幕間 とある猫の思い出 ②
天使にこっちの世界に転生させられてから、最初に感じたのは、全身を包むモフモフと、多幸感を感じるぬくもりだった。
目が見えるようになってから、それが真っ黒で大きな親猫と、コロコロとした自分と同じ位の大きさの、黒い兄弟の子猫達だと知った。
[特殊スキル:団結 を獲得しました]
しかし家族に囲まれながらお乳を吸う生活も、そう長くは続かなかった。火の鳥のようなでかい魔物が現れて、親猫や兄弟達を燃やし喰らい尽くした。僕が食べられなかったのは、単に遊びに出かけていて、その場を離れていたからだった。あれは猫のかなう相手ではない。
前世でのお母さんの印象が強いせいか、不思議と悲しみはわかなかった。
[通常スキル:隠密 を獲得しました]
[耐性スキル:恐怖耐性 を獲得しました]
生き残ったのは僕と、その時一緒に出かけていた、もう1人の兄弟だけだった。だから、しばらくは2匹で身を寄せ合って生きていた。しかし、唯一の兄弟も、白衣を着た研究者のような人間立ちによって、連れ去られてしまった。
助けに行くような真似はしなかった。
[通常スキル:隠密 のレベルが上がりました]
[耐性スキル:恐怖耐性 のレベルが上がりました]
[称号:生への執着 を手に入れました]
それからは、とにかく生き長らえることに必死だった。
しかし、いくら[魔王]のスキルがあるとはいえ、ただの子猫がそう易々と生きていけるほど、自然界は甘くない。最初からそれが分かっていたら、天使へのリクエストも変わっただろうに。人間として平和な現代日本に住んでいた僕は、今更ながらに生きることへの大変さを知った。
[耐性スキル:恐怖耐性 のレベルが上がりました]
[通常スキル:気配感知 を獲得しました]
[耐性スキル:空腹耐性 を手に入れました]
[耐性スキル:毒耐性 を手に入れました]
少しでもヤバそうな魔物が来たら隠れて息をひそめ、空腹を紛らわすために口に入れられそうなものを一日中探し回った。都会に住んでいたせいか、植物の毒の有無の知識なんてなくて、何度も毒にやられたし、小動物を狩ろうとして返り討ちに会うことなんかしょっちゅうだった。
だからだろう、前世で見覚えのある、美味しそうなネギが生えているのを見つけた途端、何も考えず飛びついてしまったのは。
[耐性スキル:毒耐性 のレベルが上がりました]
[耐性スキル:毒耐性 のレベルが上がりました]
苦しい、痛い、寒い、気持ち悪い、死にたくない、死にたくない!
猫にとってネギは毒であることを忘れていた、という、こんな、こんなおっちょこちょいで死ぬのか!?
この体の家族も見殺しにしたのに、第二の機会を与えて貰ったというのに、今度こそは自由気ままに生きたいと願ったというのに、こんなにも早くに死ぬのか!?
転生してからというもの、命を無駄にした前世では考えられないくらいに、僕は生に執着していた。ただひたすらに、生きたかった。
薄らいでいく意識のなか、足音のしない何かの気配が近づいて来るのが分かった。
ああ、おかあさんがかえってきた。
前世の母が今いるわけがないのだが、どうしてかそう感じた。懐かしさが込み上げてきて、なんだか安心し、自ら瞼を閉じた。そのまま意識は闇に飲まれていった。