転生者ザグバ・プロマクスは、宣言した!!
申し訳ありません。短編で出すはずが、連載になってしまったので再投稿です。内容に変わりはありません。
連載版
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「……空っぽな人生だったなぁ」
働き詰めで、気づけば末期の癌。親より先に死ぬ親不孝。見舞いに来てくれる友人も、会社の同僚も、中身のない返事の連絡だけで終わり。
男は人生を振り返ると、本当に何もなかったなと笑う気すらしない。
勉強も運動も普通。共働きの両親、家は貧乏でもなければ金持ちでもない。彼女はいたことがあるが、結婚まで至らず。別れた理由もひどいものだった。
『真面目過ぎて、つまんないの。ごめんなさい』
真面目に生きていればいいことがあると思っていたが、そんなこともないと思わされた瞬間だ。けれど、今さら生き方を変えようとは思えないし、男にはそんなに器用なことができなかった。
ただ、今は結婚を決めた人がいなくてよかったと思うだけ。
真面目に働いて、ボーナスを全額奨学金の返済に充てて、小学校から大学まで風邪以外では出席したけれど、皆勤賞はなし。大学の面接では数社落ちて、第五志望の会社に十年間勤めた。
その結果が、これ。
「もっと……遊んでおけばよかったなぁ」
同年代のSNSは、常に友達や恋人と大盛り上がり。同年代に誕生日を祝ってもらったことはないし、制服でテーマパークに行ったこともない。最近では、結婚報告や子供を授かった元友人たちもいる。
それに加えて、自分はネットサーフィンと、オタク趣味を楽しむだけ。それでもいいじゃないか、独身貴族最高と思いながらも、本当は心の底から羨ましいと思っていた。表面上は気にしてないようにしても、内心では羨ましすぎて血の涙が出るくらいだ。
「……まぁ、もう遅いか」
癌だと言われても泣かなかった。ああ、ここで終わりかと思っただけ。本当にただそれだけだったのに。
「……ああ……今になって、泣けてきた」
人生を振り返ると涙が止まらない。
もし、次の人生があるのなら……今度は青春したい、友人たちとバカ騒ぎしたい、制服でデートしたい、結婚したい、家族を作りたい。
最後に人生を振り返ったとき、いい人生だったと笑えるようになりたい。
「次……こそは……」
そんな思いを胸に抱きながら……。
――心電図から一定の高い音が鳴り響いた。
男は、強い後悔を残したまま、息を引き取ったのだった。
■□■□
「ここが、王都魔法学園か!」
彼の名はザグバ・プロマクス。
灰色のソフトモヒカンにワインレッドの瞳を輝かせたザグバは、人目もはばからず声を出す。周りの学生よりも頭一個と半分ほど高い背丈、制服である黒ワイシャツの袖を捲って顔を見せるのは、太すぎず細すぎない鍛え抜かれた戦士の腕。左頬と首には大きな古傷、腕も古傷だらけで、過去に死闘を繰り返してきたことが分かる。
そんなザグバに様々な視線が、突き刺さる。興味を抱く視線、侮蔑の視線、恐れるような視線、奇異の視線と様々だ。ザグバは視線に気付いているが、まったく興味がないらしく、堂々と腕を組んで学園を見上げていた。
由緒正しい魔法学園の制服を着崩して、ワイシャツが第二ボタンまで開いていること、他の学生より背が高く肉体が仕上がっていること、学生というより戦士という言葉が似合う男、ザグバ。
容姿が目立つのは仕方がない。だが、目立っているうちの一つとして、ザグバの立っている位置が悪い。学園の門の中央を陣取っているため、視線が向くのは当然だろう。
なぜそんなことをしているかというと、ザグバは待ち合わせをしているのだ。まぁ、門の中央で腕を組んで待っている必要はないのだが、本人は必要なことだと思っている。
少しばかり、残念な男。
それが、ザグバ・プロマクスなのであった。
「ザグ、お待たせ」
そんなザグバに、爽やかな声がかかる。
「おお、来たか、クレス!」
