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転生不死者、炎の癒術師さま  作者: 一条さくら
第一章 出会い
1/19

 ―――俺は、死ぬごとにそれ以前の記憶を全て有したまま転生している。

 なんて言っても、誰も信じないだろうが、これが俺の真実だ。


 人は死後の世界を様々な解釈で捉えている。

 例えば世間では、人が死ねば天国に行くだとか、空白の時の中、所謂中間生に飛ばされる。いいや生きている間に犯した罪を審判され、それに応じた地獄へ行くのだとか本当に多種多様な死後の世界が語られている。

 勿論、俺とてそれを『真実だ』と思い込んでいた時期も無くはないのだ。

 然し俺の知る限りにおいて、それは事実とは異なっていた。


 現実に俺は死後、中間生という時を置く間もなく直ぐ様―――そう、例えばほんの一秒、瞬きもせぬ間に―――次の人生へと転生し、新たな生を体験しているのだから、これはもう俺自身の経験則でもあるのだった。

 昔はそれに混乱し、幾度となく周囲の人間を困らせて、果ては追放されそうになった事も両手の指では足りない程ある。

だが結局、俺は自分の運命を受け入れた。何故ならそれが俺にとって既に自然の摂理と同じく、抗う事の出来ない結末である事を悟ったからだ。


 ―――もしこの世に神が居るとするならば、その存在に聞いてみたい。俺が転生を重ねる事で、何かが変わっているのかと。俺は何故転生を繰り返し、強制的にその一生を強要されているのか、と。


 俺自身の転生は、これまで過ごしてきた数多の人生の記憶と共に行われている。この為、俺自身の経験値は一般的な人間とは比べるべくもなく突出して高く、それに伴ってあらゆる知識を有しているのだが、それが新しい人生の全てに活かされているのかといえば、活かされていない知識の方が多いと断言出来る。

 理由が知りたいか? なら教えてやろう。

 人の言う『転生』とは、自分自身にとって最も良い時代、例えば自分の特性や突出した才能を活かす事の出来る適切な世界を、自分勝手に選ぶ事は出来ないということがその大きな要因でもあった。


 例えば今の、この人生の直前に体験した過去生では、俺は双子の兄弟として何不自由ない世界で過ごしてきた。科学技術が発展したその世界で、俺は工学系の、それもIT技術に特化した技術者として働いていた。

けれどそれより一つ前の過去生では、俺は原住民族として川沿いに発展した原始的な文明の中で生きてきたのだ。

 そこで俺は豊穣を願って山羊を生け贄に捧げる神官のような役割をしていたのだが、流行り病に掛かって二十歳を迎える前に亡くなった。その直後の人生が、上にも書いた技術者の過去生だ。

 それに何を活かせると言うのだろう?

 せいぜい、キャンプ場に遊びに行った時の心得や、野宿をする時の注意点、釣竿を用いない魚の取り方くらいのものだ。

だがそれも、およそ文明的な生活をする世界では全く必要のない無駄な知識ばかり。

大体、野草や毒草の見分け方など、土地が違えば生えている草の種類とて全く違うのだから、もうこれは原住民として生活していた過去生と同じ場所に行かなければ、この知識を活かす事すら出来ないだろう。


 まあそんな訳で、俺は無駄な知識こそ豊富に持ち、人生における経験値こそ高いものの、新たな生を迎えて、何処かも分からぬ世界、分からぬ時代、分からぬ土地に転生すれば、俺はそこら中に居るありふれた凡人に過ぎないという事だ。

 それに、だ。これまでの経験から言って、転生した時代にそぐわない知識を数多く持ち合わせているせいで、新しい知識や経験をする前に先入観や固定概念が邪魔をしたり、或いはそれらが障害となることもある。

そのせいか、無意識にハードルを上げてしまう事態にもなって、実際には…というか殆どの場合で苦労する事の方が多い。

 だから「俺って、天才!」などと一欠けらも感じた事も無ければ、「転生者だから俺は特別な存在なんだ」などと思った事など一度として無い。というよりあり得ないというべきだろうか。

 大体、これまでの経験上、一番最速で転生したのは、確か新たな生を迎えてからたったの三日程のことだったと記憶している。

その時は生まれつき肺に重い病気があった俺は、生まれて直ぐに保育器へ入れられ、外の世界の空気を吸う間もなく息を引き取った。この人生が一番、虚しい転生だったと思う。何せその世界の何たるかも分からず、別室で生死を彷徨う生母の腕に一度として抱かれることもなく、人生が終わったんだからな。


