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覚醒のグリフォン戦 上

「…………っ!」


避けろと言ったものの、アルシャは俺の方に意識を向けていたためか一瞬判断が鈍る。


しかし、巨大な影は待ってくれない。

俺とアルシャ目掛けて突っ込んでくる。


「チッ!」


俺はめんどくさそうな敵が来たものだと舌打ち一つすると、アルシャを抱えて横っ飛びに距離をとった。


その瞬間、影は地面に到達する。


──ドゴーン!


オークが倒れた時よりも数倍大きな音と振動。

もくもくと舞い散る砂埃は、ドライアイスの煙のような効果を出し、ラスボス感あふれる演出を生みだす。


こりゃ、まだまだ帰れそうにないな。


──クァァァ!!


影は重量車級の立派な翼をブワッと拡げてその姿を現した。

鷲の頭に翼の生えたライオンの胴体。

──グリフォンと呼ばれる魔物だ。


グリフォンの体長は3メートル程。

魔力の反応から見るに子供のようだが、立派なA級の魔物だ。


「んー! んーん! ん!!」

「あぁ、ごめんごめん」

「ぷはぁ! ちょっと! いつまでもそんな抱きしめなくてもいいじゃない!」


力を弱めると顔を俺の胸からガバッと離れて文句を元気に言う。

余程苦しかったのか、顔は真っ赤だ。


「あれくらいの突進だったら避けられたわよ」

「それは悪かったな」

「はぁ~……文句は後で言うわ。とにかく、アイツが犯人ね?」


俺は無言で頷き返す。

ていうか、まだ文句言い足りないのかよ。

たらりと嫌な汗をかく俺をよそに、アルシャは1度収めた剣を再び抜刀してぎゅっと握りしめる。


「なかなかの魔力反応ね」


そう言うと俺のことを護るように一歩前に踏み出した。


──クァッ! クァッ!


大抵の冒険者なら、両羽を伸ばしたグリフォンの迫力たっぷりな威嚇にすぐ逃げ出してしまうだろう。

しかし、俺にはこの威嚇が敵対心から来るものではなく、なにか焦っているように感じる。

気のせいだろうか。


そんなことを考えてると、アルシャは静かに語り出した。


「ユウトごめん。さっきのやっぱり嘘」

「何のことだ?」

「後で言うってやつ……守れる保証がないわ」


アルシャの背中から覚悟を感じる。


「ユウト! あなたはさっさと逃げなさい!」

「は? 置いていけるかよ」

「いいから! ……A級の魔物なんて、普通冒険者数十人で討伐する魔物よ。私一人じゃそんなに時間は稼げないわ!」

「だったら俺も戦えばいいだろ?」

「何言ってるのよ! あなたはF級なのよ? 正直、この場所に立っていられる時点ですごいと思う……私のことは置いて行って! 早くッ!!」


段々と強くなっていく口調に、おのずとアルシャの方へ視線が移る。


するとすぐに分かった。


ガタガタと小刻みに体が震えていることに。


それを隠そうと自分を奮い立たせるために言葉を強調させたのだろう。


ったく、カッコ良すぎる。


普通、自分の命がかかっている状態で昨日知り合った人物を助けようとするだろうか。加えて、自分だって一刻も早くこの場所から立ち去りたいという状況でだ。


口先だけならどうとでも言えるだろう。

しかしアルシャは現に俺の前に立ってくれている。


「ははっ……カッコイイなアルシャは」

「は? いきなり何!? ……ッ!?」

「少しくらい、俺にもカッコつけさせてくれよ」


そんなことをされたら、俺だってカッコつけたくなるじゃないか。

男なんて、女性の前ではいつだってカッコイイのもでいたいからな。


なんていっちょまえに理由をつけてアルシャの前に立って見せた。


「ちょ、何やってるの!」

「まーまー。ここは俺の顔を立ててくれよ」

「立ててくれって……命がかかってるのよ!」

「それはお互い様だ」

「だったら一人でも生き残る方を選ぶでしょ!」

「いや、俺は二人が生き残る方を選ぶね」

「そんな方法……ないわ!」

「なるほどな……」


こりゃなかなか頑固だなぁ。


そんなやり取りをしているうちにグリフォンは魔力を溜めだす。

大きな攻撃を仕掛けてくるだろう。

B級以上の魔物になると普通に魔法使ってくるから厄介である。


俺一人だったらなんとかなるが、ガタガタ震えて体がこわばっているアルシャがやり過ごせるかどうか……。


……しゃーないな。


「アルシャ!」

「なによ」

「好きな食べ物はなんだ!」

「は!? なんなのよその質問は!」

「いいから!」

「……ケーキ……」

「何だって!?」

「パンケーキよ!!」

「帰ったら奢ってやるから、ここは俺に任せとけ!」


──クァッ!


そう言い終わると、グリフォンは翼をブンブンと羽ばたかせ風魔法を繰り出した。

二つの羽から生み出される二つの旋風。

そこに自分のカミソリのような鋭く、頑丈な羽を少し混ぜることで、土を抉り、木々を切り裂く風魔法に昇華させる。

そんな攻撃が、蛇のようにうねりながら俺の方に向かってくるのだ。


「ユウト!!」


アルシャは叫ぶ。


恐らく、アルシャには俺が木っ端微塵になった姿が予想できたのだろう。


だが、現実は予想を簡単に裏切っていく。


「風よ来い!」


俺がそう言うと、先程までの旋風はまるで何事も無かったかのように姿を消失させるのであった。


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