異世界に降り立つ博愛主義者2
「ほわぁ……」
感嘆の吐息を漏らす玲奈だが、その気持ちはわからなくもない。
同性の玲奈でさえ、意図せずに見惚れてしまうほどに目の前に立つ少女の姿が完璧過ぎたのだ。
金色の長い髪、透き通るような青い瞳、口元に携えた親愛の情を抱かせる微笑みを浮かべる少女は天使と錯覚するほどである。
「私は聖フローレンス王国、第1王女のクレア=フローレンスと申します。我が国は今、未曾有の危機に晒されており、是非とも皆様方からの助力を頂きたいのです」
クレア王女の言葉に皆に動揺が走る。
未曾有の危機という言葉を前にしたら当然だと思う。
はっきり言えば今、この瞬間に起きていること自体が僕らにとっては未曾有の危機的状況な訳だし。
「なるほど、失礼を承知で聞いてもよろしいでしょうか?」
ふと、挙手をして口を開いたのはクラスメイトの一人、宗方喜一だった。
クラスの中心人物であり、剣道部主将を務め、学年トップの成績保持者である。
しかも、人格も真面目でありながらも、冗談も交えることができるという王女様とはまた違った意味で完璧な人である。
現に彼が発言しただけで、皆の動揺が和ぐほどだ。
「はい、お伺い致します。聞きたいことは山ほどあると思いますので」
「助かります、聞きたいことは全部で3つあります。1つ、未曾有の危機の内容とは?」
「実は我が国は魔族の住まう辺境の地と国境を交える国なのですが、近年魔物たちが国境付近に次々と現れているのです。古より魔物の増加は魔族の侵攻の前触れとされており、危機感を覚えた父、国王様が今回の勇者様の召喚を提案致しました」
「それは俺たちに魔物や魔族と戦えということですか?俺たちの力を借りなければならないほど、この国の武力は拙いのでしょうか?」
さすが、宗方さんだ。
気になる点をズバリと聞いてくれる。
現に王女様はかなり困った顔をしている。
「お恥ずかしい話、我が国は小国であり、他国と比べて兵力はかなり劣っております。同盟を結んでいる他国も現状では静観の姿勢なのです」
あぁ……なるほど、そういうことか。
僕の頭にこの国の現状と立場が推測できたのだが、この流れはあまり歓迎できない。
僕でさえ気付いたことなのだ、宗方さんも当然のように同じ考えに至ったのか眉間に皺を寄せて難しい顔になった。
「詰まる所、この国は防波堤か……厄介ですね」
「?? ねぇ、ねぇ、颯汰、宗方君は何で難しい顔しているわけ?」
話の流れがイマイチ掴めていない様子の玲奈は再び僕の制服の袖を引っ張ってきたが、今は宗方さんと王女様の話の方が重要なので無視させてもらおう。
あと、無視されたからって頬を膨らませるな、僕らはもう高校二年生だぞ。