 まあ勿論、これまでに積み重ね、豊富に蓄えた知識が活かされる人生も時には、というか稀にあるのだが。

それが今回の人生だ。

 俺がもう何度目か分からない転生をしたこの世界には、魔法が存在し、皆が皆魔力を有している。勿論その容量が少なく殆ど魔力を持たない人間も居るけれど、限り無くゼロに近い程度であり、本当の意味で魔力を持たない人間は居ない。

 この為俺自身も一般的な人間の魔力保持量と同等程度の魔力を有している。つまるところ凡人か。

 だが幸いなことに、五代前の過去生で俺は今世と似た、魔法のある世界――しかも魔力の使い方や魔法の体系的な面も似通っている――で生きてきたから、その経験と知識が今世で活かされている。

 これは俺にとってあり得ない程の幸運だった。

 何故かって? 俺にとって知識と経験が活かせる人生は、例えるならビキナーズラックに当たった程の確率でしか存在し得ないものだからだ。


 この世界では、魔力の容量が大きければ大きい程、コントロールが難しいとされている。

一定以上の魔力保持量を有している者はすべて魔法学院へ強制的に入学させられ、自分の中の魔力をどうコントロールしていくのかを学んでいくのだ。

勿論、特殊な属性を持つ子どもなんかも同じく強制入学させられる。例えば人口の二%しか存在しないという光属性を持つ子どもや、属性を二つ同時に持って生まれた子どもなどだ。

 だが、一般的な魔力保持量の人間であれば、魔法属性が固定化される十歳の時に属性を調べる程度で、学校で魔法を学ぶという事は殆ど無い。因みに、俺の属性は火で、大まかに六個の属性に分類される属性の中では比較的ポピュラーな属性だ。

 勿論、魔法を用いた工業製品を作る技術者を目指すのであれば、一般にも門戸が開かれている、魔法工学院を受験するのが一般的だ。この魔法工学院は、魔法学院と同じく年齢制限は無い。

勿論、魔法学院の方は幼い頃から入学する人間が非常に多い為、在籍しているのは専ら十八歳までの子ども達だ。


 ただ、この魔法工学院は年齢制限を設けて居ない為に入学希望者の倍率は非常に高く、例年二十五倍から三十倍程度の倍率で推移しているらしい。実の所、魔法工学院はそれぞれの国に一校ないし二校程度しか無いということが、この驚異的に倍率が高い理由の一つではあるのだろう。

 それに、ここでトップの成績を維持すれば、国家魔法工学技師となる道も開けてくるのだ。魔法学院は個人の魔力量という誰にも変える事の出来ない素質が必要ではあるものの、魔法工学院では己の技術力と努力さえあれば、誰でも成り上がる事が出来るのだから、魔法工学院を目指す人間が多いのも必然と言えるだろう。


 ちなみに、というべきか。この二校の他に学校と呼ぶ施設は一つしかなく、それは五歳から十歳までの男女が学ぶ幼年学校のみである。これは全国民が学習するべき義務教育の範囲で、試験さえクリアすれば、大体一年程で卒業出来る。早ければ六歳、七歳で卒業する計算だ。ここで学ぶのは生きていく上で必要な基礎知識のみで、それ以上の知識を得たければ独学で学ぶしかない。

 とはいえ、何故五年間も期間が設けられているのかと言えば、例えばその後直ぐに魔法工学院の受験に挑戦する子ども達向けの講習や、特殊な職業に就く子ども達の職業訓練講習が開かれているためである。

まあ、この二つの講習を受講せず、かつ既に卒業後の方向性等が決まっている、俺のように牧場なんかを引き継ぐような子ども達は卒業時期が大幅に短縮されているのも、この幼年学校の特徴である。


 純粋に知識だけを求める学校というものは、この国では魔法学院の出身者で構成される高等魔法学院のみで、一般に門戸は開かれていない。ここでは専門知識を学べるため、癒術師や魔法教師等の特殊な職業の育成も行っているらしいが、扱える魔力量の差によって差別化が図られているのは仕方の無い事だろう。

 ただ、いわゆる医者に分類される癒術師だけは、魔力量に関わらず、特別に適正がある者にだけ、癒術に関する魔法を教えているらしい。とはいえそれは本当に極一握りの人間だけの話だ。