クレイス・デイフェル。デイフェル辺境伯の三男坊で、ザグバの親友であり、戦友でもある。
ザグバよりも背が低いクレスなのだが、他の学生に比べて頭一つ分大きい。とはいえ、ザグバに比べれば彼は大人びた学生に見える。
襟足を短く結んだ濃い緑色の髪に、小麦色の優しい瞳。キリッとした顔立ちなのに、優しい空気を醸し出す。体つきも仕上がっているが、ザグバより細い。美男美女が多い世界でも、クレスの容姿は人目を引くほどだ。ほら、女子学生の数人が、コソコソと黄色い声を上げているのがいい証拠だろう。
とはいえ、クレスは女子学生の視線を何とも思っていないらしい。そういうことに興味がないといった感じだ。
「ザグ、腕まくりはいいけど、ローブはどうしたんだい?」
「動きにくいし、熱いからな。ワイシャツだけで十分だ! やはり、まずいか?」
制服を着崩していただけでなく、ローブすら着用していないようだ。それは、目立つのも当たり前である。
「まあ、いいんじゃない。ローブを着てなくても、ザグは困らないだろうから。まぁ、第二ボタンは閉めて、ネクタイはもう少し上げたほうがいいと思うけどね」
「クレスがそういうならそうしよう。じゃあ、入学式に向かうぞ!」
「うん。あ、ザグ、そっちじゃないよ」
「そうか! では、案内してくれ!」
「はいはい。ちゃんとついてきてね」
「おうよ!」
輩のようなザグバと、爽やかイケメンのクレス。
正反対な見た目の彼らは、二人で入学式の会場へと向かう。
会場に向かうと、ツバの広い三角帽子を被った女教師がギョッとしながらザグバを二度見した。ザグバを見上げた女教師の顔は、校則違反の学生がいるというより、何やら恐ろしいものを見てしまったかのように青ざめている。女教師は、魔女帽子を深く被って視線を隠した。
「クレイス・デイフェルと、ザグバ・プロマクスです」
怯えている女教師にクレスが自身の名とザグバの名前を伝えると、女教師はかたかた手を震わせて指さす。
「は、はい。あ、あなたたちはあそこの席へ」
「ありがとうございます!」
「あ、は、はい。ど、どういたしまして」
教師に指示された場所に向かい、二人は席に着く。
ザグバとクレスが席に座ると、少し離れた場所で和やかだった学生たちの空気が固くなった。まるで、危険人物が校内に入ってきたかのような緊張感だ。まぁ、性格はどうであれ、普通ではないことをしているので仕方がないだろう。
「はは、思った通り浮いてるね、ザグバ」
「そうだな。これは失敗だったかもしれん。まぁ、もう遅いから仕方がないな! がっははは!」
大きく笑うザグバに、周りの空気が少し緩む。品行方正とは真反対の人物だと思っていた学生たちだが、ザグバの話し方と空気を察したのだろう。あー、少し残念な人なんだなと言った感じに。
止まっていた話声が再開する。ザグバに対して男子学生がコソコソと話し、クレスの顔について語る女子学生。全ての会話は、ザグバに聞こえているが、本人は何も気にしていないのか、クレスと時間が来るまで他愛もない話をする。
「静粛に。これより、入学式を始める」
教師の言葉で、ピタリと会話が止まった。貴族が多く通う魔法学園といったところだろう。メリハリがきっちりとしている。
「それでは、入学式を開始します。まずは、学園長から祝福のご挨拶をお願いします」
教師の声がけで、学園長が姿を現す。壇上に突如として現れた学園長に、息を飲む声が聞こえた。優秀な魔法使いの中でも、ほんの一握りの者にしか使えない転移の法で姿を現したのだから。
壇上に現れたのは、大きな杖をついた老人だ。
(さすがは、学園長といったところか)
転移だけの判断ではない。ザグバは一目見て、学園長の強さを肌で感じ取った。教師のレベルも高いと思っていたが、学園長はさらに数歩先を行く。
見た目は弱そうな老人だ。魔法使いを見た目で判断してはいけないが、大きな杖をついて腰を曲げている。声に関してもまったく覇気がなく今にも死にかけのしゃがれた声だ。
