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アルシャ=スカーレット

赤い髪とつり上がった目付きに、これまた赤を基調とした軽めの服装。

引き締まった体に携えるはソードのみ。

その顔つきと堂々とした佇まいから、クールな一匹狼のような印象を受けた。


しかし──


「「おかえり! “アルシャ”!」」


ギルドの面々はわーと彼女に群がった。

それに答えるように、彼女はわわわとあたふたしている。


「あらあらアルシャさん。少し痩せましたか?」

「ちょなんなのよこれ……カーナさん!?」

「皆さんアルシャさんの帰りを待ってたんですよ? 皆さんアルシャさんのこと大好きですから」

「そ、それは……ありがとうございます。じゃなくて! そんな1週間くらいなのよ? なのに驚くわよこの歓迎ようは!」

「サプライズ大成功ですね!」


どうやら彼女──アルシャはこのギルドで大人気らしい。

確かに若くてこんな綺麗で実力もありゃ人気も出るわな。

俺は適当な椅子に腰掛けて落ち着くのを待つことに決めた。

いいなーあんな人気があって……。俺なんか皮剥職人とかって思われてたんだぞ……。いいなー。


「はーい皆さん。アルシャさんも疲れてると思いますし、せっかくのお料理も冷めてしまいますよ? そろそろ落ち着きましょうね~」


カーナさんが声をかけると、皆「はーい」と返事して空いてる席に座った。

解放されたアルシャもくちゃくちゃの髪の毛を手ぐしで整え、「なんなのよもぅ」と愚痴を零しながらもどこか嬉しそうに微笑んで席につく。

それを見て、カーナさんは乾杯の音頭をとるとまたも賑やかさを取り戻し、ようやくパーティが開催された。


「うま! なんだよこれ、野菜ってこんなに美味かったか!?」


久々のまともな食事に俺は獣のように貪り食う。

ただの野菜サラダが、こんなにも美味いなんて前世では思わなかったなぁ。

うんうん。お野菜ダイスキー。


「ユウトさん。楽しんでますか?」

「ふぁい! おいひぃでふ!」

「ふふ。食べてから話してくれないと分かりませんよ? それに、そんなに食べていたら私からの報酬も入りません」

「おぉ! おいしそうです!」

「ありがとうございます。ですが、無理しないでくださいね?」


カーナさんは約束を覚えていてくれたようだ。

置かれた料理は半熟卵がパスタをコーティングし、シャンデリアのような輝きを見せるカルボナーラ。

うぅ。悪魔なんて言ってごめんなさいマイエンジェル!


「カーナさん。ちょっといい?」

「どうしましたかアルシャさん」


と、そこにこのパーティの主役がやってきた。

両手に肉串をしっかり持っており、なんというか男らしい。


「いや、これって誰が作ったのかって思って」

「あぁ。これらの料理すべて彼が作ってくれたんですよ?」


なんでカーナさんが自慢げなんだよ。


「そうなのね。私はアルシャ=スカーレット。よろしく」

「……俺は水嶋 優斗だ」

「変わった名前ね。えーと……ユウトでいいのかしら? それにしてもすごい美味しいわ。貴方は普段どこのお店で働いてるの?」

「……俺は料理人じゃないぞ?」

「彼は新しいギルドのメンバーです」

「もぐもぐ……あ、ふぉうだったのね! ゴックン。美味しいわ!」

「そりゃどうも」

「ところで貴方のクラスってなに?」

「え……」


いきなりタイミングを伺っていたことを聞かれたらビックリする。

俺の流れで言ったら、『あ、アルシャってA級何だってね!』『そうなのよ! あなたは?』『ボクかい? ボクはF級なんだよ~』『そうなんだ! だったら私と一緒に冒険に行きましょ!』『ああいいとも!』みたいなことを想像してたのに!


「ユウトさんはF級ですよ?」

「え?」


なんでカーナさんが言うんだよ。


「ほんと?」

「……そうなんですよねぇ」


ほら! そんなしれっと言ったら変な空気になるじゃないか!


アルシャはジロジロと俺のことを見ながらポイっと空いた串を放り投げる。

後ろ向きに投げたのに見事ゴミ箱へ入るあたりカッコイイ。


「ユウト、今何歳?」

「18だけど」

「そう。私と同じなのね」


そしてもう一つの肉串をくらいポイっと捨てる。

カランとゴミ箱に入ったことを音で確かめるとアルシャは確かめるようにこう言った。


「強くなる気は……ある?」

「そりゃある。早く階級を上げないと生活できないからな」

「そう。分かったわ。ご馳走様美味しかったわよ」

「……そりゃどうも」


いきなり話が飛んだので少し言葉は詰まったが、とりあえず答える。

それを聞くとアルシャは背を向けて歩き出してしまった。

どうやら一緒に依頼を受けてくれと頼むのはもう少しあとになりそうだな。


そう思っていたのだが、ふとアルシャは思い出したかのように立ち止まった。


「あ、そうだったわ。まだこの食事のお礼をしていなかったっけ」

「いや、礼ならさっき……」

「そうねぇ。この料理の報酬は……」


そこで言葉を区切り、アルシャは視線を依頼板の方に向ける。

釣られて俺と、そばに居たカーナさんもそちらを見てみる。

すると──


──ボゥ!


1枚の依頼が燃え始めた。


「あの依頼の報酬……でどうかしら?」


燃えているのはC級依頼のオーク討伐。


『私と一緒に受けてみる?』と背中が語ってるようだ。

カ、カッコイイ……。


「ありがとう。よろしく頼む」

「えぇ。こちらこそ!」


ニカッと男前の笑を浮かべて俺たちの元を去っていく姿を俺とカーナさんは眺めていた。


「気にいられたみたいですね」

「そうなんですかね? ご飯に食いつくなんて犬かなにかなんですかね」

「ふふふ。依頼、お願いしますね。無理の無いよう、命優先でお願い致します」

「わかってますよ」


この1週間の方が俺にとって死にそうだったと呟き、飲み物をあおる。


討伐依頼かぁ。懐かしいなぁ。何はともあれ明日からようやく異世界らしいことになりそうだ。

とりあえず、今はこのパーティを楽しむことにしよう。

そう思い、食べ始めたカルボナーラの味は先程よりも美味しく感じた。

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