あたしを飼うということ
あたしがいたら確かに毎日楽しくなる。
ひとりぐらしでも、帰ってきたら「ただいま」と言える相手ができる。
子どもがお母さんたちのそばを卒業した時、どこか心許なくなっても、あたしたちのお世話をしていたら少しは気が紛れたりするんじゃないかな。
それに、いろんなことを教えて、それが出来るようになったときの嬉しさはきっとハンパではないはず。
でも、よく考えて?
あたしたちはあなたたちと同じ様にご飯を食べて、水を飲みます。
ケガも病気も、します。アレルギーや病気を持って生まれて来るときもあります。
年に一回の予防注射と、月に一回ノミやダニがつかないように薬を呑んで、蚊が出る時期には、蚊に刺されても病気にならないようにやっぱり薬を必要とします。
あ、あと狂犬病という病気にかからないように年に一回注射をしないと!
それにそれに、ワンワンと言った時にお隣さんや近所に迷惑かけちゃうかも。
ご主人たちに赤ちゃん生まれたら、その子を起こしちゃうかも。
あたしたちっていろんなところを素足で、毛皮という服を着て歩いたり走ったりするから、すぐ汚れちゃう。
毛も伸びちゃうし……。伸びたまま放って置かれたら毛玉になって皮膚に張り付いたりしちゃうんです。
そうなったらブラシで取ることは出来なくて……。
プードルさんとかビション・フリーゼさんとかシー・ズーさんとかの長毛種はバリカンで丸坊主にするしかなくなっちゃうんです。
チワワさんやダックスさんでも、毛が長かったら絡まっちゃいます。もつれなくても、抜け毛がいっぱい出ると絡まっちゃうんです。
そうでなくても、前足の一番内側にある爪はお散歩では削れないから、どんどん伸びて巻き爪になる時もあるんです。
巻き爪になると、皮膚に食い込んだりするときもあるんです!
そんな爪、ないわ! それなら耳はどう?
臭くないですか? 黒くないですか?
あたしたちもあなたたちと同じように耳垢がたまります。
しかも、プードルさん、シーズーさんみたいに耳が垂れていて、耳の中に毛が生えてくる子は外耳炎になりやすいの。
ちゃんとシャンプーや耳掃除や爪切り、必要ならカットをお家でしてくれますか?
それかトリミングのお店にできれば月一回、できなくても最低二月に一回ご予約とってくれますか?
もしご主人たちが遠くにお出掛けして数日戻らなかった時、あたしたちはどうしたらいいの?
ご飯は? 水は? お散歩は?
誰がしてくれるの?
あたしたち専用のホテルもあるというけど、タダというわけではないですよね?
あ。でも、あたしもよく知っているお家に泊まらせてくれるなら大歓迎です。
よくよく考えて、決めてください。
大きくなると、毛の色が薄くなったり、女の子なら生理になったり、男の子なら二つあるはずの睾丸がひとつしか下りてこなかったり、全く下りてこなかったりするみたい。
でも本当は大きくなるまでの間のほうが本当に大変!
ご飯以外のもの……例えば髪止めとかプラスチックとか噛みちぎったおもちゃとかを食べてしまって、病院に走らないといけなくなることもあります。
下痢をしたり、食欲が無くなったり、昨日まで何ともなかったのにある部分を触ると痛がったり……。
そういう時もちゃんと病院へ連れて行ってくれますか?
ちゃんと看病してくれますか?
おかしい、と思って病院に連れて行ってくれますか?
毎日毎日、健康状態のチェックしてくれますか?
面倒くさい? いえいえ。
毎日毎日、うんちの色を見るだけでも健康かどうかは分かります。
それなら毎日できるよね!
時々でいいから耳の状態、爪の状態、あと皮膚の状態もチェックして。
大丈夫、大丈夫と思っていても、病院に行かなきゃいけなくなる時があるんです。
中にはアレルギーで皮膚が真っ赤になっちゃう子もいるんです。
……え? やっぱり、面倒ですか?
でも、あたしたちと一緒に暮らしたい?
うん、あたしたちもあなたたちと一緒に暮らしたい!
でもあたしたちも生きています。
ひとつ間違えるだけで死んじゃう時もあります。
最近はやりのちっちゃいあたしたちなんて特にそう。
「ちっちゃいね、かわいいね」
――ありがとう。
「でも踏んじゃいそう」
「ちっちゃすぎて怖いな……」
――同感です……。
抱っこしたときに誤って落としてしまわぬように、小さいあたしたちを育てるなら十分注意して下さい。
あたしたちの知能は人間の子ども――三、四歳の子どもとほぼ同じだといわれています。
そんな、あたしたちです。
バカです。単純です。いいことも悪いことも検討付きません。
言葉も最初はまったく通じません。ある意味、宇宙人です。
ご理解の上、手を差し伸べてくださいませませ。