「カクカクシカジカ」
ザグバには、学園長の新入生に向けたありがたい言葉の長話が一切入っていない。
ただただじっと、老人の姿を確認する。
「女性か……姿を変える魔法だな」
「ほう……」
先程まで弱々しかった学園長の喉から、感嘆と鋭さの混じった吐息がザグバの耳に届いた。ザグバの普段の声は大きいが、今回は周りには聞こえないくらいには小さく、無意識に放ってしまった言葉だった。だというのに、学園長から反応があり、目が合う。学園長の紫色の瞳は見た目と違って枯れておらず、メラメラと燃えて見えた。
「学園長?」
「いやいや、なんでもないぞい……えっとぉ、どこまで話したのぅ……あぁ、そうじゃったなぁ……カクカクシカジカ」
そうして、ザグバにとっては聞く意味のない話に戻った。
ザグバは、話は聞いていないが、学園長から決して目を離さない。
[クレス]
[どうしたの、ザグ。念話なんて]
[世界は広いな。これからが、楽しみだ]
ザグバの唐突な念話や、突然過ぎる言葉にも、クレスは動じない。ただ、ふっと微笑むような声がした。
[そうだね。でも、まだ式典の最中だから、魔力も抑えてね。みんなが苦しそうだよ]
クレスに指摘されて、ザグバはハッとする。周りを見れば、少し離れた席の学生たちは顔を青くしていた。強者を見たザグバが、興奮して魔力を体に纏わせていたらしい。防衛本能に近い反射的な行動であった。
[あぁ、すまんな……助かる]
[いいよ]
[ね、念話での、し、私語も、つ、謹んで、く、くださいね]
念話に介入してきたのは、先程顔を青ざめさせていた女教師であった。視線を向ければ、今も青ざめていて、なんなら若干涙目だ。
(念話の介入とは……恐れ入った)
念話をするには、魔力の波長を他者に合わせる必要がある。長年の関係なら念話の介入も可能であるが、そもそも念話を使っているという証拠はほとんどない。僅かに魔力が漏れる程度だが、靴に砂一粒が入ったような違和感を感じる必要がある。
よほどの魔力探知能力がなければ不可能だし、分かったところで魔力の波長を合わせることができない。
魔力の波長は指紋のようなものだから。
魔力探知とコントロールの優れた教師ということが証明された。怯えている態度とは思えないほど卓越した技術である。
(やはり、来てよかったな!)
ザグバは、うんうんと今後の学生生活に期待を寄せた。
入学式は、つつがなく進行していく。
在学生で主席の学生が挨拶に来れば。
(ほう、あの先輩が、この学園の最強か。ぜひ、手合わせ願いたいものだ!)
頭には戦いのことしかなく。
主席の挨拶が終わると。
(ふむ……さすがは、魔法学園。ダイヤモンドの原石が山ほどいるな。鍛えがいがありそうだ!)
など、今度は自分の世界に入ってしまい、入学式の言葉や説明はほとんど覚えていないザグバなのであった。
■□■□
入学式が終わると、教師が学生たちを誘導する。教室まで案内され、階段形式の席に各々自由に座っていく。
クラスの人数は少ない。ザグバたちを含めて、十人のみ。ザグバとクレスは、後ろの席で隣り同士。残りの八人は、三人グループが2つできており、残り二人は一人で座っていた。
一番前の席に座っている男子学生二人と、女子学生一人のグループは、クラスを見た感想を述べている。
「十人か、今年は優秀な学生が多いらしい」
「狂愛双子、愛し子は当然なの。あとは、見た目判断にはなるけど、ハーフエルフさんは恐らく目を瞑ってるオリーブ髪の子、魔女の末裔さんはお団子ヘアーの子、イケメンさんは……辺境の英雄かなぁ? いつもの面子以外は、王都のパーティーには参加してないから、たぶんなの。それで……」
「つうことは、特異級の冒険者は灰色のか。噂でなく本物なら、ぜひ手合わせ願いたいもんだぜ」
「まあ、偽物ではないことは確かだろう。今年は当たりだ。偽物探しからせずにすむようだ」
そんな会話がザグバの耳に届く。