 大体、日常生活に必要な生活魔法は親や周囲の人間を見ながら自ら身につけていく事がこの世界の常識なのだから、それも当然と言えるだろう。


 そんなこんなで俺は今日、十五歳を迎える。この世界での成人は十六歳だから、漸く一人前になりつつあるという所か。

 先にも言ったように、俺はこの世界で凡人である。故に幼年学校を卒業した後は両親が残してくれていた牧場を引き継ぎ、細々と日々の食い扶持を稼ぎながら出来る限り自給自足の生活を送っている。

両親が残してくれた、と言ったが両親は存命だ。ただ、行商人としてあらゆる大陸を回っているが為に、両親が元々住んでいた家や牧場を俺が譲り受けた形となっている。

 俺の両親は一か所に留まる事を良しとしない人達で、既に亡くなっている祖父母がそんな両親を心配してこの牧場付きの家を建ててくれたらしい。俺の両親は、例えるならば根無し草のような性質を持った人達なのだ。

その性質を幼い頃から十分に理解していた俺は、歴代最速と言われた一年で幼年学校を卒業した六歳の春頃に、これ幸いと行商人兼放浪の旅人と化して家を出て行った両親を見送り、自給自足の生活に突入したのだった。

 まだ幼気いたいけな六歳の子ども()を放り出せる両親なんて、時代や世界が違えば育児放棄や保護責任者遺棄の罪に問われるのだろうが、こればかりは仕方が無い。


「俺の両親は、流浪の旅をしていないと死んじゃうような人達だからなあ」


 俺が幼年学校をごく短期間の内に卒業するまでの六年間、よくぞ我慢出来たものだと思う。それもこれも、俺が生まれて直ぐに亡くなった祖父母の遺言あっての事だとは思うが。


 つらつらと過去を振り返りながら、俺は大きな竹編みの背負い籠を背中に背負ってざくざくと草を踏み、家の直ぐ裏手に山に分け入った。

舗装された道など一つもないこの山は標高が低く、野草や少し高価な薬草を採取するのに適した山なのだ。この山の所有者は、俺の家から少し離れた町に住むお爺さんで、俺がこの家で暮らし始めた頃からこの山で薬草や野草を取る許可をお爺さんから直接得ていた。

 多分お爺さんには俺が不憫に見えたのだろう。時々この家まで顔を出すついでに、俺が採取してきた薬草を安く買い取ってくれている。良い時には町で売っている見事な焼き菓子や、お婆さんから預かったらしいおかずの差し入れ等を持ってきてくれるので、血の繋がらない祖父のような心持ちで接しているが、お爺さんの好意に甘え過ぎないよう出来る限り自分の力で自立した生活を送っている。


 お爺さんが所有しているこの山は、標高が低い山ではあるものの隣接する形で幾つもの山が連なっている為にその規模は比較的大きく、森の中で一度道を見失い迷ってしまえば二度と森を抜け出す事は出来ないだろうと言われている、通称?迷いの森?がある。これは山の周辺に住む住民であれば周知の事実で、如何に高価な薬草が生えていても、この山を熟知したお爺さんやその家族以外は誰も入る事の無い山でもあるのだ。

 俺自身はというと、この山で一度迷いかけた事があるけれど、結局、積み重ねてきた転生の経験値のお陰というべきか、本来人間が持っている筈の野生の勘というものが働いたのか、同じ場所を彷徨う前に脱出する事が出来たので、本当に運が良かったと思う。

それ以来、山間の深い場所に向かう時には数日分の食料や水、多種多様な道具を持ち歩く事を決めたのだが、今日は山に分け入って比較的直ぐの場所に沢山の香草が植えられているので、それを採取する為に山に入っている。

 よって今日は軽装だ。


 ―――山に分け入って一時間ほどが経った。ある程度の香草と薬草を摘み終わり、ずっしりと重くなった籠を抱え直した時、それは突然舞い込んできた。

 遠くから人を呼ぶ声が聞こえて来る。ここからそう遠くではないものの、この世界には魔力を持った野生の獣、魔獣と呼ばれる動物達が数多存在している。

山にはそういった野生の魔獣も多く存在しているため、定期的に魔法学院を卒業した国家魔法師が兵士と共に駆除に訪れているものの、それは決して十分な頻度で行われている訳ではない。

 故にこの山は迷いの森だけではなく、多くの危険が潜む場所なのだ。



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