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幕間 とある猫の思い出 ①

ルトナーク帝国の、首都からずっと東のほうに、その村はあった。

澄んだ空気、綺麗な小川、村人が飢えることのない程度の畑、遠くに見えるシェミエル山。この、これといった特徴のない平凡な村、ヒースター村の、その全てが大好きだった。


──────────────────────────


「つ~かま~えたっ!」


金髪青眼の、まだあどけない顔をした少年に、僕の体はいとも簡単にひょいと持ち上げられる。


「ちょっと、お兄ちゃん~!あんまりシェミエル山に近づくと危ないっておばあちゃんが…ってわっ!どうしたのその子猫!?」


そう言いながら走ってきた、少年とよく似た少女は、彼の腕のなかを見た。


吾輩は猫である、名前はまだない。

さっきから、子供に捕まったらなにをされるか分からない!逃げろ!と頭の中で警鐘がなり続けている。頭脳と力を全て脱出に使っているのだが、僕の足は一向に地面につく気配がない。

…ていうか力強いな君。そんなに力強く抱きしめるなんて、もし僕が普通の子猫だったら潰れてるぞ!?


…コホン、あー、あまり自己紹介を勿体ぶっても意味が無いかな。

さっきも言った通り、僕は普通の子猫じゃない。転生者だ。ついでに言うと魔王だ。


猫のくせに何を言っているんだお前は、と思うかもしれない。大丈夫、僕もそう思ってる。でも、どちらも天使から宣告されたことなんだ、僕の知ったことじゃない。

…やばい、そうこう言っているうちに、とうとう息が苦しくなってきた。


「フシャァァァ!!ゥニ”ャァ……」


「いやぁ、この黒猫もっふもふで超可愛いな!力も強いし、もしも俺が勇者になったらこいつを相棒にして旅に出たいな~」


「はいはい、お兄ちゃんのいつもの勇者計画は置いといて…って、その猫苦しそうじゃない!?放してあげて!」


「えっ!?マジか!ごめん猫!」


ふぅ。妹のほうが助けてくれなかったら、兄は正しく魔王を倒した勇者になる所だった。危ない、危ない。

そう。魔王、というのはただの肩書きで、実際は普通の少年にも負けるくらい、僕は弱い。正確には1つのスキルだが。天使曰く、このスキルを持つのは世界でたった1人だけ。その者こそが天使と世界に認められた魔王らしい。


…正直、超胡散臭い。このスキルがあるだけで、かなり強くなって楽できる、という宣伝文句と天使のお願い(土下座つき。上目遣いとかそういうのは一切なかった。ちくしょう。)に押し切られてもらってしまったが、どう考えても胡散臭い。あの、おっぱいと頭ふわふわ星人め。世界にたった一人とか、何人にも言っているんじゃなかろうか…


まあいい、デメリットは今のところ特にないし、あって困るものでもない。デメリットに困らされる日がきたら、こんな厨二臭いスキル、即刻クーリングオフだが。


「そういえばこいつ、飼い猫?野良猫?名前とかあるのかな?」


「うーん、どうだろ?首輪も付けてないし、初めて見る子よね。私たちが勝手に名付けてもいいのかな?」


「おっしゃあ、じゃあ俺達が付けてやろうぜ!あっ、その前に性別どっちだ?」


それを言うやいなや、兄の方は僕の尻尾を持ち上げて覗き込んだ…。見られた。死にたい。

どうしてこう、子供ってデリカシーがないんだ?いや、子供と言うよりは、こいつだけか?大分苦手なタイプだ。


「男の子だな!ということは、う~ん…

クロ、とかどうだ?それかモフ丸とか!あ、猫らしくタマとか!」


「ニ”ャァ!?」


僕は抗議の意味を込めて鳴いた。猫が人間の言葉を理解してる、というのは気味悪がられるかもしれないが、背に腹は変えられぬ。生憎こちらの世界では、名前はステータスに残る一生モノだ。そんな安易に、猫っぽい安い名前をつけられてたまるか!


「鳴いたぞ!!??そっか、そっか!そんなに俺がつけた名前が気に入ってくれたか~!!嬉しいぞ!!」


…駄目だこいつ。空気を読むとか、態度から察するとか、苦手なタイプだ。妹も、やれやれ、お兄ちゃんったらみたいな顔してないで止めてくれ!


[名付けが完了しました。あなたの名前は クロ です]


「フニァァォ!!!」


やってしまった、やってしまった!RPGの最初で名前を入れ間違えるとか、僕が1番やりたくないやつなのに!

ま、まあ、僕は男だし?これくらいのことでグズグズ言うなんて漢が廃る!…グスン。


それにしても、いつまでも兄と妹って呼ぶ訳にもいかないよな。名前が分かるとかなり便利になるんだが。

喋れればいいのだが、にゃぁしか言えないし。どうしたものか…

ダメ元で、地面に「君たちの名前は何?」と書いてみるが、日本語なんだよな。文字にふれる機会がなくて、生憎こっちの文字は分からない。話されている言葉の意味なら、お師匠様から教わったから、わかるんだが。

2人からしたら、ただ地面を引っ掻いてるように見えるだろう。

…妹の方は何故かじ~っと文字を凝視しているが。


自分を指して「ニャッ」とないたり、2人を指して首を傾げたりとジェスチャーを頑張って、なんとか意思の疎通を試みる。


「んん~…?もしかして、私たちの名前が知りたいの?」


「ふぇ?なんでそう思ったんだ?」


兄、君はそれでいいのか。いや、妹の勘が良すぎるだけか?


「まぁいいや、俺はレオだ!!正確に言うとレオナルド・アンドリュー!今日からお前も俺の配下だ!よろしくな、クロ!」


「私はアリス。お兄ちゃんはこう見えてもすごくいい人だから、仲良くしてあげて。よろしくね!」



これが、僕、クロと、レオとアリスの最初の出会いだった。



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