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2.ご挨拶

扉の先には、国王や宰相を始めとした国中の重鎮や大貴族、聖職者までもが集められーーと、言うことは特に無く、極内密に、極粛々と話は始められた。


ロシアンブルーのような色合いをした、とても短く細かい毛で覆われたソファーへ案内され、其処へ腰掛けた。

護衛の三人は席を外すよう命じられ、部屋の中には私と、背筋の彼と、身長が2メートルは有ろう巨体の老紳士と、ダヴェントリー・マスクのようなもので顔面を覆っている男性の四人だけが残った。


五角形の形をしたとても分厚く、背の低いテーブルの“辺”の部分にそれぞれソファーが置かれ、ぐるりと取り囲むように座らせられている。何の意味があるのかは分からない。



「何のお話もせずに連れ回してしまい、誠に申し訳ございません」


背筋さんは機械仕掛けのように天井へまっすぐと立ち上がると、とても嫋やかかつ美しい所作で私に頭を下げた。髪の一本一本がまるで生きているかのようにサラリと揺れ、その輝きに思わず息を呑んだ。


「あ・いえ、あの、此方こそ……」


思わず立ち上がり、何も悪くないのにペコペコと頭を下げてしまった。日本人の悲しきさがである。


「なんと、女神のような方だ」


正直ドン引きである。


どうぞ、お掛けください。なんて続けられて、苦笑いをしながら再び椅子に腰掛けた。ふかふか過ぎて体が沈み座るたび驚いてしまう。


「遅ればせながら、わたくし イウキニム王国・第一王子“オール・ラック・ド・イウキニム”と申します」


イウキニム?聞いたことのない国名だ、第一日本語がペラペラに通じるではないか。

そもそも一国の王子があんな得体の知れぬ事をして、こんな得体の知れぬ私なんかと密室で過ごすなんて、人が居るにしても危機管理能力が欠けているとしか思えない。


「は、はぁ、私は板橋りの《いたばし・りの》 です」


思わず本名を名乗ってしまった。


「リノさん」


「は、はい」


「此方がお名前でお間違いないですか?」


「そうです、そうです!板橋が苗字……あ、ファミリーネームです」


王子は、フムと顎に手を当てた。



「成功したか」


黙りこくっていた老人が口を開くと王子は一礼をしてそのまま座った。


「良くぞおいでくださったな」


なんと返せば良いものかと思案している間に老人は再び口を開いた。


「荒唐無稽な話なのだが、聞いていただきたい」



拳を膝の上に乗せたまま苦々しい声で重々しく頭を下げる老人からは、それでも厳かな雰囲気が漂っていた。





語られた内容は実に不明瞭であった。

よくもまぁ、それで他人様にお頼み申したなと嫌味の二つ三つ投げつけてやりたい程には。

しかし、口ぶりはまるで教誨を行うようだったのが尚更腹立たしかった。



結論から言うと私はこの国を救わないといけないらしい。拒否権はない。



巨体の老人はイウキニムの国王らしい。

ある呪いのせいで他人に名を名乗る事が出来なくなってしまったようで、名前も知る事は出来なかった。この国では、自分より目上の者の名前を誰かに教えることは無礼に当たるようなので、きっと私が王の名前を知るのはずっとずっと後になるのだろう。


私は、私と王子と後もう一人、仮面の男性、王子の護衛を任されている騎士と(ロゼ・レラというらしい)の三人で世界を浄化する旅に出なければならないのである。

何故なら、私が聖女だから。


馬鹿馬鹿しい、実に馬鹿馬鹿しいが、全て事実だという。

この世界は所謂『異世界』で、私は選ばれてこの国に召喚された、伝説のままの姿形で、伝説のとおりの日時に、全てが予定調和だと聞かされた。


この世界・この国の現状や、浄化とは何なのか、国はいくつほどあるのか、そもそも惑星なのかなど…………

何も聞かされなかった。地球のように二百近くの国が有るかも知れない、技術発展は見込めない、もしかして魔法があるの?それすら無いのかもしれない。

ロマンスのカケラも無い王子と不気味な仮面の騎士との三人で?大体王子様が野宿なんて出来るの?私は戦えなんてしないし、もし王子と私が殺されそうでどちらかしか助けられない状況になったら?そうなら護衛騎士は王子を選ぶに決まってる。だって王子の護衛だもん。




逃げてしまいたい。

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