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転生不死者、炎の癒術師さま  作者: 一条さくら
第三章 癒術院
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 ―――見られている、と感じた時には既に周囲の視線が俺自身に集中していた。


 あれからミハイルの案内で研究棟にやって来た俺は、丁度講義を終えた学生達の間を縫うように一人廊下の隅を歩いていた。物珍しさから視線があちこちに流れるのは仕方がないにしても、どうしてか注目を集めているように感じるのは、俺の気のせい、という訳ではないだろう。多分、絶対。

 ちらりと視線を下に落とし、俺自身の服装を確認する。

 癒術院の制服は白いシャツに黒いズボン、灰白色のコートに魔法学院と同じ灰色のローブを纏うのが正装らしい。今は俺自身も周囲にたむろしている生徒達と同じ制服を身に纏ってはいるが、制服に”着られている”感覚がしてどうにも居心地が悪い。


 元々、俺が昔通っていた幼年学校には制服などというものは存在していなかったし、いつもラフなチュニックばかりを着ていたから、首が詰まったシャツは息苦しくて仕方がない。

 流石に編入初日に制服を着崩す訳にもいかず、さっきから襟元に指を引っ掛けて寛がせてはいるが、そろそろその仕草も面倒になってきた。

まあ、一番上のボタンを外すくらいなら問題はないだろうとボタンを外して襟元を寛がせれば、先程よりも随分と呼吸が楽になり、肩の力がふっと抜けた。


 ローブの襟元に触れると、不意に冷たい金属が指先に当たり、びくりと肩が揺れた。まるで隠すように付けたそれは、国家癒術師認定証としても機能しているセージの葉を模したプラチナのバッジである。

 周囲からは絶対に見えない位置に付けているためか、俺自身も先程バッジに触れるまでそれを付けていたのだということを思い出さなかった程に、すっかりローブの襟に隠れてしまっている。


 本来、こういうバッジは胸元に付けるのが正式とされているが、俺自身としてはそんなこっぱずかしい物をまるで周囲に見せつけるかのように付けることなど出来ず、結局は隠れた位置に“一応身に付けているんですよ”と言い訳染みた考えで取り付けている。

 まあ、さっきの学院長室でも誰もバッジの事に触れなかったから、別段問題はないのだろうと一人納得している訳だが。


 それにしても周囲の視線が鬱陶しい。ミハイルは午後から担当する講義が入っているらしく、先程研究棟の入り口で別れたばかりだ。研究棟は広い。その為かいくら歩いても目的の部屋にたどり着ける気がせず、かといって周囲の学生達に聞くというのも若干恥ずかしさがある。

 まるでお上りさんのようだ、と口の中で呟くと、不意に講義の始まりを知らせるベルが鳴った。

 学生達が慌てた様子で散っていくのを見送り、先程よりも緩めた歩調で先の見えない研究棟を歩いていった。







 ライドとルーンは、昼休憩を知らせるベルが鳴った瞬間、研究棟へ向けて駆けだした。

 常ならぬその様子に周囲の同級生達が驚愕の視線を向けているが、二人がその視線に気づいた様子は無い。既に研究棟までの最短の道のりは把握済みだ。

 全速力で駆けていく二人に声を掛ける者はいない。いや、実際には声を掛けようと口を開くが、声を掛けられるよりも早く二人が駆けていくため、制止する事も出来ないのだ。


「あーくっそ、遠いな!」


 転ばないようしっかりと足を踏みしめて肩で風を切りながら、ルーンは顔を顰めて悪態を吐いた。

 実の所、中等科の入った棟から研究棟までは走って二分も掛からないほど近くにある。けれども研究棟はとにかく縦にも横にも広い為、その中から目的の人物を探すのは些か骨が折れるのだ。故に二人は先程の授業と休憩時間によく話し合って、レドガルスを見つける為だけに高価な魔道具を準備していた。

 それは元々ライドが持っていた魔道具の一つであり、森などを探索する際に、目的の人物や動物などを見つける為に用いられる、探査魔法を組み込んだ人探し専用の魔道具だった。これは生きている人や動物のみに反応するもので、魔力の流れが異なる樹木や草などは探索することができないものだ。

 青白い光を発し、目的の人物が今どの辺りにいるのかを示している、首から下げた魔道具を頼りに二人は研究棟を駆け抜けていった。


 鬼気迫るその様子に、周囲で何事かと身構える上級学生の視線は、今は気付かない振りをして。


「ライド、探査魔法は機能しているか?」

「うん、大丈夫。次を右に曲がって、それから―――あっ、上に上がるよ!」

「分かった!」


 そんな会話をしながらも二段飛ばしで階段を駆け上がり、足を止めず研究棟を駆け抜ける。そうして息が切れ、酷使した足が少し重く感じたその瞬間、二人は目的の人物を発見し、その背に向かって大きな声を上げた。


「レドガルスさんっ!」


 目的の人物は、のんびりと歩いていたその足を止め、すぐさま振り返る。怪訝そうな表情を浮かべたレドガルスは、けれどバタバタと大きな足音を響かせて向かってくる二人を目にすると、僅かに目を見開かせ、ふっと口角を上げた。

 ようやく見つけた! そう言いたかったけれど、息切れした喉からは熱い空気しか漏れて来ず、二人は揃って目を潤ませてレドガルスの胸に勢いよく飛び込んでいった。

 意外にもがっしりとした胸板にぶつかった瞬間、やばい、このままだと倒れるっ!とルーンが慌てて身を引けば、ふわりとした空気と共にその背を押され、ライドとルーンは温かな空気に包まれてレドガルスの胸に納まった。

 多分レドガルスが何らかの魔法を用いて衝撃を殺してくれたのだろうけど、再会の喜びに包まれた二人には、そんな些細なこと、今はどうでも良いことだった。


「久しぶりだな、ライド、ルーン」


 秀麗な顔に笑みを浮かべたレドガルスは、そう言って二人の背をぽんぽんと片手で叩き、再会を喜んだ。


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