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これがオークの倒し方

──フガ……フゴッ……。


森をしばらく進むと目的の魔物を見つけた。

不快な顔……と表現したら失礼だが、生理的に悪寒を走らせる顔つきをした魔物──オークを、俺たちは気配を悟られ無いよう木陰から観察している。

イノシシを仁王立ちにさせ、でっぷりとした腹と肉厚たっぷりの手。

オークを表現したらそんな所だろう。

エロゲーではお世話になった。


「いつ見ても気持ち悪いわね……」


隣にいるアルシャは、ブルりと体を震わし服の下の鳥肌を沈めようと腕をさする。


確かに、時折口から吐き出されるモワッとした息や、何日も風呂に入ってないのだろうか体をかきむしる動作を見ると、はっきり言って近寄りたいとは思わない。


「まぁ、清潔感とかは皆無だな」

「……さっさと終らせて帰りましょ」


俺も同意見だ。

風向しだいでツーンと酸がかった臭いを感じるのはもう嫌だからな。

遠距離から魔法でさくっと倒すに限る。


「じゃあ、アルシャ。お願いします」

「ん? どういう事?」

「いや。俺がこの距離から魔法使えばアルシャまで巻き込みかねないからさ」

「は? 何言ってるのよ。ユウト魔法使えないってさっき言ってたでしょ? はぁ~……ドラゴンといい妄想だけはA級ね」


いや、まぁ、確かに初級魔法は使えないと言ったが魔法を使えないわけじゃないぞ。

なんだったら使ってやろうか?

魔界を20分で火の海にした俺が魔法を使ってやろうか? お?


「はぁ~……でもま、その冗談のおかげで少し気が紛れたわ」


アルシャは脱力したようにふっと笑った。

おかげで俺まで力が抜けてしまったではないか。


「そりゃどうも。てか、俺じゃなくてもアルシャが魔法を使えばいいんじゃないか?」

「……そ……それはダメよ。ほら、奇襲じみたことでオークを倒してもユウトが得られるものなんてないじゃない? ユウトには自分の身は自分で守れるくらいになってもらわないと」


一応冒険者なんだから。と付け足した。


まったく面倒見のいい事で……。

こんなことを当たり前のように言えるのがアルシャのいい所で、凄いところなんだろうな。

ギルドでのあの人気ぶりも納得だ。


だから、『その手があったかぁぁ』と本気で後悔している姿は見なかったことにしといてやろう。


とは言っても『大丈夫……大丈夫。あれはそういう生き物よ。なんなら可愛いところもあるじゃない。ビックポークと似たような鼻してるし。……うんかわいいー』と、自己暗示するくらいなら素直に魔法を使えばいいと思うのだが。


「……大丈夫か?」

「大丈夫よ……これでも一応A級なんだからね。舐めないでよね!」


アルシャはふんすと気合を入れ、剣を抜く。燃え盛る炎が印象付けられる波紋の片手剣。


戦闘態勢に入ったようだ。


だとしたら俺も行かなきゃならんよなぁ。

やだなぁ。叫ぶたびに飛ぶ唾に当たると三日間は臭いが取れないからなぁ。

もう黙って魔法打っちゃおうかな。

A級さんなら何とかなるんじゃないかな。


「もぅ! 遅いわよ!」

「ちょ、引っ張らんでも!」


考える前に実行すればよかった。

アルシャは俺の手をとると、奇襲? 何それ美味しいのと言わんばかりの勢いでオークの元に歩み寄る。


ふぇぇ、女の子と手を繋いじゃってるよぉ。柔らかくて長い指が俺の手と心をがっちり掴んで離さないよぉ。


と、普段ならなっているところだが、近寄るたびに強くなる臭いと、何万回も剣を振って硬くなった手のひらの前に、緊張など無くなってしまった。

全くどんなけ努力の人なんだよ。


──フゴガ? フゴォォ。


体長は2mと半分。

態度も大物級でアルシャが剣を持って目の前にいるのにオークは動こうとしない。

更にはだるそうに欠伸まで漏らす始末。


「うっ。随分と舐められてるわね」

「そりゃ、鼻をつまんで涙目になりながら剣を向けても迫力はないぞ?」

「ユウトも同じじゃない!」


俺はいいんだよ。

むしろ俺がアルシャの分まで苦しんでやるから、アルシャはさっさと戦って来てくれよ。


──フゴガァ。


「臭い……アルシャさっさと終わらせよう」

「そうね……それじゃあ行くわよ……ユウトが」


是非そうしてくれ。俺はここで待っておくから。

って……ん? 誰が行くって? ちょっと? なんで手を引っ張るの?


アルシャはくるりと俺の背中に隠れると、ぐいっぐいっと押してくる。


──ゴガァ?


オークは近づく俺を見てとりあえず武器をとる。

木を削って作った棍棒。

そこには赤紫のなにかの血液が付着している。

あれで殴られたら全身ぺっちゃんこだろうな。


「ちょ、ちょっと!? 危ないんだけど!」

「大丈夫! オークの間合いに入ったら私が剣で防ぐから!」

「だったら俺の前に立ってくれよ!」

「それは嫌よ! 唾とか飛んだら嫌じゃない!」

「俺だって嫌だわ!」


50……30と距離が縮まる。

それに伴ってギリリと棍棒に力を込めながらゆっくりと振りかぶって……。


──ゴガァァァ!


……20mを切ったところで棍棒を振り下ろす。


はぁ~……。鬼教官にも程があるぞ。

俺が本当にF級だったらチビってる。

確かにアルシャは棍棒を弾き返しているけどさ。防ぐタイミングギリギリすぎ。

もっと余裕を持って欲しい。


「……とか言いたいけど、まぁ俺の為にやってくれてるしなぁ」


俺はクルリとオークに背を向けながら言った。


「アルシャ。終わったぞ。早く帰ろう」

「は!? 何言ってるの! 勝負はこれからよ!」

「いや、もう倒した」


俺がそう言い終わった瞬間、ドシーンと大きなものが地面に倒れる音が響く。

地面が揺れた震源を見てみると、そこにはでっぷりとした腹が……。

先ほどまで戦っていたオークだ。


「え? ……えぇぇぇ!! なんか倒れてるんだけど! 何で!?」

「そりゃ、振り下ろされる前よりもアルシャが動く前よりも早く俺が動いて顎に蹴りをくらわしたからに決まってるだろ」

「……えぇぇぇ!?」


アルシャが驚くのも無理はない。

自分が棍棒を弾いた──と言うよりも、勝手に棍棒が離れていった感触を理解した時にはもう戦いが終わっていた。とユウトは言っているのだから。


多分、そこで伸びているオークすら何があったのか理解していないだろう。


「とりあえず帰ろう。この場所にいて、服に臭いがついたら嫌だし」

「ちょ、ちょっと待ってよ! まだ聞きたいことが……」


ザッザッ土を踏んで歩き出す音で、ようやく脳が再起動したアルシャは、小走り気味で、先を歩くユウトを追いかける。


聞きたいことって……もう話すことは無いぞ?

しっかし、手加減したつもりだったんだがなぁ。

もっとC級とも互角に戦えるとアルシャに見せ付けて俺のことを昇級させるよう推薦してくれればと考えていたのだが。

まぁいいや。

何はともあれC級の依頼達成だし、しばらく生活できるぞ!


そう思ったのも束の間……。


「避けろ!」


空から急降下してくる巨大な影に、リラックスタイムは引き裂かれたのであった。

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