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こ、ちょう、らん  作者: 梓珠悠茉
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隼颯.3

 あれから、美果とはよく会うようになった。

 今までは中庭で待っているしか出来なかったけど、病室を教えてもらって、美果が体調を崩した時も会いに行った。

 体調が悪いなら無理はしてほしくなかったけど、隼颯君と話すのは楽しいからって言うから、僕はそれに甘えた。

 僕の補習が終わって、病院に着くのが夕方五時。

 夜には美果のお母さんが毎日来るらしいから、六時までの一時間だけが僕たちの時間。

 僕は学校であった事を美果によく話した。

 部活の事であったり、普段の授業の事であったり、友達とバカな事をして遊んだり。

 美果にとっては、僕の話が新鮮らしい。

 いつも楽しそうに聞いてくれるし、コロコロ変わる表情が好きだ。


 今日は今度友達と遠出する事になったことを話した。

 SNSで見つけたカフェに行こうとか話して、女子かよって思ったけど、すごく楽しみだった。

「いいな。私も行ってみたいな」

 美果がボソッと言った。

 そっか。入院ばっかしてるからあんまり出かけれないのか。

「じゃあ今度美果が退院したらどこか行こうよ。近場でも楽しい所をあるよ」

 だったら僕がどこかに連れて行って、美果を楽しませたかった。

 突然、美果が泣き出した。

 僕は無責任な事を言ったのかもしれない。

 小さい頃から入院しているのを知ってて、友達と遠出して遊ぶ事もなかったと思うし、美果に出かけようなんて、言ってはいけなかったのだろうと思った。

「ごめんね」

 美果が言った。

 泣きながら、でも笑っていた。

「僕は全然いいけど、行きたくないなら僕はそれでいいよ。話せてるだけで嬉しいから」

「そうじゃないよ。二人で今度どっか行こう」

 今度は笑顔で言ってくれた。

 家に帰ったら、どんな場所がいいか調べないと。

 少しでも美果に喜んで貰えるように。


 今日もいつもの時間に美果の病室に行く。

 僕は補習が終わったらすぐ帰るようになり、友達からはついに彼女が出来たのかと、質問攻めになった事もあった。

 今までは何も考えていなかったけど、僕たちの関係はなんだろう。

 知り合い、話し相手、友達。

 美果は僕の事をどう思っているのだろう。

 そんな事を考えているいたら、病室に着いた。


 ドアをノックして、こんにちはと挨拶をする。

 今日は美果が絵を描いていた。

 絵を描いているの所を見るのは初めてだった。

 絵がすごく上手だった。

 美果は病室にいる時に出来るから、と言った。

 僕は絵の才能が皆無だ。

 中学の時の美術の成績は散々で、高校では音楽を選択したから、絵なんてもう何年も描いていない。

「今までに描いたやつも見せてよ」

「そんなに上手くないよ」

 なんて謙遜しているけど、充分上手いと思う。

 なんとか言って、スケッチブックを見せてもらった。

 今描いていた絵は途中らしくて、他の絵には色鉛筆で色も塗ってあって、すごく綺麗だった。

「今度僕にもなんか花の絵を描いてよ」

 うん、と笑顔で頷いてくれた。



 美果に会ったのはそれが最後だった。


 次の日、美果の病室に行こうとすると、面会拒否になっていた。

 体調が悪くなったのか。

 昨日は元気そうだったけど。

 僕と会うことで、もしかしたら無理をしていたかもしれない。


「あの」


 声がした方を見ると、顎のラインに髪を揃ええ、モデルみたいに綺麗な子が、キリッとした目で僕を見ていた。

「氷室隼颯さんですか?」

「はい」

 なんで僕の名前を知っているのかな。

 こんなに綺麗な子は、一度見たら忘れないと思うけど。

「初めまして、原田紗奈はらださなです。美果の幼なじみの」

 この子が。

 前に美果が言っていた気がする。

 確か、

「さっちゃん?」

 あっと思った時にはもう遅くて、声に出してしまった。

「その呼び方は辞めてもらえますか?そう呼んでいいのは美果だけです」

「すいません」

 反射的に謝ってしまった。

 表情はそんなに怒っていないと思うけど、顔が綺麗だから、雰囲気が少し怖かった。

「少し話しませんか?」

 思っていなかった言葉が僕に向けられ、原田さんはスタスタと歩いて行った。


 着いたのは中庭だった。

 少しの間来ていなかっただけなのに、懐かしく感じる。

「座らないんですか?」

 そう言われて僕はおずおずと隣に座った。

「美果からは話を聞いてます、あの子があんなに笑ったのは久しぶりで。」

 初めて原田さんの顔に表情が出た。

 嬉しいような、でもどこか寂しげに。

「僕も原田さんの話を聞いてますよ、原田さんにもらったかんざし、今でも大切にしているみたいだし」

 そうですか、そう言った原田さんの笑顔をどこか美果に似ていた気がした。

「あの、連絡先聞いていいですか?」

 原田さんが携帯を出して言ってきた。

 断る理由もないし、僕は練習先を交換した。

「では、これで」

 原田さんは病院に戻ろうとした。

「あの」

 僕は思わず引き止めた。

「なんですか?」

 今を逃したらダメな気がした。

「こんなことを聞くのはあれなんですが、美果は大丈夫なんでしょうか」

 原田さんは何も答えずに行ってしまった。


 最後の原田さんの表情が泣いているように見えたのは気のせいなのか。

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