狂愛双子と愛し子、ハーフエルフに、魔女の末裔と、気になる単語を耳にする。
まずは、分かりやすい狂愛双子と愛し子の方を見る。彼女たちは、廊下側の前の席に座っていた。
「お嬢、体調は問題ありませんか」
「お嬢様、ご気分がすぐれない場合は、すぐにお伝えください」
「問題ありませんわ……それよりも、二人とも、もう少し離れてくださいませ」
ピタリと隣にくっつく二人に、文句を言うミルクティー色の女子学生。だが、二人は言うことを聞かないようだ。
「何を言うのです、お嬢。僕たちの仲ではないですか」
「そうです、お嬢様。私たちの仲ではありませんか」
「……はぁ、どうしてこんな風に育ってしまったのかしら」
愛し子というよりは、苦労人に見える女子学生なのであった。
次に、ハーフエルフと呼ばれた学生を眺める。
「……すぅ」
廊下側の一番後ろの席で、背筋を伸ばして目を瞑っている耳の長い女子学生。なにやらいい夢を見ているのか、少しだけ頬が緩んでいるようにも見える。
「……」
そして最後に、無言のまま、外の景色を眺める魔女の末裔と呼ばれた黒と灰色の髪の女子学生だ。早くこの時間が終われと言わんばかり、退屈そうな表情をしている。
一通りクラスメイトを見たザグバは、フンと鼻息を吐いて言う。
「なんだか、濃いな!」
見たまんまの感想を述べるザグバに、クレスはフッと微笑む。
「僕らも人のこと言えないけどね。まあでも、特別クラスだけあって、粒ぞろいだね」
「ああ、色々と楽しみだな!」
ありきたりな感想を述べた直後、入り口から教師が入ってきた。
「おお、彼女は」
「念話に介入してきた人だね」
ザグバの視線の先には、ペコペコ頭を下げながら教壇に向かう教師の姿が映る。
教壇に立って、息を大きく吸って吐いてを繰り返す。準備が整ってから、ようやく話し出す。
「お、遅れてしまってすみません。こ、このクラスの担任の……エピフィラ、です。す、すみません、わ、私の声は小さいので、魔法を使わせてもらいます」
(魔法学園の教師となると、無詠唱は当たり前ということか)
魔法を使うには詠唱するのが一般的だが、熟練の魔法使いであれば無詠唱は必須の技術である。さすが、有望な魔法使いを育てる魔法学園だなと、ザグバは思った。
エピフィラ先生は、もう一度大きく呼吸を整えてると……。
「学園長からも話がありましたがこの学園は平等です
貴族の子女であろうとも権力を振りかざすことは許されません
むしろ権力を振りかざす人は家名に傷がつくと思ってください
将来有望なあなたたちならこの意味が分かるはずです」
破竹の勢いで話し出した。言葉を止めずにスラスラと。まるで、魔法の詠唱のように。
「このクラスに関しては何かしらの功績を上げれば卒業できます
功績の評価は評価者及び学園長自らが決定いたします
講義に関しては必須講義以外は受けてもいいですし受けなくても構いません
特別クラスの皆様は自由に学園生活をお過ごしください
教師の弟子入りなり騎士の弟子入りなり宮廷魔法師の弟子入りなりお好きにどうぞ
何か質問がある場合は受け付けます」
無呼吸のまま話したからか、エピフィラ先生の息が上がっている。
「先生、功績とはどのような?」
緋色髪の男子学生が、質問する。
「え、えっと……て、手っ取り早いのは騎士団と共に魔獣討伐の遠征に行くことですかね。き、騎士団長に認めてもらえればいいだけなので、い、一番簡単です。き、騎士団長から承認を貰えれば学園長も認めるでしょうから。も、もちろん命の危険もありますから、ほ、他の方法でも構いません。が、学園生活は三年間ありますから、ま、魔法や魔道具の研究をしてもらっても結構です」
「ん……魔道具」
魔道具という言葉に反応したハーフエルフの学生が、キョロキョロと辺りを見渡す。ただ、お目当ての魔道具が見当たらなかったからか、また微動だにせずに止まった。恐らく、また寝たのだろう。
「……なるほど、ありがとうございます」
