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何処までも共にいく・・・

作者: 藍猫

もともと連載用の過去版なので、分かりにくい所があるかも知れないです(汗








夢を見る。

幼い頃の5歳くらいの俺の夢。

既に天才と持て囃され、天才故に冷めた目でしか物事を見れなくなっていた時だ。

誰にも心を開かず、近寄せることでさえ嫌っていた俺には付き人がいなかった。当然だ。遊ぶ事なく、ただ観察するようにじっと辺りを見る子供なんて、薄気味悪いにも程がある。

ましてや、気に入らない事があると容赦なく魔法を放つ物騒な子でもあったのだから、近寄ろうにも近寄れなかったのだろう。


父上はそんな俺を恐れはしても遠ざける真似はしなかった。だからといって甘やかすような事はなかった。


そんなある日、父上がある場所へと俺を誘った。

それは奴隷商。奴隷制度が整っている為、合法として人身売買が行われているのだ。

奴隷になるのは身寄りのないものや軽い犯罪を起こした者だ。奴隷は最低限の生活を送れる制度を利用して、わざわざ奴隷になる者もいるとか。

そこで、俺の付き人を探すらしい。


無駄なことを。


馬鹿馬鹿しいと思っていた。


どうせただの奴隷。


結局は俺を恐れて逃げるのだ。


「ノア様。此度は我が商店をご利用頂き――」


恭しく頭を垂れた男を冷たく見つめる。

こういう奴は俺を恐れて逃げたりしない。代わりに、にやにやとした薄気味悪い笑みを浮かべて、これからの売り上げに心を馳せているのたろう。


父上が商人の男に事細かく話をつける。

歳は若い方がいいだの、大体の作法ができる者だの……。

結局は使えなくなる付き人の為に愚かだと思った。


そして小さな俺は暇潰しに奥に進んだのだ。

そこに、俺に光を与える彼女がいるとも知らずに……。










がちゃん……。

薄暗い通路で鎖の当たる音が聞こえた。

真っ直ぐな通路の両端には鎖の鉄格子があり、その向こうには商品である奴隷たちがおさめられている。

それなりに整えられた身なりの老若男女の奴隷達がごそごそと動いているのだ。

飼われた人間、と思うと久しく表情が動いたような気がした。恐らく、眉を寄せた不快な表情に。


同情はしないがこの中から付き人を選ぶとなると複雑な気持ちだ。


暫く歩くと金色の鉄格子がひっそりとあるのに気付いた。まるで隠されるように布まで被せてある。

余り大きくはない。もしかしたら動物か何かがいるのかもしれない。

ちょっとした好奇心だった。まるで悪い事をする前の子どものように俺はその布をめくったのだ。


そして息を、のんだ。


艶やかに腰まで流れる漆黒の髪。それに相対するような真っ白な肌。王者の風格を漂われる金色に輝く瞳。


美しかった。


まるで神に祝福されたような光輪さえ見えたような気がするほどに。


「……だれ」


薄っすらと開かれた瞳が俺を映し、彼女は小さくも凛とした声で聞いた。


「……どれい、か?」


まだ舌っ足らずな自分に苛つきながらもじっと見つめ返す。


「どれい……どれい、ね。そうかもしれませんね」


彼女はそこでふっと口元を歪め、いたずらっぽくわらった。


「あなたが、買ってくれるのですか?」


どき、と心臓が鳴ったと思う。それほどに彼女の言葉は俺に響き渡ったのだ。

それが何に対するものなのかは分からなかった。でも、皮肉げに笑った彼女を見て、気付けば金色の鉄格子を握り込んでいた。


「ああ、おれがおまえを、買ってやる」


はっきりと宣言すると彼女は目を見開き、寂しげに顔を歪めてから嬉しそうに表情を綻ばさせた。

目尻から涙を流しながら。


「せいいっぱい、ごほーしさせていただきます。ごしゅじんさま」


また悪戯っぽく笑った彼女だが、生憎箱入りな俺にはよく意味の分からない言葉だった。


この日、彼女は俺の奴隷であり、唯一の付き人となった。


俺の名はノア。それにあやかってネア、と名付けた。

それは既に亡き妹と同じ名前で、それほどに大切にしたいと思ったからかも知れない。

妹の存在なんてすっかり忘れていたというのに……いや。もう思い出したくさえないと思っていたのに。


魔力を手のひらに込めて鉄格子をぐにゃりと変形させる。

驚く彼女にくすりと笑ってから手を差し伸ばした。


「おいで」


「……はいっごしゅじんさま」


笑顔で手をとってくれた彼女がとても可愛くて。

手から伝わる熱が暖かくて。


初めて、愛しいという感情を知った。


「あ、ああっ!ノア様その子はっ!」


やけに焦った様子で駆け寄ってきた商人に腹が立つ。

父上も遅れながらに来て、妙に落ち着きのない商人を冷たい目で見ていた。


「ちちうえ。この子にします」


無表情でその事を告げると父上は軽く目を見開いた。

そのまま俺の隣にいるネアに目を移す。

ネアは見られているのに気付くと、ゆっくりと粗末なワンピースの裾を持ち淑女の礼をした。


「ネア、です」


其の顔は先程の花のような柔らかいものではなく、強張った冷たい感じがした。

それよりも驚いたのは、奴隷である筈のネアが貴族のような立ち振る舞いをしたこと。

商人の慌てようからみて、もしかしたらどこぞの貴族なのかもしれない。父上も苦々しそうな表情だったが、次のネアの言葉に唖然とした。


「わたしは、とてもとおいところのおうぞく、でした。でも、わたしは1人です。みんないなくなりました。だからただのどれい、です」


それがどこの国の事かは分からない。でも、その真剣な瞳に父上の表情も真剣なものになった。


「……商人。この子を貰おう」


「し、しかしその娘は」


「何か問題でもあるのか?」


「そ、それは……」


商人がぐっと押し黙るのを見て、ネアを自分のものに出来ることを確信した。


「ネア。これからずっと、いっしょだ」


「はい」


ネアが俺だけに笑顔を向けてくれるのが嬉しくて、口元が自然と緩むのが分かった。


これから、ずっと、一緒。


それは約束。


病める時も、死する時も。


まるで結ばれるように。







 


「……?ノア様?ノア――ん」


浮上した意識の中で流れるように、ネアに口付ける。


「ん、んぅ……あ、ノア、ノアさ」


薄らと頬を染めたネアを見て、すっきりとした気分になった。

くく、と喉で笑うとネアが困ったように言う。


「朝ですよノア様」


そんな風に注意してくれる彼女が愛おしい。

止められなくなった自分に、今日だけは枷を外すことにした。


「――愛してる」


「ふふ……知ってます」


俺達はいつまでも共に行く。












読んで頂きありがとうございました!


最近読み専なためなかなか書いてないです(汗

連載用のを書いてても途中で挫折するという・・・これはその挫折した小説の過去編みたいなものです。。。



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