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突撃、魔王城。

ついツッコミを入れたくなる。

つい想像してほっこり癒される。

そんな文章を書きたいです。

我輩は猫、魔王様である。



我輩は猫。今は食事中である。

見知らぬ森で巨大トカゲと遭遇、見事勝利を収めた我輩である。

「ごめんなさい、許してください、食べないでください」と泣きながら頼むので、代わりの飯を要求。

慌てて飛び去ったトカゲは、どこで捕らえたのか豚を一頭咥えて戻ってきた。

そのまま逃げるのかと思っていたが、なかなか律儀なやつ。

トカゲに火を噴いてもらい、豚を丸焼きにして、今食べている最中、という訳である。

豚一頭は我輩には多すぎたので、残りはトカゲに分けてやった。


「お前…いや、親分と呼ばせてくだせぇ。俺、親分に一生ついて行きやす!」


なにやらいたく感動されてしまい、勝手に我輩の子分一号になってしまったのである。

まぁ硬くて食べられないし、食べても美味しくないし、空飛べるし、火種に困らないし、なかなか律儀なやつだから子分にしてやってもいいかな。

もぐもぐ、この豚旨い。


「それで…親分は、これから何か目的でもあるんですかい?」


我輩の分けた豚をぺろりと平らげ終えたトカゲが、おもむろに語りだす。

もぐもぐ、今食事中なのである。話は後にしてほしいのである。

とはいえ、我輩はこいつの親分である。ふふん、我輩は子分に甘いのである。

甘すぎると調子に乗るから、さじ加減の次第であるが、まぁこれくらいは良かろう、なのである。


「…そうですかい、寝床を探しているんですかい」


そうなのである。できれば雨風が入らなくて、暖かくて、水と食べ物が沢山ある所がいいのである。

できれば、ふわふわで、もこもこで、寝心地の良い所がいい。


「…そんな至れり尽くせりな場所なんてあるんですかい?まさか」


トカゲは何やら驚愕した様子で、我輩の方を凝視する。こっち見んな、食事中である。

もぐもぐ、豚旨い。トカゲに分けず残しといた方が良かったかな。まぁまた捕ってきてもらえばいいのである。


「まさか、親分…魔王陛下に、いや、魔王に挑むつもりなんですかい?」


魔王とはなんぞや。

豚を食べながら、トカゲの話を聞く我輩。


「魔王陛下、いや、魔王は、俺たち魔物の頂点に立つ存在でさぁ。

力がものを言う魔物の世界で頂点に立つってのは相当な実力者と言えやしょう」


ふむふむ、魔王というのはなかなか強いらしいのである。


「親分を疑う訳ではありやせんが、勝算はあるんですかい」


けふ、あー旨かったのである。お腹一杯なのである。

おっとと、身だしなみを整えねば。ぺろぺろ、くしくし。我輩はきれい好きなのである。

むむ、今度は眠たくなってきたのである。あー眠たいのである。


「分かりやした、親分。俺が魔王城まで案内しやしょう」


早く寝床に案内してほしいのである。

我輩が背中によじ登るのを待って、翼を大きく広げるトカゲ。


「承知でさあ。急ぎやすんで、振り落とされないようしっかり掴まっていてくだせえ」


ふむんと爪を立てて、背中にしがみつく我輩を見やり、地を蹴るトカゲ。

若干の浮遊感の後、力強く羽ばたく両翼に、すさまじい速さで流れていく雲。

我輩は何度も風に流されそうになりつつも、どきどき、興奮するのである。


やがて風が止み、ズンと地を踏む音に、舞い上がる土煙。

どうやら空の旅は終わりのようである。楽しかったので、また乗せてもらいたいものである。


「着きやしたぜ、親分。ここが魔王城でさあ」


落ちないように踏ん張っていたせいか、手足が震えている。立てそうにないのでしばらくだらんとする。


「親分?」


まぁ待つのである。手足に力が入らないのである。しばらく待つのである。

我輩はだらんとしながら、トカゲが言った魔王城とやらを観察する。

石造りの建物である。巨大な建物である。外から分かるのは、ただそれだけである。


「さすが親分。魔王城を見てただそれだけと言い放つその度胸、尊敬いたしやす!」


そろそろ手足が動くようになってきた。

さぁ寝床を探しに行くのである。トカゲは後から付いてくるのである。


「へい、自ら先陣を切るその勇姿、惚れ惚れいたしやす。頼りないとは思いやすが、背中は俺に任せてくだせえ!」