ハーフエルフの子が急に話し出して反応を窺っていた緋色髪の学生は、ハーフエルフの子が反応を示さなくなってからエピフィラ先生に礼を伝える。
「は、はい……ほ、他に何か質問はありますか?」
「エピフィラ先生、よろしいでしょうか」
手を挙げたのは、狂愛双子の男だ。
「は、はい、どうぞ」
エピフィラに指名されると、わざわざ立ち上がった。
「功績は、個人で上げなければならないのでしょうか。私たち三人は運命共同体。グループで功績を上げてもいいなら、そちらが好ましいのですよ」
まるで舞台役者のような手振りを見せながら、質問をする双子の片割れ。
「も、もちろん、ぐ、グループで問題ありません。た、ただ、ぐ、グループとなると評価も厳しくなりますのでご留意ください」
「ありがとうございます」
流れるように礼をした双子の男子学生は、静かに席についた。
「ほ、他には?」
「もし仮に、功績を挙げれなかったらどうなるの?」
声を出したのは、魔女の末裔と呼ばれる女子学生であった。
「そ、その場合でも、そ、卒業はできます……た、ただし、と、特級クラスではなく一級クラスとしての卒業となります。も、元々皆さんは一級クラス卒業生くらいの実力はお持ちですから。た、ただし、と、特級クラスから一級クラスに落第しての卒業という烙印を押されますので、ご、ご留意ください」
「分かった。どうも、ありがとう」
何やら弱気な発言が気になるザグバではあったが、ひとまずは気にしないことにした。
「あ、あとは……」
「ぶっちゃけ、明日にとんでもねぇ功績を上げたら卒業できんのか?」
自信に満ちあふれていそうな白髪の男が言う。
「そ、卒業できるのではなく、そ、卒業資格を受け取れるということです。そ、卒業に関しては、さ、三年後です」
「じゃあよぉ、卒業資格を受け取ったら、もう功績を挙げるためだけに動く必要はないってことか」
「は、はい。そ、その場合は、ほ、本当に何をしても自由です」
「りょーかいだ。ありがとよ」
「い、いえ……ほ、他には?」
手を挙げている学生もいなければ、反応を示す学生もいない。
「……他にいないようですので、次に進めてもらえればと思います」
エピフィラに緋色髪の男子学生が伝えた。
「そ、そのようですね。で、では、つ、次に、じ、自己紹介をお願いします……せ、成績優秀者のイグニさんから成績順でお願いします」
「はい」
緋色髪の男、イグニスが教壇に向かう。
ただ、ザグバは眉間に皺を寄せて困り顔をしているようだが、睨んでいるようにしか見えない。エピフィラ先生がザグバの顔を見て、魔女帽子を深くかぶった。
「クレス、全く身に覚えがないぞ」
「ああ、ザグバは知らないよね。特別クラスの学生は、入学テストの成績が表に張り出されているんだよ。僕は九位でザグバは十位だったから、僕の次だよ」
「なるほど、ありがとう」
「どういたしまして」
会話が終わると、イグニの自己紹介がまだだということに気づく。どうやら、一人一人の顔をチェックしていたようだ。
緋色のスポーツ刈りに、オレンジ色の瞳に、左耳には赤のピアス。纏っている情熱的な色合いに対して、氷の様に冷たそうな顔つきだ。眉間に皺を寄せていることも原因だろう。
ただ、クラスメイトを一通り眺め終わると、なにやら満足そうにほんのわずかに口角を上げたイグニは全員の目を見ながら話し出す。
「私はフロガティス・イグニ。自己紹介をしたところで、あまり交流の機会はないかもしれない。各々、やることがあるだろうからな。とはいえ、ここで出会ったのも何かの縁だ。私は、皆と交流したいと思っている。顔を合わせる機会があったら、その時はよろしく頼む。以上だ」
それだけ言うと、イグニは席へと戻っていった。
「お嬢、出番です」
「お嬢様、ささ、あの場に」
「はぁ……分かっているわ」
