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こ、ちょう、らん  作者: 梓珠悠茉
3/7

美果.3

 あれから隼颯君とはよく会うようになった。

 私が体調を崩した時には、隼颯君がわざわざ病室まで来てくれた。

 隼颯君は学校であった事をよく話してくれる。

 学校に行けてない私にはすごく新鮮だった。


 隼颯君と話すと、私の知らない世界を知ることが出来てすごく楽しかった。

 隼颯君との時間が楽しすぎて、一人で過ごす時が、寂しくなった。


 多分隼颯君はモテると思う、かっこよくて、優しいから。


 今日もいつもと同じ時間に隼颯君は来てくれた。

 今度、友達と遠出するらしい。

 美味しいお店を見つけたとか、そこにしかない有名スポットとかを教えてくれた。

 遠出なんて私は一度もしたことない。

「いいな。私も行ってみたいな」

 声に出ていた。

 そんなの無理だと分かっているのに。

「じゃあ今度美果が退院したらどこか行こうよ。近場でも楽しい所をあるよ」

 近場なら行けるかもしれない。

 自然と涙が出てきた。

 隼颯君の前では泣かないって決めてたのに。

 隼颯君も私が急に泣くから戸惑っている。

「ごめんね」

「僕は全然いいけど、行きたくないなら僕はそれでいいよ。話せてるだけで嬉しいから」

「そうじゃないよ。二人で今度どっか行こう」

 誘ってくれたのが嬉しかった。

 隼颯君と二人で出かける日が来るといいな。



 私が隼颯君に出会う前は、よく病室で花の絵を描いていた。

 小さい頃から描いていたから、看護師さんからは、上手いねと言って貰える事もよくある。

 どうしていつも花の絵を描いているのと聞かれる事がある。

 7歳の誕生日に両親から花の辞典を貰った。

 知ってる花も載っていたけど、知らない花の方が多くて、見るのが楽しかった。

 その辞典には、その花の花言葉も載っている。

 7歳の頃の私は、花言葉があったなんて知らなかった。


 最近は絵を全然描いてないから、久しぶりに描こうかな。

 引き出しからスケッチブックと色鉛筆を出す。

 パラパラっと辞典をめくって、目に付いた百合の花を描くことにした。

 やっぱり絵を描くのは楽しいな。

 絵を描いている時は無心になれる。

 嫌な事を忘れて、自分の世界にずっと居られるから。

 半分ぐらい描き終わった時に、ドアをノックする音がした。

「こんにちは」

 入って来たのは隼颯君だった。

「絵描いてるの?」

「うん、病室にいる時に出来るからね」

「そっか。絵上手いね。今までに描いたやつも見せてよ」

「そんなに上手くないよ」

 看護師さんたちに上手いって言われるけど、自分では上手いと思った事は一度もないから、人に見せるのはなんか抵抗がある。

「いいから見せてよ」

「そんなに上手くないけど」

 私はスケッチブックを渡した。

「すごい。今度僕にもなんか花の絵を書いてよ」

「私いいなら」

「なら約束ね。楽しみにしてる」

 どんな花を描こうかな。

 人に絵をプレゼントするのは初めてだ。

 今思えばら家族にも、さっちゃんにも渡した事がない気がする。

 隼颯君にぴったりな花はなんだろう。

 私の日常に光をくれたから向日葵とか。

 後は何があるかな。

 喜んで貰えるように描く練習をしなきゃ。


 はやく描かなくては。



 小さい頃は、喘息が他の人に比べると症状が重くてよく入院した。


 中学三年生の時だった。

 絵を描いている時、時々手が痺れるようになった。

 最初は特に気にしていなかったが、手の痺れが頻繁におこる様になり、先生に相談した。



 結果はALS(筋萎縮性側索硬化症きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)だった。


 段々手足に力が入らなくなり、最後には呼吸ができなくなって死ぬらしい。

 私は幸運な事に症状の進行が遅かった。

 今は治療方も進歩しているらしいけど、家族の悲しむ顔や負担をかけるのが嫌だった。


 私は治療をせずに死を受け入れることにした。


 最近、手足に力が入らなくなってきたし、呼吸もしづらい。

 もうすぐ死ぬのかなって思う。

 両親やさっちゃんを残して死ぬのも嫌だけど、隼颯君に出会ってしまった。

 もっと色んな話をしたかったし、一緒にどっかに行ってみたかった。


 結局、隼颯君には詳しい事を話してない。

 隼颯君も、気を使ってくれたのか、どんな病気なのかは聞いてこなかった。

 これから、症状はどんどん進行していく。


 こんな姿を見られたくないから、私は家族以外の面会を拒否した。


 隼颯君とも、花の絵を描く約束をした日から、一度も会うことはなかった。



 私の小さいセカイで、貴方に会えたと事は、今まで好きじゃなかった神様に、感謝をしないとね。


 目が覚めた。

 時計を見ると、日付が変わろうとしていた。

 普段ならこんな時間には目は覚めないのに。


 さっきまで夢を見ていた。

 家族とさっちゃん、そして隼颯君と笑い合っている私。


 これからもこんな風に笑い合っていたいな。


 まだ、隼颯君と二人で出かけてないのに。

 すごく楽しみだったのに。



 私の頬を涙が伝った。


 眠くなってきた。


 私は目を閉じて、





 ねむった。

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