6話・シュタハスの加護があらんことを
時刻は昼間。
ドレッド平原を発ち、すぐにエルフの都「マシュルク」に到着した。
街の正門を抜けると、沢山の人々で賑わる「市街区」。
この区域(市街区)には、多様な屋台が並んでいて。
食材屋や雑貨屋、それに武器や防具などなど…
それらの屋台を、多くの者たちが行き交う。
エルフは勿論…
獣人の戦士、重騎士に弓兵、魔術師…
見渡す限り、様々な種族の戦士たち。
そんな慌ただしい人混みを…レオ一行は、苦労しながら進む。
彼ら(レオたち)の用事は、ギルド区域の「宿屋」に泊まる事。
だが、そのまえに…
シェムハザを「図書館」まで、送ろうと言うのだ。
正直、ウラドは、乗り気では無かったが。
優しいフレイが、自ら申し出たのだ…
ゆえに、ギルド区域に向かう途中。
ついでに、寄り道する羽目になった。
そして、果物屋を通過するとき。
最後尾のウラドが、一人の女性とぶつかった。
その女性は、ローブを着ており。
とても愛おしそうに、とても大切そうに。
両手で「何か」を、抱きかかえていた…
ソレは、小さな赤ん坊。
頬をピンクに染めた、純粋な笑顔。
ウラドは、ハッとして、ぶつかった事を謝った。
「すっ、すいません。お怪我は?」
ペコリと、一礼する女性。
「ご心配なく、大丈夫ですから」
こうしている間にも、レオたちに置いて行かれている。
「それでは、また…」と言い残し、ウラドは、急いで立ち去った。
都合の良いことに…
図書館とギルド区域は、そう離れていない。
また、この図書館は、風変りな構造をしていて。
本館は二階建て…
そして、本館の周囲は、水路に囲まれていた。
まさしく、水の上にある図書館であり。
入館するためには「一本橋」を渡らねばならない。
シェムハザは、橋の前に立つと。
レオたちに「助かるよ」と、適当な礼をした。
「ああ、構わないさ。それじゃあ」
清々しい笑顔で答えるレオ…
「シェムハザ、またねっ」
彼に続いて、フレイも、聖職者に別れを告げた。
そんな二人の手は、ずっと繋がれていて。
最後尾の無能、ずっと黙り込んでいる。
そして、立ち去るとき…
エルフの聖職者は、とある言葉を残した。
「シュタハスの加護があらんことを…」
ボソリとした、そんな台詞なんて。
この場にいる誰も、気にも止めなかった…だが。
ウラドだけには、その台詞が、不気味でならなかった…