愛し子をよいしょする狂愛双子に呆れたようなため息を吐いて教壇に向かう愛し子。ただ、歩く姿は百合の花の如く美しく洗練された所作である。教壇に立てば、先ほどの不満そうな態度は取り払われ、空気が変わった。
「……む?」
ザグバは、彼女の顔を見て思わず声を出す。
「初めまして、皆さま。わたくしは、ラトゥリィ・ニュンペリアンと申します。布で目を隠していることと、このふざけた目隠しを付けていることを先に謝罪させてください」
ぺこりと軽く頭を下げると、ミルクティーをしたツインのおさげが揺れる。彼女の言葉通り、目隠しをしているのだが、その目隠しはなぜか犬とも猫とも取れる動物の形をしていたのだ。
「少しばかり厄介な瞳を持っているため、このような措置を取らせてもらっております……目隠しの形について触れないで貰えると助かりますわ」
彼女も困っているのだろう。目は見えないが、そういう空気を纏っている。
「目隠しについては、これ以上言及しないで頂けると助かりますわ。話は変わりますが、先ほどイグニ様がおっしゃられていたように、皆さまと関わる機会は少ないとは思います。ですが、必須講義もあるようなので、その時は何卒宜しくお願いいたします」
それだけいうと、ニュンペリアン令嬢はもう一度頭を下げて、自分の席へと戻っていった。
「……」
次に立ち上がったのは、魔女の末裔と呼ばれるお団子頭の女子学生だ。
彼女が教壇に立つと、ザグバの肌がピリッと電気が走った痛みがした気がした。魔法ではない。彼女自身が無意識に放っている魔力だった。
「……ほう」
ザグバはニヤリと笑ってから、彼女をじっと観察する。
黒い髪に灰色のお団子ヘア、左の目は前髪で隠されている。右目の瞳は黒く、誰とも視線を合わせていない。なにやら虫の居所が悪いのか、形の整った眉をギュッと寄せていた。
「メディアン・クストース……アタシには関わらないで」
ギュッと腕を強くつかんだ仕草を見せながら言葉を放ち終えると、クストース令嬢は自分の席に戻っていった。
「む、終わりか……肌を刺すような威圧感を感じたが、喧嘩を売っているわけではなかったのか」
「なにやら、問題がありそうだね。魔女の末裔って言われてるくらいだから、色々あるんだろうね」
「そうか……ちなみに、魔女の末裔だとどうして色々言われるんだ?」
「あんまりいい話じゃないけど」
「なら、止めておこう。でもそうだな……彼女には、ぜひ学園生活を楽しんでもらいたいものだ。説明会が終わったら、声をかけようじゃないか」
「いいよ。でも今は、クラスメイトの話を聞こう」
「おう、そうだな」
クレスとの話が終わったザグバは、教壇を見る。
教壇に立っている女子学生は、ウェーブの入った腰まで伸びた青髪を揺らして、キラキラとした水色の瞳で全員を見ながら手を振っていた。見た感じ、手を振り返す者は愛し子ニュンペリアン令嬢くらいだ。
それでも諦めずに健気に手を振る少女。クレスとザグバを見ても、彼女は手を振っていたので、ザグバなりの笑顔で手を振り返す。クレスも、ゆらゆらと手を振り返しているのが見えた。
「おお、ニュンペリアン令嬢と、男の子二人はいい人なの。手を振り返してくれる人は、いい人って相場が決まってるの」
満足そうに頷いた彼女は、両手を腰に当てて少しだけ背中を反った。
「私は、サラサ・アクアなの。胸と背は小さいけれど、夢と魔力はとんでもなく大きいの。魔法も大きいのが好きなの。これからよろしく頼むの。あと、灰色髪の人には、後で肩車を所望するの!」
「構わんぞ!」
「やっぱりいい人なの!! これで、サラサも人を見下せるほどの巨人になれるの!」
「おう、任せておけ!」
「やったなの! 楽しみにしてるの!」
アクア令嬢は鼻歌混じりでスキップをしながら教壇から去っていった。
「元気な子だったね」
「ああ、村の子供たちを思い出したぞ」
「……それ、言わないで上げてね?」
「む……そうだな」
クレスの指摘に、ザグバも頬を掻いて頷くのであった。
ノンデリカシーザグバは、気配り上手のクレスに救われた!
