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こ、ちょう、らん  作者: 梓珠悠茉
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隼颯.2

 夏休みになった。

 いつもの夏休みは暑い中、部活に励んでいた。

 彼女はいないから、これが僕たちの青春だ、なんて言いながら、ボールを追いかけて走っていた。

 でも今年はもう部活は引退して、大学受験に向けての勉強ばっかりの毎日。


 夏休みは毎日補習で、夏休みじゃないみたいだ。

 部活がなくなると暇だ、こんな事を言っていると先生からは勉強しろと言われるけど。

 僕はあれからも、補習が終わった後に病院の中庭に行った。

 でも女の子は姿を全く見せなかった。

 やっぱりあの時、看護師さんを呼んで、話さず戻ってもらうべきだった。

 今更後悔しても遅いけど。

 僕にはあの子と会うには中庭に来るしかなかった。

 名前も知らないし、どこの病室にいるかも知らない。

 病室を探し歩いていると、これこそ不審に思われるのは分かっていた。


 一週間ぐらい経ったのかな。

 今日は補習がなかったから一日中空いていた。

 部活に夢中でバイトはしてなかったし、今更始めようとは思わない。

 バイト自体、特別な理由を除いて、学校はバイトを禁止している。

 隠れてバイトをしている人はたくさんいるけど。

 今日は早めに行こう。

 中庭に行くと、女の子の後ろ姿が見えた。

 あれは間違いなくあの子だ。

 女の子の視線の先には、多分セミがいるのだろう。

 セミの鳴き声が少し離れている僕にも、ハッキリと聞こえる。

 少し近づいてみた。

 女の子は僕が後ろにいるのに気づかない。

 女の子は今まで見ていたものから視線を外した。

 見てみると、セミがカマキリに食べられていた。

 セミが食べられてる所なんて初めて見た。

 僕も見るに堪えなくて、目を逸らした。

 目を逸らしてすぐに、セミの鳴き声は止まった。

「弱肉強食っていうか、なんか悲しいですね」

 久しぶりの会話がセミに関してか。

 どうやって話しかけようか色々考えていたけど。

「もしかして毎日病院に来てるんですか?」

 まさか女の子から質問が来るとは予想してなかった。

 貴方に会いに来ているんです、なんて言えるわけでもなく。

「そうですね」

 導き出した、変に思われないような返事だった。

 変に思われてないかなと、女の子の方を見ると、顔をしかめていた。

 誰に会いに来ているののだろうか、とか僕の体調が悪いのかとでも思われているのだろう。

「すぐに表情に出るんですね」

 女の子はギグっとした表情で僕の方を見た。

 わかりやすいな。

「僕はただ人に会いに来ているのだけです」

 嘘を付いてはいない。

「そうなんですか」

 女の子が下を向いた時、髪の毛で顔が隠れたから女の子がどう思ったのかは分からない。

「簪誰から貰ったんですか?」

 初めて声を掛けた時も、今も簪を付けている。

 大切な誰から貰ったのだろうか。

「幼なじみからです。私小さい頃から病院にいる事が多くて、友達がいないんです」

 ずっと病院にいればそうなってしまうのか。

 僕は大切に思ってくれる幼なじみがいる事が羨ましい。

 少しの間沈黙が流れた。

「女性に年齢を聞くのは失礼と重々承知なんですがお幾つなんですか?」

 女性と言っても多分歳は近いだろうし、年齢を聞かれても普通に答えてくれるだろうけど、なんかかしこまった言い方になった。

「十七で、高校に通ってれば三年生です」

 スラっと答えてくれた。

「同じ歳ですね、僕も高校三年生です」

 同じ歳だった。

「今まで敬語だったけど、普通に話さない?」

 僕がそう言うと彼女もうん、と言ってくれた。

 そういえば、まだ名前を言っていないし知らなかった。

氷室隼颯ひむろはやてです」

森田美果もりたみかです、よろしくね氷室君」

 もりたみか。

 僕は心の中で復唱した。

「隼颯でいいよ、僕も美果って呼ぶから」

 名前を呼ばれるだけで嬉しいけど、欲を言えば下の名前で呼んで欲しかった。

 お互いその方が早く仲良くなれると思うし。

「なら隼颯君で」

 君付けで呼ばれるなんて久しぶりだった。

 男子からも女子からも、初めてから呼び捨てで呼ばれる事が多かった。

「呼び捨てでいいんだけどな。まぁいいか。よろしくね美果」

 美果と話していると時間が経つのが早くて、お昼になっていた。

 また体調を崩されても嫌だから、今日はここでお開きにした。

「じゃあ、明日もここに来れる?」

 僕がそう言うと

「うん!」

 と返事をしてくれた。

 今までは会えればいいなって思っていたけど、明日は絶対会える、それだけで嬉しかった。

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