9話・夜のはじまり
「ぎいやああああああああ!」
部屋の窓…闇夜の外から、大きな悲鳴がしてきた。
凄まじき悲鳴が、ウラドの眠りを叩き起こし。
彼は、ボンヤリとしながら、窓の夜空を見上げた。
時刻は真夜中…
ギルド区域が、騒がしく(盛り上がる)なる頃だ。
だから、大声がしても、不思議じゃない。
しかし、このとき何故だか…
感情の片隅にて、どんよりとした違和感があった。
ゆえに、外の空気でも吸って、気分を晴らそうと考える。
いざ、部屋の外へ出てみると。
暗い廊下が、不穏な空気に包まれており。
ガタゴト、ガタゴト…と「隣の部屋」から、大きな物音が…
この場にいながらも、ウラドは、そこまで深く考えず。
とりあえず、外出してから、気分を変えたかった。
そう…今の彼は。
無自覚(無意識)ながらも、緊張していたのである。
宿屋を出るには、受付のホールを、通らねばならない。
受付に向かうには、この廊下を真っすぐ…
どうとでも無い、簡単な事だった。
だが…
廊下を抜けて、受付のカウンターが見えたとき。
鼻を曲げるような「悪臭」が、彼の到着を待っていた。
その臭いは、あまりにも生臭く…理性と正気を削ってくる。
まるで、生き物の…人間の「死臭」よう。
これ以上、進んではならない…
人としての本能が、警告してくる。
だが、恐怖という魔の手に、脚の自由が奪われてしまい。
この先の暗黒へ…
愚かな鼠は、震える足を進めた。
そして、はじめの一歩を、前に出したとき。
グニュ…
「何か」を、踏みつけた感触が走った。
?…何を…踏んだ?
恐る恐る後ずさり、その足元を見下ろした。
そして…
ソレ(踏んだモノ)を確認したとき。
彼の奥底から、ドス黒い感情が、溢れ出してきた。
「?ッ…ウっ!」
激しい吐き気が、ウラドに襲いかかる。
だって…踏みつけた「何か」は、誰かの「生首」だったから…
髪の毛に「一凛の花」を飾った…
「エルフの少女」の生首だったから。
少女の生首が、ウラドの足元で転がる。
昼間に出会った、あの笑顔はどこにもなく。
少女の生首が、冷たい地面から、こちらを見上げてきた。
「?!うぅっ!うッう!」
激しい吐き気により、ウラドの視界が揺らぐ。
圧しかかる恐怖に耐えながら、死に物狂いで「吐き気」を抑えた。
そうだ…こんな事、あり得ない!きっと、これは夢なのだ!
錆びれた理性に、ひたすら言い訳をして。
彼は、自分の部屋に引き返した。
少女の生首に、背を向けて…