「うっしゃ、ようやく俺様か!」
その言葉と共に、ぶわっと室内に風が吹いた。
パーマスタイルのマンバンヘアでまとまった白髪が馬の尻尾の様に揺れる。教壇の上に立つと同時に、ビシッと真っすぐ指差す。その瞳は、猛禽類の如く黄色い瞳を輝かせていた。
「俺様はデューラ・ウェントゥス。戦うことは、俺様の生きがいだ! だからよぉ、貴族の異端児、特異級冒険者ザグバ・プロマクスフェル! 俺様はお前と戦いたい!!」
熱い言葉を受け取ったザグバは立ち上がり、腕を組んで叫んだ。
「もちろん、受けてたあああつ!!」
ザグバの発声にビリビリと空気が揺れ、窓ガラスがカタカタ動く。デューラは、ザグバの返事を聞いて、拳と拳を突き合わせた。
「うし、これが終わったら、さっそく殺り合おう!! 話の分かるやつで助かったぜ、ザグバ!」
「おう!! 楽しみにしてるぞ、デューラ!!」
デューラは満足したのか、風魔法を使って席に戻っていった。
ザグバも、静かに席に座る。
「ふ、こういう青春を待っていたぞ」
「……ザグの青春って、熱血だよね」
「ふ、男はぶつかり合ってこそだ。特別クラスにも、話の分かるやつがいて嬉しいくらいだ」
貴族の通う王都魔法学園には、プライドの高い人間や、お上品な者ばかりがいると思っていた。しかし、いざ蓋を開けてみれば、癖の強い者ばかり。
より一層、学園に対しての期待値が増した。
「つ、次の方……あ、あのぉ……す、ステラエステリア・マギクムさん……」
「ん……んー……ん」
規則正しい寝息を立てていたマギクムというハーフエルフと呼ばれる令嬢が立ち上がる。
ゆらゆらと教壇に向かい、クラスメイトに顔を見せる。
オリーブ色の美しいロングヘアから取り出す長い耳、少しだけ目を開くと紫の瞳が顔をだす。
「ステラエステリア……マギクムだよー。魔導具大好きー。魔導具以外あんまり興味なーい。おわりー」
それだけ言うと、彼女は席に戻る。エピフィラ先生の魔導具という言葉に反応していたマギクム令嬢だったが、案の定、魔導具が好きらしい。
「二人とも、自己紹介はしっかりやるのよ」
「任せてください、お嬢」
「もちろんですわ、お嬢様」
狂愛双子が同時に立ち上がる。どうやら、二人で一緒に行うらしい。
二人は、クラスメイトに向き合うと、優雅に一礼する。その礼は、何やら仰々しく演技しているような立ち振る舞いだ。
「ロール・フィロゾリアンでございます」
ロール令嬢は紫の長髪をニュンペリアン令嬢と同じくお下げにしている。自己紹介をしてはいるが、琥珀の瞳はニュンペリアン令嬢しか見ていない。
「オスト・フィロゾリアンと申します」
オスト令息もまた、ワインレッドの肩までの髪をお下げにしている。骨格は男ではあるが、中性的な顔立ちのためか、令嬢と言われても納得できる。こちらもロール令嬢と同じく、茶色の瞳はニュンペリアン令嬢にしか向いていない。
「私たちは、お嬢様以外に興味はありません」
「そう、我々はお嬢以外、眼中にないのです」
視線の先は、やはりニュンペリアン令嬢しか見ていない。
「私たちは、命に代えてもお嬢様をお守りします」
「もし仮に、お嬢様に悪意を向ける愚か者がいた場合」
二人は揃ってクラスメイトを睨みながら、足を大きく開いて後ろに手を組んで仁王立ち。
そして、今までの優雅な立ち振舞とは異なり、騎士団のような威圧感を放ちながら叫んだ。
「例え、上位貴族だろうと」
「例え、自分たちより強者であろうと」
「例え、魔族であろうと」
「例え、神であろうと」
「完膚なきまでに」
「徹底的に」
「「潰す」」
姿勢を崩して、優雅に礼をする。
「以上でございます」
「以上となります」
狂愛双子は、満足気にニュンペリアン令嬢の元へ帰っていく。
「ぃゃぁ……」
ニュンペリアン令嬢の声にならない悲鳴が、ザグバの耳に届いた。教室という閉鎖空間、どんな小さな音でもザグバの耳に届いてしまう。頭を抱えていないニュンペリアン令嬢だが、内心は冷や汗ダラダラであろう。
「この後の自己紹介は、気が重いね」
ひりついた空気に、なんともお気楽な声がする。ザグバの親友であり戦友でもあるクレスだ。
