのまま少年の方へ飛び出してきた。戦闘が長引いたことによる焦りか、それでも何かしらの策があってか――。どちらにせよその行動は悪手だ。


「オオッ!!」


 男が初めて年相応の野太い声を仮面の奥から迸らせる。男が巨躯に似合わない俊敏な跳躍で少年に跳びかかる。

 

 閃光――。少年がスライディングするように男の股の下の空間を通り過ぎる。腰を落とした低い体勢のまま男の背中を斬りつけようと刀を脇に構える。


 一閃。


 横薙ぎに旋風が巻き起こり、背中に一直線の一生残る切痕がつけられる――ことはなかった。

 あろうことか、男は身体全体では振り向かずに半身だけを回して右腕を盾にしたのだ。刀が中途半端に腕に突き刺さり、鮮血の赤が溢れ出す。皮、肉、骨と抉っていく感覚が両手に響いた。


「――――ッ」


 腹の底から湧き出る倦怠感を押し――堪え、襲い掛かる次の一撃に備えて後方へ足を滑らせる。男は今度こそ身体全体で振り返って刀を大上段に構え、筋力と重力に従って振り落とした。

 ドフッ! と地面に爆発じみた威力で刀が叩き落され、視界が完全に遮られる程の砂埃が巻き上がり、世界が外界から閉ざされる。

 

 ――真っ直ぐ向かって来る。


 直感的に少年はそう悟り、しかし短刀で迎撃しようとはしなかった。短刀を左手に持ち替える。


 すっと身を屈め、五指を地に這わせてピタリと右手の掌全体を大地にくっつける。初めて手で触れた地面のはずだが、どこかやけに安心感があった。

 心を落ち着かせ、ふぅ―と肺の空気を吐きだし、目の前の砂埃を見据える。


 バッと眼前の煙幕を斬り裂きつつ現れた男。


 瞬間、身体で練っていた殊力(しゅりょく)を右手を介して地面に流し込む。少年の殊力が世界に干渉し、大地へ影響を与えてその姿を変える。


 ドドッ!!

 

「か、ふっ……」


 男が口から真っ赤な鮮血を吐きだす。少年を斬り殺そうとした体勢をそのまま静止させて、目を愕然と見開いていた。


 男は、足元の地面から飛び出した数多の樹木の槍に身体を貫かれて、それ以上の動きは許されない状況にあった。割れた仮面が宙を舞って男の顔の下半分が露わになる。

 この樹木の槍を生み出す術は『人を貫く』ことに特化した形になっており、いくら男の鋼の如く強靭な肉体でも容易く風穴を開けることが出来る。いつもならこれで即座に息の根が止まるのだが、この仮面の男は即死しなかった。意外に思いつつも、苦しみが長続きすることに罪悪感が胸を燻ぶった。


 樹木の槍から身体を解放され、どさりと地面に仰向けに倒れる男。その様は敗北したにも関わらずあまりに堂々としており、場違いながらも少年に感慨を覚えさせた。


「かおは……、みないで、くれ……。さいごの、意地だ……」


 男が、あまりにも弱々しく小さな声を唇から絞り出す。男の最後の希望を無下にする程、少年は下衆ではない。近くに落ちた仮面の破片を拾い、男の仮面に合わせた。それでも完璧に隠れたわけではないが、少しはマシになったはずだ。


 男の唇が声を発せず動く。すまねえ。そんな風に見えた。

 

 そしてその言葉を最後に男は完全にこと切れた。


 ぱっぱっと服に舞った埃を払い、男の名前を確認する。白い名札が服に刺繍されてあった。

 上条龍之介。

 ぶちっとその名前が書かれてある名札をちぎり、自身のポケットに入れた。簡素な墓ぐらいはつくろうと、敵国の人間であるのにそんなことをしようと考えた。


 短刀を背中の鞘に押し込み、先程まで陰陽師だった肉塊に背を向けて仲間の元へ駆け出した。


 素早く風を纏って駆けながら、何故俺は戦っているのだろうと、ふと思った。 


 国を守るため、仲間を失わないため、戦闘を楽しむため、自分が強くなるため――――。理由などいくらでも溢れ出る。

 

 今宵も夜空の下に死が溢れかえり戦場に真紅の花が咲く。闇夜の鏡を焼き尽くす猩々緋の炎は、この戦で無念の死を遂げた、陰陽師たちの赫怒の魂のようだった。

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