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転生不死者、炎の癒術師さま  作者: 一条さくら
第三章 癒術院
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 それからまた、走ってきた時と同様に興奮して捲し立てる二人をどうにか宥めながら、これまでの経緯をかいつまんで話した。といっても大分端折ったものとなったのだが、それでも二人は真剣に耳を傾けようと俺の顔を見返してくる。


「あまり面白い話じゃないんだがな―――」


 城へ登城したこと。癒術院へ入ることになったこと。その過程でついぽろっと国家癒術師の資格を得たことを伝えれば、二人の反応は、何というか想像以上だった。


「凄いですよっ、レドガルスさん!」

「ああ、流石というか、なんかもう俺達の予想を遥かに上回っているな」

「でも、どうして認定を受けるに至ったんですか? 国家癒術師の認定って難易度が高すぎて近年では合格者が大分絞られていたと思うんですけど…」

「それは、なあ…」


 歯切れ悪く答えると、二人はもっと詳細を根掘り葉掘り聞き出そうと身を乗り出してくる。

 だが、さほど面白い話でもなければ、昼休憩の時間で話す内容でもない。

 だから今は「これ以上話すつもりはない」と強制的に会話を打ち切ったのだが、若干大人げなかったと思わなくもないのだ。


「ご、ごめんなさいっ。レドガルスさん!」


 思わず目が据わってしまっていたのか、ライドとルーンは何処か焦った様子で平身低頭といった具合に謝って来たが、別に彼等が悪い訳ではないので、二人の頭をぐしゃぐしゃに撫で回して気にしないよう伝えた。

 とはいえ、俺の八つ当たり気味な怒りのせいで二人に謝らせるなんて、酷く悪いことをしてしまった。今度埋め合わせをする必要があるだろう。


「気にしなくて良い。だからお前達が謝る必要はない。すまなかったな」

「いいえ、とんでもない! 僕達こそ、立ち入ったことを聞いて申し訳ありませんでした」

「いいや、俺が悪い」


 ぎこちなく目を泳がせる二人に申し訳無さを感じながら、やんわりと話題を変えて二人の近況に耳を傾ける。

 それから他愛のない雑談に花を咲かせる頃には昼休憩も終盤に差し掛かっていた。二人は午後から座学が続くらしく、最後まで粘っていたが、また近々会う時間を作ることを約束すると、素早く別棟へと去っていった。

 なんとも二人らしいなと思いながら、俺もまた研究室へと向かった。






 波乱の昼食を終え二人と別れた俺は、実技講習という名の臨床研修へと向かった。ここでの実技は主に、癒術院の研究棟に併設された病棟での重軽傷患者に向けた生理、検体検査であるらしい。

 まあ、癒術師にとってもっとも重要な事は、扱う癒術は勿論のこと、人の肉体についてどれ程熟知しているのかという点が大きく関与している。だからこれは、ある意味でとても効率の良い授業でもあるのだろう。

 だが、目の前で繰り広げられている実技は何というか…予想外だった。


「次、グリムガル・リンドバーグ君」

「はい」


 名を呼ばれた少年が講師の前に立ち、疲労からか疲れた様子を見せる被験者もとい病棟に入院中と思しき少年に左手を差し伸べた。

 恐らくは探知系魔法を用いた、病気の特定、及びその治療法を判断する実技なのだろうが、あらかじめ扱う癒術が限られているためか、少年が下した診断結果は少し的外れに見える。

 講師にもそれが分かっているのだろう。診断結果を聞いた瞬間、何が間違っているのかを的確に指示していた。が、俺から見るにこの少年の病は単なる慢性疲労などではなく、肉体の内部を通る魔力管とも言うべきラインが著しく縮小していることが原因となっている先天的な魔力管不全ともいうべき病だ。

 ゆえに一時的に癒術を行使しても、対処療法に留まっており、根本的な解決には至っていない。


 ちらと研究室に居る十数人の学生達を見るが、誰もその事実に気づいた様子はない。

 これは、予想外だった。

 根本的な魔力、魔法というもの、癒術というものに対する知識があまりにも不足している。

 思わず眉を顰め、その後も実技を進めていく講師と学生を見つめていく。

 どれ程癒術を行使しても、根本的な治療を施さなければ、少年の病が治ることは決して無い。


「次、レドガルス・ホーク君」

「はい」


 一時的な回復と極度の疲労を繰り返し、疲れから顔を青白く染めた少年の肩に手を置く。この少年の場合、魔力転換器は正常に動いているのだ。ただ、先天的に魔力を肉体の隅々にまで循環させていく管が極端に細くなっているだけで。一般的な魔力管は通常血液を送り出す血管に沿う形で全身に通っている。魔力管を通常の大きさに戻す癒術は、実の所それ程難しいものではない。

 ただ、これまで上手く魔力が行き届いていなかった分、急激に管を広げすぎれば、少年の体に多くの負担を強いることにもなりかねない。故に魔力管の拡張は、時間を掛けて行う必要がある。

 今回の癒術で行使できるのは、精々通常の魔力管の半分程度の大きさまで魔力管を戻すことだけだ。


「君の病は、先天的な魔力管不全による重度の慢性疲労だ。今から癒術を行うが、体の力を抜いて居てくれ」


 ぼんやりとした表情で頷く少年を見て、俺は右手を翳し、少年の魔力管に癒術を施していく。すると、周囲で大きなざわめきが起きた。俺の視界では、少年の全身が炎によって包まれているのが見える。無論、それは俺の行使した炎の癒術による副産物のようなものだ。


「炎が!」


 そこここで上がる雑音を綺麗に無視し、驚愕の表情を浮かべる講師が何事か大きな声を上げる前に、俺は少年の魔力管が半分程度に拡張したことを素早く確認し、少年の肩から手を放した。


「大丈夫か?」


 目線を合わせて問いかけると、癒術の影響からか血が上った頬を赤く染めた少年は自分の体を見下ろして驚愕に目を見張ったまま、こくりと小さく頷いた。それに安堵し、俺は「良かった」と胸を撫で下ろした。



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