「はっはっは、確かに印象に残りにくいな!」
「まぁ、それでもいいけどね。元々、後ろのインパクトが強すぎるからさ」
それだけ言い残して、クレスは教壇に向かう。クレスが教壇の前に立つと、クレスに意識が向いている学生は四人。
イグニ令息、ニュンペリアン令嬢、アクア令嬢、デューラの四人だ。
一番後ろの席にいるザグバには、彼等の顔のわずかな動きがよく見えたようだ。
「クレイス・デイフェルです。田舎の貴族ではございますが、どうぞよろしくお願い申し上げます」
美しい礼と共に、クレスは教壇を去ろうとした時、一人の男が立ち上がった。
「クレイス、俺様はお前とも戦いてぇ!」
デューラである。
「僕はザグより弱いですよ?」
クレスの発言に、デューラはハッと大きく呆れたように笑う。
「魔獣雪崩を一人で止めた傑物がよく言うぜ」
「それは誤解ですよ、ウェントゥス令息。僕は半分しか止めてない。残りは辺境騎士と冒険者の協力のおかげだ。それに……」
クレスはザグバを見て笑う。
「元凶である成り損ないを殺したのは、ザグですから」
その言葉を聞いてもなお、デューラはどこ吹く風のように大きく笑う。
「関係ねぇな! お前は俺様より強ぇ。俺様は強ぇ奴と戦いてぇ。それだけだ!」
「なるほど。なら、お引き受けしましょう。ただし……」
クレスは少しだけ間を置いてから、魔力をデューラに向けながら笑う。
「僕の初見殺しの一撃を避けれたのなら、ね?」
挑発するような発言に、デューラはさらに口角を上げた。
「ハッ、やってやらぁ!」
「では、後ほど」
クレスはそのまま、ザグのところまで戻っていく。
「よし、行ってくる!」
「はい、いってらっしゃい」
ザグバは、クレスと代わり教壇に向かう。視線が一気に、ザグバに集中する。
愛し子であるニュンペリアン令嬢、愛し子以外興味がないはずの双子も、魔導具以外に興味のなさそうなマギクム令嬢は耳を傾け、他人との関わりに消極的な魔女の末裔クストース令嬢も視線を向けていた。
イグニ令息は観察し、アクア令嬢は目を輝かせて、デューラは闘士の燃えた視線を向ける。
大トリを飾るザグバは、教壇よりも前に立ち、腕組んで叫ぶように声を張り上げた。
「俺はザグバ・プロマクス! 異界級冒険者だ!」
ギルドの身分証であるドッグタグを首から取り出して見せる。異界級の証明である赤黒いドッグタグが輝きを放つ。
「そして、俺は転生者でもある!!」
予想外の単語に、反応する学生がいる中で、ザグバは己語りを続けた。
「先に言っておくが、俺は貴族になるつもりも、騎士になるつもりも、宮廷魔法師になるつもりもない。この学園には、辺境で共に戦ってくれる仲間と、奥さんを探しに来た!」
ザグバの発言に、ポカーンと口を開けるクレス以外のクラスメイト。そんな反応は分かりきっていたのか、ザグバは気にせず発言を続けた。
「だが、正直それも二の次だ。仲間は辺境の冒険者を鍛えているし、子供たちも鍛えているからな。だから、俺が本当にやりたいことは違う。俺がこの学園でやりたいこと、それは!」
ゴクリと息を飲む音が、教室に響いた。ザグバの発言にというより、異界級冒険者が何を言うのか。この学園で、何を成し遂げたいのかを気になって仕方がない様子だ。
ザグバは、これから自分が発言することをくだらないと思うクラスメイトばかりだろうと思う。
なにせ、学年トップの特級クラスだ。将来優秀で、責任感が強い学生ばかりだろう。
だが、ザグバは止まらない。
前世で後悔したことを、繰り返さないために。
己がやりたいことを、クラスメイトとするために。
アクア令嬢以上に目を輝かせて……。
「俺が本当にやりたいことは、友人たちと青春を謳歌することだ!」
満面の笑みでザグバは、高らかに宣言した。
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――これは、前世で死ぬ間際に後悔するほど何もなかった男が、転生して学友たちと青春を謳歌する物語である。
次回、ザグバ・プロマクスは青春を謳歌した!
青春最高!
漢の中の漢、ザグバ・プロマクス!