ふふん、子分を守るのは親分の役目なのである。安心して付いてくるといいのである。

ここは正面突破なのである。ふふん、皆が我輩に道を開けているのである。


「すげぇ親分、魔王城の兵士どもが脅えて下がっていきやすぜ!」


ふふん、もっと我輩を称えるのである。

我輩たちが城内を進んでいると、やがて大きな広間に辿り着いた。


「親分、ここが玉座の間だと思いやす。今はもぬけの空のようですが」


ふむん、寝床に良さそうな場所を探すのである。

いい加減に疲れてきたのである。早く休みたいのである。

おや、あそこが良さそうなのである。


「お、親分、そこは玉座ですぜ。恐れを知らぬその行動力、尊敬しやすが俺にはとても真似できやせん」


てしてし。ふむん、なかなか寝心地の良さそうな場所なのである。

それではさっそく。


「貴様、何をしている」


何者かがこの玉座の間に入ってきたようだ。

カツカツと靴を鳴らしながら、トカゲの方に近づいていく。


「う…この方が、いや、こいつが魔王ですぜ。親分、どういたしやしょう?」


トカゲが慌てた様子で我輩に伺いを立てる。


「親分…だと?畜生如きに従属しているのか?末端とは言え、誇り高き竜族であろう。情けない」


そうトカゲを嘲りながら、我輩へと向かってくる魔王。


「どけ!そこは畜生ごときが座れる場所ではない!!」


我輩は魔王に掴まれ、放り投げられた。おぉお、何をする、楽しいではないか。

素早く身を翻し、したっと着地する我輩。かっこいい。


「たかが畜生とはいえ、なかなか。叩き潰すつもりで投げたのだがな」


ふふん、すごいであろう。楽しかったし、もう一度させてやっても良いぞ。


「挑発のつもりか?いいだろう。しかし、三度目は無いとおも…?」


魔王とやらの様子が変わる。うろたえているようだ。

トカゲに目を合わせるが、こっちも何がなにやら分かっていない様子である。


「貴様、何をした?!なぜ、俺の手が爛れている!?」


よくよく見れば、魔王の手は真っ赤に爛れている。

皮がめくれているのは、おそらく咄嗟に掻いてしまったのであろう。

そして、それはおそらく我輩を掴んだ方の手である。

ふふん、にやり。その寝床は我輩のものだぁっ!


「何なんだ貴様は!へぇっくし!なんだこれは!痒い、へぇっくし!なぜだ!へくしっ」


ふふん、ほれほれぃ。これがいいのんか、これがいいのんかー。

擦り寄る我輩に逃げ腰の魔王。


「すげぇぜ親分、あの魔王を圧倒していやす」


トカゲの目がキラキラとしている。ふふん、子分に勇姿を見せ付けるのも親分の務め。

しっかりと見ているがいい。


「やめろ!近寄るな!!へぇっくし!!」


ふむん、そろそろ頃合であろうか。魔王の姿を見やると、全身真っ赤でぷつぷつだらけ。

掻き毟って皮膚はボロボロ、所々に血も滲んでいる。

涙と鼻水を滝のように流し、息も絶え絶えである。まさに虫の息。

とどめは子分に譲ってやろう。我輩の目がきらりと光った。たぶん。


「分かりやした、親分!食らえ、魔王!!」


トカゲの放つ熱線が魔王の体を包み込む。うむ、我輩ならば塵も残らんのである。

「ぎゃぁあああ…」と断末魔の叫びが響き渡り、城中から集まってくる魔王の配下と思われる魔物たち。


「ま、魔王様が…」

「なんと…」

「まさか、魔王様が敗れるとは…」


やがて魔王は沈黙し、黒コゲの物体が残った。ちっ、しぶとい。まだ生きてやがるのである。

何はともあれ、これで実力は誰の目にも明らか。

我輩は玉座へ、テテテと歩み寄り、その上に陣取る。そして宣言する。


「にゃー」


我輩は猫、魔王様である。


猫…

周りで色々と勘違いが起きているが、ただの猫。

当然ながら、猫の実力は最底辺。

魔王配下の誰よりも弱いが、魔王限定で強い。

ちなみに、この世界には他に猫がいない。


トカゲ…

忠義に厚い性格で、自分より強いと認めた存在に付き従う。

謙譲した食物を分け与えられたことで、ますますの忠誠を誓う。

魔王を降したことで、さらに忠誠を深めていく。

トカゲ自身の性格もあるが、魔物の世界は弱肉強食。

敗者が勝者に従うのは自然の掟なのだ。

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