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やってくる  作者: 百舌巌
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第5話 屋根

その日を覚えているのは、見上げた空がやけに赤かったからだ。


それもただ、赤いだけじゃない燃える様に赤いんだ。


夜を迎えようとしている空は藍色になりつつあるのに、その空に浮かんでいる雲に反射して禍々しい赤になっている。


ヤツに気が付いたのは、赤く燃えるような雲を目で追いかけている時だ。 どこまでも広がってる気がして不安になったせいもある。


ヤツは自宅の屋根の上に居た。 そして、屋根の上でユラユラ揺れている。 人の形はしているような感じだったが、はっきりとは見えなかった。


揺れているというより、何かを探していたのかもしれない。


ヤツは俺に気が付く事無く、そのまま屋根の上で揺れているだけだった。 


俺はソイツに悟られないように、そーっと自宅の玄関を開けて家の中に入って行った。




そして、その夜に悪夢を見た。 この頃になると慣れたもので”きっと悪夢を見るな……”と身構えていたりもした。


気が付いたら何も見えない状態だった。


悪夢といえども夢なんだから、何も見えないのは駄目だろうと思っていたら、遠くの方で蝋燭が灯されるのが見えた。


唐突にポッという感じで火が付いたのだ。 だが、その場所に人の居る気配は無い。


蝋燭の明かりに照らされて見えるのは四方を障子に囲まれた部屋だ。


俺は、その明かりに近づいてみたんだ。 何しろ何も見えない状態は、人の心を不安にさせ神経を苛立たせるからね。


近づいてみると蝋燭は自分の背丈ぐらいの蝋燭台の上に載ってるのが分かった。 風も無いのに何故か蝋燭の炎は右に左にと揺れている。


そこから立ち上る一筋の黒い煙が印象的だった。


蝋燭の真ん中辺に虫が一匹張り付いているのが見えた。


「ゴキブリ?」


思わず声を出してしまった瞬間に、虫は俺を目掛けて飛んできた。 羽根を目いっぱい広げてバタバタと音を立てながらだ。


虫が苦手な俺は悲鳴を上げながら尻もちをついてしまったんだ。


そして、そのまま後退りながら逃げるが、それでも虫は自分に向かって来る。 


俺は思わず手で払いのけてしまった。 ”べちゃっ”と汚らしい音を立てながら虫は床に叩きつけられたのだ。


虫はそこで事切れたらしく、床に張り付いたままで動かなくなっていた。


「……うへぇ~」


いきなりの出来事にため息を付くと、唐突に自分の周りで”ぱたっ”と音がした。


「え?」


俺は辺りを見回すと、蝋燭の薄明かりの中を何かが天井から落ちて来ているのが見えた。


床に目を落とすと落ちてきた”ソレ”は、床に落ちると同時に這いずりまわりだしている。


俺に向かってきた虫と同じものが、天井から次々と落ちて来ているのだ。


しかも、時間と共に落ちて来る数が増えて行ってる。


俺は怖くなって起き上って駆け出した。 その虫が俺を目掛けて動いてる気がしたからだ。


俺は床に”ぱたっぱたっ”と音立てながら落ちて来る虫を踏み散らしながら、出口と思われる障子に向かって懸命に走り出した。


だが、走っている最中に部屋がイキナリ狭くなり始めて、出口付近に来た時には自分が通れる分の隙間しか開いていない。


そんな中を壁に手を付きながら走って出口に向かう。


壁に手を付くとブチッと何かが潰れるいやな感触。 一歩踏む度にもブチッと虫が潰れる感触。 そして天井からも落ちて来る虫。


虫が大量に湧いて身体に取り付いた、虫の顔を良く見ると般若のお面だった。


般若のお面を付けた数万の虫が、暗闇の中から俺を睨みつけていたんだ。




そこでパッと目が覚めた。 俺は慌てて蒲団の上に起き上り、身体中をパタパタと手で叩いた。 まだ、虫が取りついている気がしたからだ。


もちろん虫なんか一匹も付いては居なかった。


その時にふと気が付いたんだ。 最初に見た時は山だった、次は田んぼ、生垣・庭先の樹ときて今回は屋根の上だ。


”……なんか段々と近づいて来てね?”


額から流れる汗を拭いながらため息をついた。


次の日に事件が起きた。 隣家に住む従兄が突然発狂して、なにかがやってくると叫びながら、農作業で使っていた鎌で自分の首を半分切った。


もちろん死んでしまったが、事切れる瞬間まで『あれがやってくる! あれがやってくるんだ!』と喚いていたのを覚えている。


その従兄の葬式があった日に父親が死んだ。 玄関先で靴を脱ごうとしていた時に、心筋梗塞の発作を起こしての突然死。


死の直前の苦痛は相当のものだったようで、玄関にあった靴は激しく散乱し、飾ってあった花とか靴ベラや傘なんかもバタバタ倒れたりしてたらしい。


苦しんだ末なのか、玄関の壁にかきむしった後を残し、顔面や喉にも爪痕を残して、玄関の土間に顔を付けたような姿勢で倒れていた。


かっと、両目を見開いたまま口から泡を吹いたままで死んでいたそうだ。


だが、俺は悪夢に連れて往かれたんだと思っている。


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