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6.絶交ドッグラン

数日後の朝。サトルと散歩していたら、ハナとおばさんに会った。

「ハナ、おはよう」

 あたしがハナにあいさつしたら、ハナはあたしと目を合わさずそっぽを向いたまま言った。

「ねえリリィ。この前、家を飛び出してどこに行ってたの?戻ってくるまでずいぶん時間がかかってたみたいだけど」


「えーと、それは・・・」

「音と匂いでリリィが出て行くのがわかって、私はママに吠えて知らせたけど、ママはわかってくれなかった。そしてその夜、サトルさんがウチに来てこんなことを言ったのよ。

“ドアが開いてたから心配になって家に入って電気をつけたら、リリィが真っ黒に汚れて丸くなって寝ていた”って。すっごく心配してた。まさか、家を出たのって、前に言ってた悪魔とかのしわざ?だって、サトルさんがドアを開けっぱなしにして出かけるなんて信じられないし。悪魔なんか信用しちゃいけないって言ったでしょ?私だって心配してるのに、どうしてわかってくれないの?」

「ハナ、それは・・・」


 ハナはあたしの話を遮って言った。

「とにかく、リリィがあの悪魔と手を切るまで私はリリィと絶交するから。話しかけたりしないから!」

 そしてハナはおばさんの足元に隠れてしまった。

 おばさんが言った。

「あらハナ、どうしたの?いつもはリリィちゃんと仲良くしてるのに」


 ハナはおばさんが持っているリードをグイグイと引っ張った。

「こらハナ。どうしたの?じゃあ中野さん、今日はこれで。やっぱり最近のリリィちゃんはストレスがたまってるのよ。うまく発散させてあげてね」

「はい、ご心配かけてすみません。ありがとうございます」

 ハナとおばさんは行ってしまった。


 ハナが絶交って言った。怒らせちゃった。たった一匹の友達だったのに・・・

 あたしは急にあんなことを言われたのでショックを受けて悲しくなった。


 ハナと別れた後、トボトボと歩くあたしを見て、サトルが言った。

「リリィ。今日は仕事が休みだから、リリィの大好きなドッグランへ行こうか」

 ドッグラン!?本当に?

 あたしはしっぽをブンブン振ってサトルを見上げた。

 広い広い芝生を思いっきり走り回れる!サトルと大好きなボール遊びができる!やったね!!


 そして散歩から帰った後、あたし達はドッグランへと出発した。キャリーバッグの中から外の景色を眺めていたら、この前あたしが走りまわった場所を通った。パグぞうさんのことを思い出したけど、ハナに言われたからもう会わないようにしよう。あたしは心に決めた。

 


 目の前に芝生が広がっていた。

 ヤッホー!

 あたしは一目散に駆け出した。大好きな芝生の匂い!思いっきり走り回れる解放感!もー最高!!


 ひとしきり走り回った後、サトルにフリスビーを投げてくれるようせがんだ。

「ワン!ワン!」

「ハイハイ、わかったよ。しかしよかった、元気になって。そら、いくぞ!」

 サトルがブーンとフリスビーを投げる。それっ!ジャンプ!

 パクッ!

「おー、うまいうまい!」

 サトルに褒められて、あたしは上機嫌でサトルの元に帰っていった。

「それ、またいくぞ!」

 サトルがフリスビーを構えた。

 よっしゃ、来い来い!


 そして、しばらく後。サトルはハアハア言いながら芝生に倒れた。

「も、もうカンベンしてください・・・」

 えーもう?あたしはまだ元気なのに。ボール遊びもまだだし、あっちにはいろんな滑り台とかジャンプ台があるのに。

 あたしはサトルの顔をペロペロなめて催促した。

「すまんリリィ、ちょっと休憩させて・・・。あ、お友達が来たよ」


 サトルが指さす方向から、いろんな犬がこっちへ来るのが見えた。

 あたしは他の犬達に駆け寄って、あいさつして回った。どの犬も皆しっぽをブンブン振ってくれてて、すぐに仲良くなった。


 思えば、サトルに引き取られてすぐの公園デビューの時は、他の犬があいさつに来てくれたのにすごく怖くてキャンキャン吠えてしまって、全然うまくいかなかった。そんな時にハナがやってきて、こうやってあいさつすればいいって、犬の礼儀をいろいろ教えてくれたんだ。ハナがいなかったら、あたしは犬社会にうまくなじめなかったんだ・・・。あたしは今さらになって、ハナの大切さを思い知った。


 急にしょんぼりしてしまったあたしを見て、サトルが言った。

「リリィ、どうした?ちょっと疲れたか?休憩するか?」

 そしてあたしはサトルに抱っこされて、お水が飲める休憩スペースに向かった。


 しかし、その途中。

「あれ?小宮さん?」

 急にサトルが大きな声を上げたのであたしはびっくりした。休憩スペースの近くにいる女がこっちを見た。

「あっ!中野君!?」

 女はこっちに駆け寄ってきた。

「うわぁ、こんな所で会うなんて!ワンちゃん飼ってるんだ!カワイイ!トイプードルだね、モフモフしててぬいぐるみみたい」


 女は抱っこされているあたしの鼻先に手を差し出した。あたしはクンクンとにおいをかいだ。

「うん、半年前から飼ってるんだ。名前はリリィ」

「カワイイ名前だね」

女はあたしを見て言った。

「リリィちゃん、私は小宮詳子です。よろしくね。中野君とは同じ会社なの」

 コミヤショウコ・・・!?


 コミヤショウコはサトルの方を向いて言った。

「こんなカワイイワンちゃん飼っててうらやましいな」

「イヤイヤ、こいつなかなかワガママで苦労してるんだ。半年経ってやっと世話に慣れたと思ったのに最近またいろいろあって、今日は気分転換で来たんだ。っていうか、小宮さんも犬飼ってるんだ?」

「あっううん、友達が犬を飼ってて一緒についてきたの」

「そうなんだ。・・・・・」


 あたしはサトルとコミヤショウコの顔を交互に見ていた。

 ああ、この前サトルが一緒に歩いていたのはこの女だったのか。それに、この女の匂い、たしかこの前

仕事から帰ってきたサトルについていた匂いだ。

 どうする?サトルの女だ。追っ払うなら、今がチャンスだ。ガブリと噛みついて、二度と近づけないようにしてやる!


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