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そんな二人が恋をして。  作者: 儚夢
4月――出会い
7/30

4月17日――宿泊研修③

 宿泊研修三日目――つまり最終日の朝がやってきた。

 今日も相変わらずの六時起床で、けれど昨日よりは眠たくない朝だった。まあ相部屋の他の五人は昨夜も夜中の一時二時まで起きていたらしく、とても眠たそうな顔をしている。

 最終日の今日はテストの順位発表を除いては、特にイベントが無い。表彰が終われば施設の方々への挨拶をしてバスで帰るだけだ。学校に着けば母さんが迎えに来ているだろうし、すぐ家に着くだろう。

「ふぁ――ああぁ……眠い……」

 思っていた通り班員は全員眠そうに欠伸(あくび)をしていて、初日にベッドの上に敷いた布団をたたむのにもふらふらとしていて苦労している。

 心地よい目覚めだった俺は自分の布団を片付けたあとに他の奴のも手伝っていたが、ほとんど俺が片付けていた。二度寝し始めた奴もいるし……。


 ――とりあえず一通り部屋を綺麗にしたあとに時間を確認する為にスマホの電源を入れると、仲村さんから返信がきていた。急いでトーク画面を開くと、そのメッセージは十数分前に届いたものだった。



『おはよう』

『そうだね、テストの問題暗記ばっかだったね(笑)

 今日で宿泊研修終わっちゃうのかー、なんか寂しい!』



『おはよ』

『思ってたより授業の内容出てたよね

 確かになんか寂しいかも』



 朝から彼女と話せたことに嬉しさを感じながらも時間を確認すると、朝食までの時間がもうそんなになかった。

「なあ、そろそろ食堂行こうぜ」

 ゾンビみたいにふらふらしている班員が、食堂という言葉を聞いてピンとする。なんだ……腹減ってただけか……。




「あぁー美味かったー!」

 朝食を食べ終わり、部屋で次の行動まで待機することになった。俺達の班は少しだけ残っていた部屋の片付けをしてから休憩となった。その際に宿泊研修の思い出や明日からの部活の話をして盛り上がった。

 そうだ……俺も明日から部活始まるんだった。そしたらまた帰りに仲村さんと同じバスに乗れるだろうか。

「ああー、サッカー部の練習きついなー」

 もう布団が残っていないベッドに倒れこんだ大野が、「体中痛い」と言いながら伸びをする。それは練習がきつくて体が痛いんじゃなくて、布団が無いから硬くて痛いんじゃ……とも思ったが、黙っていた。

 弓道部の練習はきつい訳じゃないんだよな……手の内だって俺には楽しく思えるし。

 そういう意味では、弓道は楽しみながらできているので俺には合っているのかもしれない。

「弓道部は? 練習きついの?」

 ふとそんな疑問が投げかけられ、この部屋に一人しかいない弓道部である俺が口を開く。

「いや、どうだろう。きついって思ったことはないかな。早く的に向かって“うちたい”けど、その為には練習が必要だし、頑張らないと認めてもらえない……から」

 完全に独り言のような状態で、それは明日からの練習の意気込みにも思えた。

「へ、へえ……なんかアレだよな! 弓道ってよくわかんねー!」

 大野だけでなく、他の四人も声を揃えて笑っている。

 確かに弓道部は校舎裏のグラウンドのさらに奥で活動しているからその実態はよくわからないかもしれない。けれど弓道部は練習熱心で、毎日遅くまで活動している。

 だから――


「確かによくわかんないかもしれないけどさ……でも、すっげー楽しい部活だよ」


 ――弓道部として、俺にはあの部活を守ることができる。

 部員として『弓道部』を周りに伝えることができる。




 小さく揺れる車体の中、赤信号で止まったあとの衝撃で目が覚めた。

 あのあと、テストの結果発表が終わってすぐに帰り支度を始めた桜庭南高校の生徒は、帰りのバスの中でみんな熟睡していた。きっと俺達の班以外にも、夜中まで起きていた人もいるのだろう。

 気付けば学校に着いていて、みんな最後までふらふらになりながら親元へ帰っていく姿は、まるで生まれたての雛のようだった。

「あ――優飛、起きた?」

「あー……うん、起きた」

 青信号になって発車した車体に揺られ、ボーっと窓の外を眺める。見慣れた町並みには似合わない桜の葉が舞い散り、視界をピンク色に彩っている。そのパステルカラーが目に優しくて、ついつい見入ってしまった。

 そんな俺の姿を見てか、運転席に座っていた母さんが微笑んでいる。

「そうだ、テストどうだったの?」

「あー……良かったよ」

 寝起きで頭が働かず、曖昧な返事になってしまう。まあ、詳細は家で教えればいいだろう……今はとにかく眠たい。

 うとうとしながらもスマホで時間を確認すると、十八時を過ぎたところで、朝SNSで送ったメッセージに、仲村さんから返信があった。



『 神崎君、勉強できるんだね!』



 送られてきた時間が結果発表のすぐあとだったので、きっと終わってすぐに送ってくれたのだろう。そう思うとなんだか嬉しくなった。



『 ありがとう、嬉しいよ』



 素っ気ない返事だっただろうかと少し不安になったけれども、すぐに『 今度教えてほしいな』と返ってきたので安心した。その安心感に襲われて、目を閉じると同時に眠気も再来。

 母さんはやれやれといった様子で溜め息を吐いていたが、いろいろな緊張から解放されて自由になり、身も心も疲れているのだ。家に帰ったらゆっくり休もう。

 そう思って深く息を吐くと、楽しかった宿泊研修の思い出とかが蘇ってきた。

 また明日から学校に行って部活に行って――きっと疲れるんだろう。けれどそれもまた楽しみで。俺はどうやらこの学校が好きらしい。

 ふと意識が失ったような錯覚を覚えて、俺は眠りについた。

 ――そういえば、昨日のテストの結果は学年で二位を取ることができて、仲村さんにも直接「おめでとう」と言ってもらえたのが一番の思い出となった。

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