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こ、ちょう、らん  作者: 梓珠悠茉
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隼颯.1

 小学校の時からバスケをやっていた。

 中学二年生の夏に、試合に指を骨折をして、家の近くにある総合病院に行って処置をしてもらった。

 二回目の診察には、部活に見学としてだけど参加した後、病院に向かった。

 部活を見学していても、体育館のすごく暑い。

 練習をするのは疲れるけど、ただ見てるだけで立ち続ける方が疲れるかもしれない。

 病院に行く時には風は全く吹いていなくて、太陽が照りつけていた。

 それだけで汗が噴き出してくるのに、セミの鳴き声を聞くともっと暑く感じた。

 思ってたより早く病院について、後から合流する親を待つことになった。

 時間を潰す物は何も無くて、中庭に行ってみた。

 中庭は木が沢山あって涼しかった。

 疲れた僕はベンチに腰を下ろした。

 思っていたより沢山人がいた。

 走り回っている小さい子たちや、散歩をしている人、笑い合ってる人、本を読んでいる人。

 それぞれ自分の過ごしたいように過ごしていた。


 一人の女の子が目に入った。

 同じ歳ぐらいだろうか。

 肌がすごく白くて、腰ぐらいまで伸びた黒い髪が綺麗だった。

 大和撫子ってこんな人の事を言うのだろう。

 その子は病衣びょういを着ていたから、入院しているらしい。

 その子は僕の二つ先にあるベンチに腰を下ろして、小さい子たちが遊んでいるのを優しい笑顔で見ていた。

 その横顔が忘れられなかった。

「こんな所にいたの」

 お母さんに声を掛けられた。

 もう時間が来たらしい。

 僕は中庭を去った。

 あの子にはもう会わないだろう。


 高校三年生になった。

 高校もバスケを続けていた。

 高校二年生の時に、チームメイトが足を怪我して、少しの間入院することになった。

 高校は中学と違って引退試合が春にある。

 怪我をしたチームメイトが試合までには退院出来るが、試合には出れないらしい。

「隼颯の顔見ると、元気でるよ」

 そう言われた。

 辛い顔を見せずにいるチームメイトの力に少しでもなれればと、僕はなるべく会いに行くようにしていた。

 この病院に来るのは中学生の時に指を骨折して以来だった。

 ふとあの女の子の顔が浮かんだ。

 もう退院したのだろうか、元気になっているのだろうか。

 そう思ってたいたら、自然と中庭に向かっていた。


 中庭を見渡すとあの女の子がいた。

 あとの時と、全く変わっていなかった。

 まさかまた会えるとは。

 大人っぽくなっていたけど、確かにあの子だと思う。

 また会えたと嬉しかったけど、まだ入院しているということは、それだけ症状が重いということだろう。

 女の子はすぐに建物の中に消えていった。


 チームメイトが退院しても高校が近かったから、何も用がないのに病院の中庭に行くようになった。

 何も用がないのに行くのは変だとは思ったけど、あの子に会えないかな、その一心で。

 女の子は時々見かけた。

 けど声をかける勇気はなかった。


 季節が変わって、夏になった。

 中庭には木が沢山あるからセミの声が合唱をするかのように響いていた。

 ある日、女の子が中庭にきた。

 風が吹いた時に、女の子の髪が解けた。

 あれはかんざしかな、それを拾おうとして立ち上がった時、女の子はふらついた。

 今まで声をかける勇気がなかったのに、僕の体は勝手に動いた。

「大丈夫ですか?」

 女の子からは返事が返ってこなかった。

「先生か看護師さん呼んできましょうか?」

 そう言ったら、女の子はハッとして、

「大丈夫です」

 と答えてくれた。

 声は高くて、でも耳にさわるような甲高い声がではなかった。

 それから女の子とどんな話をしたかはハッキリとは覚えてない。

 緊張したからだ。

 僕はこの子と話すなんて思っていなかった。

 最初は女の子の方も緊張していたと思う。

 だけど話しているうちに、お互い自然と話せるようになっていた。

「そろそろ病室に戻りますね」

 時間は経っていたとは思うけど、僕にはこの子と話していたのが一瞬のように思えた。

「また今度」

 僕はそう言って女の子と別れた。

 また今度って言ってしまった。

 僕はまたあの子と話したいけど、それは僕だけの気持ちだから。

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