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こ、ちょう、らん  作者: 梓珠悠茉
2/7

美果.2

 男の子と会ってから一週間ぐらい経った。

 あれから外には出ずにずっと病室にいる。

 もう一度会いたいなって思っていても、体か言うことをきいてくれない。

 もし、外には出れたとしてもまた会えるとは限らないけど。


 今日は久しぶりに散歩の許可が降りた。

 今日もまた、太陽が照りつけているが、前より時間帯が早いから涼しい。

 前の木陰のベンチに座った。


 どれぐらい座ってぼーっとしていたのだろうか。

 セミが、赤ちゃんが泣いているかのように鳴き出した。

 セミの鳴き声がする方を見てみると、セミがカマキリに食べられていた。

 まさかそんな光景を目にするとは。

 私は見るに堪えなくてすぐ目を逸らした。

 が、セミの鳴き声は鳴き止まない。

 しばらくしたらセミの鳴き声が止んだ。

 あぁ、これが生きるって事なんだな。

 セミもカマキリも生きるのに必死なんだ。

「弱肉強食っていうか、なんか悲しいですね」

 あの声が上から降ってきた。

 また会えた。

 それだけですごく嬉しかった。

「あっ、そうですね」

 そう返すのが精一杯だった。

「お久しぶりです、あれから体調はどうですか?」

 そう言いながら男の子は私の隣に腰を下ろした。

「もう大丈夫です。今日はすごく元気です」

「ならよかったです。全然見かけなかったから何かあったのかと思いました」

「もしかして毎日病院に来てるんですか?」

「そうですね」

 毎日病院に来てるのは誰かに会いに来ているのか。

 通院しているのか。

 それとも、もしかして私と同じように入院してるとか。

 でもそんな感じはしない。

 病衣びょういも着てないし。

 病衣を着ていない人もいるけど、ラフな格好ばっかりで、しっかりとしは服は着ないよね。

 そんな風に考えていると男の子から笑みがこぼれた。

「すぐ表情に出るんですね」

 確かにさっちゃんにもそう言われる事があるけど。

「僕はただ人に会いに来ているだけです」

 男の子は笑顔で答えた。

 その笑顔から、会いに来ている人の事をすごく大切に思っているのが伝わってきた。

「そうなんですか」

 彼は誰に会いに来ているのだろう。

 家族だろうか、それか友達。

 それとも、もしかして。

 誰に会いに来ているのかは、怖くて聞けなかった。

「簪誰から貰ったんですか?」

 今日も簪を付けていた。

「幼なじみからです。私小さい頃から病院にいる事が多くて、友達いないんです」

 友達がいないって言わなかった方が良かったかもしれない。

 後から後悔した。

「そうなんですか、いい幼なじみですね」

 男の子は何も気にしてない様子だった。

 暫くの沈黙が流れた。

「女性に年齢を聞くのは失礼と重々承知なんですがお幾つなんですか?」

 かしこまった言い方で聞いてきた。

「十七で、高校に通ってれば三年生です」

「同じ歳ですね、僕も高校三年生です」

 歳は近いと思ったけど、同じ歳だとは。

「今まで敬語だったけど、普通に話さない?」

 男の子からの提案だった。

「そうだね。その方が喋りやすいかも」

 うんうんと、満足そうに男の子は頷いた。

 そう言えばまだ名前言ってなかったねと、自己紹介が始まった。

氷室隼颯ひむろはやてです」

 高校は病院の近くにある学校だった。

森田美果もりたみかです。よろしくね氷室君」

「隼颯でいいよ。僕も美果って呼ぶから」

「なら隼颯君で」

 男の子を下の名前で呼ぶなんていつぶりだろうか、もしかしたら初めてかもしれない。

「呼び捨てでいいんだけどな。まぁいいか。よろしくね美果」

 もちろん今まで男の子から下の名前で呼ばれる事もなく。

 嬉しいような恥ずかしような。

 隼颯君と話していたらあっという間にお昼になって、今日はお開きにした。

「じゃあ、明日もここに来れる?」

「うん!」

 明日もまた会える、隼颯君との約束が、今まで生きる意味がないと思っていた私に、一筋の光をくれた。

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