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鬼軍曹のアルシャ

「流石にまだ起きている人はいないか」


街に着いても辺りはシーンと静まっていた。

皆家で寝ているのだろう。


「とりあえずアルシャが起きるまで俺もどこかで時間を潰さないとな」

「ふーん……誰が起きるまでって?」


ユウトの背中にピリリと冷ややかな寒気が走る。

いや、むしろ殺気に近いんじゃないかな。

ビクッと体を硬直させると、ギギギと首を後ろに向ける。

そこに居たのは──


「こ、声には聞き覚えがあるんだが、そんな全身から火の粉が出てるような恐ろしい女の子ではなく、もっと可愛い顔をした女の子だぞ」

「それはどうもありがとぅ!!!」

「へぶしっっ!!」


感謝されながら叩かれるってどう言った状況? それとも何? 時代はドMに微笑んでるの? どう頑張ったって叩かれる運命なの? 俺もMに目覚めちゃうの? このままだと永遠の眠りについちゃいそうだけど。


頭の中で考え終え、アルシャの一撃で高く舞い上がったユウトの体は地面に叩きつけられた。


「私がどれだけ心配したか!」

「すびまぜん……」

「なに! 聞こえないんだけど!」


鬼軍曹かよ。


「すみません!」

「謝って済む問題か!」


そう言ってアルシャはユウトの頬をバチーンと叩いた。


鬼かよ……。軍曹が逃げ出しちゃうほどの鬼かよ。


「じゃあどうしろって言うんだよ!」

「知らないわよ! 私もなんでこんなに怒ってるのか不思議なくらいよ! 乙女心は複雑なのよー!!」


アルシャの声とともにどこかでニワトリが鳴いた。

ようやく新しい朝の始まりは、赤い太陽と、その太陽にも負けないほど真っ赤な顔をしたアルシャが眩しく思えた。


──────

「で、こんな朝早くにどうしたんだよ」


ようやく落ち着きを取り戻したアルシャと、ようやく痛みが引いてきた俺は公園のベンチに座って話だす。


「そ、それは! ……察しなさいよ」

「なんだよそれ。どんな名探偵でも“うんボクわかんない”って速攻で投げ出すような鬼畜問題は」

「う、うるさい!」


正解は、ユウトのことが心配でたまらず、夜も寝付けなく、こんな明け方から街中を探しまくっていたでした。

まぁ、ユウトが得意げに正解を言ったらそれはそれで「う、うるさい! てか、キモイ!」ってなっているが。


「とにかくユウト、あなた一体どこに行ったわけ? 街中で見かけたって情報もなかったし」

「あの話の流れだったらグレバス山に行ったって思うだろうと思って」

「は? 何言ってるのよ。ここからグレバス山なんて行けるわけないでしょ? 何年かかると思ってるのよ」

「片道3時間……」

「第一、行って何するわけ?」

「いや、アルシャがいっただろ? “グレバス山にはドラゴンがいる”って」

「確かに似たようなことは言ったかもしれないけど……まさかユウト」

「あぁ。グレバス山に住んでいるドラゴンから素材をもらってきた」


ユウトはタスカにしまったドラゴンの素材を取り出し、アルシャに見せた。


「こ、こ、こ、これって本物?」

「もちろんだ。なんならこの角なんて俺が斬ってきたんだぞ?」


ユウトは自慢げに真っ黒な角を見せびらかす。

だが、アルシャはどこか上の空。まるで理解が追いついていないようだ。


「えーと……。ユウト。よく聞いてね。確かにグレバス山にはドラゴンが住んでいるわ。でも、そのドラゴンって他のドラゴンよりも桁違いに強くて、国を敵に回すには十分なほど強力な魔法……S級魔法を使う世界最強と謳われるドラゴンが住んでいるのよ」

「確かに強かったな」

「あの、勇者でさえも勝てなかったほどのすごいドラゴンなの」

「確かにそんなことをドラゴンが言っていたな」

「その素材があるってことは……」

「ん? 俺が倒したからだな」


その言葉に、アルシャの口は“д”見たいに開き、思考回路がショートする。


しかし、しばらくした後、修復作業が終わりバージョンアップした脳をフルスロットルさせ、矢継ぎ早に話し始めた。


「ちょっと、ユウト、あなた、一体どうなってるの! 無詠唱を使えて、世界最強のドラゴンを倒すなんて……F級? それが本当なら、S級……いや、それ以上の強さが……。あぁもう! 訳分からないわ! とにかく貴方は私の仲間よ!」


アルシャは自分でも何を言っているのかわかっていないのだろう。

しかし、そこまで言うと落ち着きを取り戻すため一度深呼吸し、続けて今度は確信的に、少し照れながら言葉を漏らす。


「……仲間なんだから、あんまり心配かけないでよね」


この時にようやくユウトは、アルシャが心配してくれていたということに気が付き、やはり、オカンかと思ってしまうほどの世話焼きぶりに笑が浮かんでくる。


だが、アルシャの言葉は素直に嬉しかった。


「あぁもう! なんにもないわ! それより疲れたわよね。そんな伝説級のドラゴンと戦ったのなら。ていうか、私よりユウトの方が絶対S級に向いていると思うわ。ドラゴンの素材を持って行ったらF級から一気に昇級しないかしら」

「いや、最初から決めてたじゃないか。アルシャがS級になるって。それに、俺が思うにアルシャもS級クラスの実力があるぞ?」

「……え?」

「あとは戦闘経験だけってところだな。自信をつけるとこの世界で言うところのS級の実力ぐらいあると思うけどな」


そう言ってユウトは立ち上がり、アルシャにドラゴンの素材を渡した。


「とりあえず自信を持てってことだな」

「……わかったわ。ユウト……責任とってよね」

「お、おう」


こうしてユウトとアルシャはギルドに向かった。

まだカーナさんが起きていないため、報告をするよりも早く俺が眠りについてしまうだろう。


「……ていうか、何普通に古代魔法使ってるのよ」

「タスカのことか? 便利だぞ」

「……はぁ~」


なんてやり取りをしながらギルドの椅子にだらりと腰掛けて、本日二度目の眠りについたのであった。

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