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そんな二人が恋をして。  作者: 儚夢
4月――出会い
4/30

4月12日――部活動②

 射場内へと通ずる扉を開けて恐る恐る「こんにちは」と言った清水に、加瀬外副部長が「あーだめだめ」と言って近寄ってきた。

「あれ? 昨日来てたよね。入部するの?」

「あっはい! 清水です! 入部届け持ってきました!」

 無駄に声のでかい清水に面食らいながらも、加瀬外副部長は「じゃあ尚更だめ」と、はにかみながら言う。

「な、何故ですか!?」

 入部するのを駄目と言われてるとでも思ったのだろうか、清水が冷や汗ダラダラで加瀬外副部長に縋っている。

 いや……流石にそんなことはないと思うんだけど……。

「えっと、まず入部届けもらってもいい?」

 そう言われて俺と清水が差し出した入部届けを受け取って、加瀬外副部長は弓道部についての説明を始めた。

「俺たちの通ってる桜庭南高校の弓道部は、まず射場に入ったら大きな声で「こんにちは!」って挨拶するんだ。ほら、あの天井のとこに神棚みたいなのあるだろ?」

 そう言って加瀬外副部長の指差した先には、確かに神棚のようなものがあった。どうやらあそこに対して挨拶をするらしい。そのほかにもいろいろと説明されたが、あとのことは実践的なものだったので、実際に経験する時が来てみないとなんとも分からない。

 もう入学から一週間以上が経過しているので、俺たちのように正式に入部している一年生も少なくはなかった。射場に来るまでには、部室に行ってジャージに着替えたりするのだが、今現在は一年生は二年生と部室を共有している。ちなみに三年生は部室には寄らずに、まっすぐ射場に来るようだ。

「そうだな、初めは『手の内』っていうのをやってもらうんだけど――」

 その後は加瀬外副部長の指示に従って『手の内』を習い、一年生は弓を持って外での練習となった。流石に射場内は全員が収まるには狭すぎるし、先輩方の練習の邪魔にもなりかねない。

 ここ数日は部活動勧誘とかで自分たちの部活の時間も満足に確保できなかっただろうし。

「そんなわけで外に出たはいいけどよ、『手の内』って何やればいいんだ?」

 弓を持って立ち尽くした状態の清水が、辺りにいる一年生を見回す。どうやら手の内というのは、左手で弓を握り、右手で弦を持つところから始まるようだ。

 左手の親指と人差し指と小指を締めながら前に出し、最後は親指をグッと前に突き出している。そうすることで右手から弦が離れる――という仕組みらしい。

 入部して初めての『 やること』ができた俺と清水の目は、大いに輝いていた。




「――っはあー! なんか疲れた!」

 部活が十八時に終わり、バス停で街へのバスを待つことになった。弓道部の先輩方も大抵はこの時間のバスに乗るらしく、バス停でバスを待つ人の数はやたら多い。

 何人かは他の部活の人もいるが、圧倒的に弓道部が多かった。

 人数での支配感が凄かった。

「あの手の内? ってめっちゃ手痛くなるし地味だな」

 確かに清水の言う通り、左手はジンジンと痛むし実際の弓道と比べると地味さもある。だが、その基本が大事なんだと加瀬外副部長も言っていた。

 地味で面白くないことを真面目にやった奴が後々になって信頼されるし、結果もついてくるから、と。

「加瀬外先輩が言ってたこと信じようぜ」

 清水にそう言い聞かせると、渋々といった様子で頷いていた。気持ちは分かるが、球拾いを乗り越えた野球部員だって、いつかはレギュラーに入れるようにって信じてやってるんだ。

 俺達も頑張らないと。


「――部活疲れたねー」

 頭の中に、これから部活を頑張っていく自分を思い浮かべていた丁度その時だった。

 学校側から、吹奏楽部が歩いてきた。その中には当然仲村さんもいて……心臓が跳ね上がるように高鳴った。

 清水……! 吹奏楽部と帰る時間同じってのは本当だったのか!

「清水ありがとう……っ」

 友情という実体のない、見えないカタチに感動して心からの感謝を伝えると、清水はきょとんとした顔をしていた。

「ん? 何が――ってああ! だ、だから言っただろ?」

 俺の視線の先に仲村さんがいることに気付いて慌てて取り繕っていた。清水この野郎さてはでまかせだったのか。

 だけど……まあ、本当に同じバスだったので結果オーライということにしておこう。

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