再会、そして別れは旅の始まり
俺が持っているオリハルコンの指輪は、好きな人ができるとミスリルの指輪を生み出すマジックアイテムなんだけど、持ち主の居所を感知する事ができるんだよね。
今回は転移のマジックアイテムを起動すると、指輪の力が伴って妻達の元へ転移できるって訳。
「随分閑散とした所だなぁ」
「田んぼニャ」
店舗の前に道はあるものの、どう見ても農道だ。
太陽が上に来ているから昼ぐらいなのか、それでも周りには人影はないし。建物はいくつか見えるから、そこを目指して歩くしかないね。
一番近くに見える家を尋ねる。
「こんにちはー」
「こんにちはニャー」
『ハイハイ、どなたかのぅ』
奥から出てきたのは小さなお婆ちゃん。
「すみません、この辺に越してきたケンジといいます。ここは何村なんでしょう。何分、何も知らずに来てしまったものですから」
「あんれまぁ、ケンジさんというのかい? おらの旦那もケンジって名前だったのよぅ」
ここはなんとトダ村というらしい。何という偶然。
「クンクン……ご主人様、お婆ちゃんからアイリスの匂いがするニャ」
「あんれ、お嬢ちゃんと会ったことがあったかねぇ……」
お婆ちゃんは日焼けしてしわくちゃな顔をハッとさせて、細い目をくわっと開いて言った。
「フク……フクだね、お嬢ちゃん!」
ここはあれから随分と年月が経ったトダ村だった。
そして、このお嬢ちゃんは俺の妻の一人、アイリスだった。
「アイリス……会いたかったよ」
「こんなしわくちゃになっちゃったお婆ちゃんに何だい……しかし、何年ぶりかねぇ……そうだ………」
アイリスは棚から封筒を取り出して、俺に渡してきた。
中身を取り出して見ると、そこには下手くそな俺の文字が書いてあった。
なになに……。
『アイリスへ……君がおばあちゃんになる頃、俺が若いままフクを連れてやって来るだろう。その時に、この手紙と一緒に渡した指輪を渡して欲しい。彼は別の世界から来た俺だから、この指輪の事は知らない。そうだな、彼が持っている指輪の強力版だといって渡して欲しい。そうすれば彼の願いは叶うはずだ』
「指輪?」
「それがねぇ、どこにしまったか忘れちゃったのよ」
三人で二時間かかってやっと探し当てた。
「あらあら、この指輪だったのねぇ。すっかり忘れていたわ」
「せっかくはめていたようですし、俺のこの指輪と交換しましょう」
強力版がもらえるなら、このオリハルコンの指輪はアイリスにあげても差し障りはないだろう。彼女の左手薬指にはめてあげると、自然に丁度いいサイズに変わった。
「フクも欲しいのニャ」
「フクにはミスリルの指輪があるだろ?」
「むぅ、違うのニャ」
「ケンジさん、フクは貴方にはめてほしいのよ」
「流石はアイリスニャ!」
外してはめて。何がいいんだか分からないけど、フクはご機嫌だ。
アイリスと話をして、すぐに新しい指輪の能力を試した。
「ふむ……ゲームみたいなウィンドウが空中に出てきたな」
はめた指輪から現れたそれは、フクの位置に青い点滅が表示されている。しっかりと名前も出てるな。
ちなみに、この世界のアイリスも指輪を持っているけど、色は緑だ。
「どれ位の範囲を見られるのか分からないけど、とりあえずは便利アイテムゲットだな。早速で悪いけどフク、行動を再開しよう」
「はいニャ!」
「元気でね、ケンジさん」
「アイリスもな」
何度も振り向いてしまったけど、見えなくなるまでずっと手を振ってくれていた。この世界の俺はどうしているのか、生きているかも分からないけど、この世界は平和そうだ。