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第1話 違う、そうじゃない

「よく来たな、勇者よ」


厳かな雰囲気の広い部屋に、夜空を思わせるようなどこか中性的な容姿の魔王は、目の前の勇者パーティに向けて言い放つ。

思えば転生してからここまで来るのに、本当に沢山の事があった。そう思うと思い出が全身を駆け巡り、目に熱いものが込み上げてきた。


ああ、紹介がまだだったね。私は魔王でも、勇者でも、勇者の仲間でもない。正直、その誰かになりたかった。





私は、その皆がいる建物、魔王城なのだから


─────────────────────────────


私は、ゲーム、特にRPGが好きな15歳の女子高生、倉本玲香。両親は出かけており、私は1人家で気持ちよく昼寝をしていた。

この家は事故物件らしいが、生憎霊感なんてこれっぽっちもない。なんの問題もなく暮らしていた。そう、今までは。


「なんじゃこれぇぇぇ!!!!」

夢の世界から帰ってきてみれば、近づけば焼けてしまいそうな程の熱気と、視界を覆う煙、その元凶の炎に出迎えられれば、人生で1番の叫び声をあげてしまうというもの。


えっなんで!?火なんて使ってなかったよね!?なんでこんな燃えてんの!?あっなんだ夢か~驚かさないでよ、も~


…現実逃避をしている場合ではない。消化器は玄関口にあり、ここから玄関は遠く、間には火が横たわっている。窓を開けるが、風通しが悪く煙が出ていかない。ここは5階、飛び降りたら特製玲香のミンチの完成だ。火災報知器は鳴らない上に、大声を出しても周囲の人には一向に気付かれない構造。110番はしたが、消防車がこんな路地裏までくるのにはかなり時間がかかるだろう。自分に出来るのは遺書を遺すことぐらい…。…これ、詰んだんじゃね?


次第に薄らいでいく意識の中、ふと電球が目に止まる。

曲がったガラス、光の収縮、小学生の時やった太陽の光を虫眼鏡で集めて紙を焼く実験が思い出される…。


私はこの日、事故物件が事故物件である理由を身をもって知った。恐るべきは霊的ななにかではなく、建物自体だったのだ…

そこで倉本玲香の意識は途絶えた


─────────────────────────────


「おめでとうございま~す!!!!」


目を開けると、目の前には天使の格好をしたやけにテンションの高い、金髪の女性が立っていた。ああ、なんだ、やっぱりさっきのはちょっとリアルな夢で、まだ夢の続きか……

ZZZ…


「って夢じゃないですよおおおおう!!!起きてーー!!」


あーもう、耳元でうるさいなあ、って、夢じゃない!?という事は、さっきのも、


「そう、あなたは火事により死んでしまいました。しんでしまうとはなさけない!」


目の前の人はそう言って、天使なのに威厳無く子供っぽく笑う。威厳があるのは胸だけか…そんなにあるならちぎって私のまな板胸に貼り付けたい。


「って、やめて下さいよ!?あなた、せっかく当選したのになかったことにしちゃいますよ!」


そんな自分の胸を隠さなくても、ただの冗談ですよー。って、私の考えが読まれてる!?そして、当選とは一体。こちらは応募した覚えなんてないんだけれど。


「あ、やっとそこ言わせてくれます?えーと、ざっくり言うとあなたは私に選ばれて、記憶を保持して異世界、あなたがゲームで遊んでいたようなファンタジーの世界に転生できちゃうんです!凄いでしょう?」


その言葉に、一瞬、思考が停止した。転生?転生っていうとあのラノベとかである…

厨二病を経験してきた者なら、1度は誰しも憧れたことがあるだろう。異世界への転生。それができるだなんて!舞い上がるなと言われても無理なものだ。


「おっ、乗り気ですね!よかったです!それじゃあ、なにか要望とかありますか?王様になりたいー!とか、勇者になりたいー!とか、チートスキルが欲しいー!とか、大抵の事はきけますよ?」


おお!改めて未来への期待に胸が膨らむ。実際にはぺちゃんこだけど。

そうだな…前世は事故物件のせいで死んだから、今度は事故が起こることのない安全な家で、お願いします。


「なるほど、それは災難でしたね…分かりました、安全な家、と」


それから、私はRPGのあの謎解きで進むダンジョンが大好きなんだよね。特に魔王城の動く床とか。あれには苦労させられたけれど、とっても楽しかった。今度はそれを作る側になってみたいな。


普通の人だったらきっと、勇者や王様や、特別な力を持った、現世では到底実現出来ないような地位になろうと思うのだろう。私が選んだのはいわば一般人だ。

でも、私は高校生で死んだ。仕事の経験もない。平凡だって私にとってはずっと将来の夢、非現実、テレビの奥やお話の世界でしかない。そういう点では、勇者や王様と同じような魅力をもっているのだ。きっと大人になったら、こんな感情は理解出来なくなるんだろうな。


な~んて、単に私が天邪鬼なだけなのかも


「OK!!おっけー!お易い御用です!」


あっ、でも、せっかくの転生だしチートは欲しいかも!

いろいろ悩むけど、やっぱり異世界転生の定番といえば鑑定チートだよね!戦う以外でも沢山役に立つし。情報は金なり、いや、金以上の価値をもつ。あるのと無いのとでは大違いだ。


「その願い、叶えましょう!!それでは、2人目の転生者様、行ってらっしゃ~い!!!」


その声を聞き終わるや否や、白い光に包まれる。2人目、という事は既に1人転生者がいるのか。もし機会があれば会ってみたいな。敵対していなければいいけれど。

それはそうと、何に転生するんだろう?トラップを作る仕事に就けるって言っていたから、やっぱり力のあるゴブリン?それとも職人のドワーフ?もしや人間?妖精も捨て難いな…


…………


そんなことを考えている内に、視界が開けてくる。どうやら着いたようだ。森の中で、近くにはちょっとした池がある。まるで夏休みに行った避暑地のような、いい所だ。

あああ、本当に来てしまったぁぁ、異世界キャッホオオウ!!

まずは探索だ!と1歩を踏みしめようとした所で、体の違和感に気付く。

人間の形をしていない、というか生物の形をしていない。視界はどこにでも飛ばせるようなので、恐る恐る池を覗き込み、そして私は自分の行動を後悔し、天使への憤りを感じた。








魔王城そっちじゃねえええええええええ!!!!!!!」


私はこの日、2度目の人生で1番の絶叫をした。残念ながら声は出なかったが。





私は、建物に転生していた。


どうも、みのむしです。小説を描くのって楽しいですね!(*´ω`*)

私は常日頃妄想や空想をしているのですが、(お陰で小さい頃は不思議ちゃんと呼ばれてました)それが一部でも頭から出てきて、こうして見える形になるというのは、なんだか感慨深いです

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