RTA
「はーぁ……終わったな……」
「終わりましたね」
誰もいない荒れ城の大広間で、俺は持ちなれない剣を放り出してへたり込んだ。
出来ることなら、熱めのシャワーを浴びてさっぱりしてから、エアコンの効いた部屋でアイスでも食べて、FANZAのお気に入りの動画でも見てスッキリしてから、ふかふかのベッドでスマホをいじりながら寝落ち、なんて洒落込みたいところだ。
でも残念。
ここには熱いシャワーも無いし、エアコンの効いた部屋もない。アイスなんて当然無いし、FANZAという男の楽園だって存在しない。なんならスマホも、ふかふかのベッドなんてものもない。
「で、どうするんですか? ご主人様」
「どうするって」
俺のすぐ傍らにいる、やたらと露出が少ない小柄な女が俺を見上げてくる。
その耳は長く伸び、褐色の肌に真っ白い髪、そして赤い瞳と、到底人間とは思えない風貌だ。
そう、ここは異世界、テンプレの世界。
俺はお約束通り、ブラック企業で務める天涯孤独の身で、トラックにはねられて死んだあとに女神に会った。
人生唯一の楽しみであった二郎を食べに行こうと思っていたせいか、朦朧とした意識で 『全マシ』と呟いてしまったのが運の尽きだ。
転移初日に起きた悪役令嬢の婚約破棄からの追放騒動のとばっちりで、まだ通ってもいない貴族学院を退学になり、街で呆然としていると勇者パーティを名乗る一団に拉致されて、自称聖女なやたら胸のデカいお姉さんに迫られて財布をスられた挙句、ダンジョンで囮として置き去りにされてしまった。
さらに、置き去りにされたダンジョンをさまよっている内に、封印されていた先代魔王の娘とやらに出会い、なんやかんやで封印が解かれ、解放された魔王の娘ことリリスは俺のことをご主人様と呼んで、すっかり立派なヤンデレ溺愛ヒロインと化した。
現魔王は、先代魔王の元部下で下剋上した後、リリスを封印したらしい。うん、これも立派なテンプレだ。
なんと、これら一連の出来事が、転移してから24時間以内に全部起きた。怒涛の勢いにも限度と適度というものがあると思う。
確かに全マシとは言ったけれど、ここまで雑に盛られるとは思っていなかった。
『よし、ちょっと落ち着こう。流れが早すぎる。激流になってる』
リリスにそう呟いた俺は、何とか街に戻り、勇者パーティへのざまぁを試みるでもなく、とにかく地味に生きようと決めた。
が、テンプレの呪いは俺を逃してはくれない。
どういうわけか俺は勇者パーティの不正を暴いたことにされ、さらに実は有能だった悪役令嬢追放の主犯である王太子が、勇者パーティの聖女と裏でつながっていたとかで王太子廃嫡にも一役買った、ということになってしまった。
『お主こそが真の勇者である。魔王エキドナを討伐して参れ』
と、全く論理的でない命令を押し付けられた俺は、リリスと2人で全てをすっ飛ばし現魔王の元へ赴き、リリスが母である先代魔王の仇討ちを果たすところを柱の陰から見守っていた。
そしてリリスが現魔王を一方的にシバき倒して見事母の仇を討ち、魔王討伐を成し遂げ、現在に至る。
ちなみに現在、俺がこの世界に転移してから76時間。3日と4時間でテンプレ展開コンプリートだ。
一体何のRTAだ。早くクリアしたからって、もとの日本に帰れるわけじゃないのに。
全身が痛いのは、ここに来るまでリリスに引きずって連れてこられたからで、俺自身はほとんど何もしていないい。
さっきリリスがボコボコにした魔王だって、俺は柱の陰に隠れてただけだ。なんなら魔王に対して同情してしまうくらい一方的だった。
さて、おわかりいただけただろうか。俺は、一度も戦闘に参加すらしていない。
「ご主人様、どうなさいます? 国王に報告なさいますか?」
「いや、待って。ちょっと考えさせてほしい」
ブラック企業勤めだった俺は知っている。
ノルマをあまりにも早く達成してしまうと、上の人間はそれが当然の水準であると考える。
そして次のノルマは、奇跡的に達成できたものを『標準』『普通』『こなして当然』のものとして設定された、もうキャパシティというものをガン無視したものになる。
どう考えても、すぐに王様のところに戻って報告、というのは得策じゃない。
こんなの絶対に、次はどこそこの暗黒竜を2日で討伐してこいとか言われるんだ。
さてどうしたものか。
「おのれ……まさかあの時のガキがこんなに力をつけていようとは……」
不意に、後ろから苦しげなうめき声。
リリスが勢いよく立ち上がり、声の主を睨みつける。
「申し訳ありませんご主人様、もう一回殺して参ります」
「待って待ってリリスちゃん。ステイ」
「はい、ご主人様」
さっきリリスちゃんにボコボコにされた魔王だ。
甲冑で気付かなかったけれど、ほぼ半裸になった今なら分かる。魔王は女だ。
先代魔王はリリスの母親ということだったが、どうやらこの世界では代々魔王は『女王』らしい。
「くっ、殺せ……どうせ貴様もアレだろう、人間の勇者らしく、女は慰み者程度に思っているのだろう」
「いや、偏見凄いね?」
「私は知っているぞ……ニンゲンのオスどもが女の魔族に何をするのかを……貴様のその◯◯◯◯た◯◯を私の◯◯〇ッ◯ている◯◯に無理やり〇〇〇〇〇せて〇〇らせた挙句、泣いて赦しを懇願する私を組み伏せて〇〇〇〇〇した末にこう言うんだ……『俺の子を孕め』と」
「待って待って、ちょっと待って? ねぇそれどこ情報? え、この世界のニンゲンの男ってそんな感じ?」
「はいご主人さま。大体そんな感じです」
「やっば……え、怖、まじ怖……」
魔王はほぼ下着姿になり、身体を隠すように身を捩るが、その仕草がかえってエロい。
「ひと思いに殺せ……ヒトの子なぞ孕みとうない……」
「あの、ちょっと、ね? 落ち着こうか? リリスちゃんもその殺気は、ね? ちょっと落ち着——ってまさか俺? 俺に怒ってるの?」
「ご主人様、ケダモノ」
「け、ケダモノっ……いや、おねがい許して、やめて、酷いことしないで、ひと思いに殺して……」
「しませんから! ケダモノじゃないし、そんな自主規制入れまくるようなことしないから! ってか俺が童貞だって知っての狼藉か!?」
「え」
「なんだと」
リリスと魔王、エキドナは揃ってあっけにとられた顔をこちらに向ける。
「なんだよ、悪いかよ……あぁそうだよ! ブラック企業勤めで彼女が出来たこともない、30歳童貞の魔法使いだよ俺は!」
「ご、ご主人様が、伝説の大魔道士……」
「私では勝てぬわけだ……よもや、本当にこの世にいたとは……」
「え、何この空気」
じゅる、と2人の魔族が同時に舌なめずりをする。
「ご主人様、この世界では『熟成された童貞のハジメテ』を得た女は、特殊な力を得ると言われているのは知ってる?」
「知っていようがいまいが構うものか……前言撤回だ、私がその純潔を食ってくれる。力は私のものだ。この男の童貞を『食って』リベンジだ!」
「怖い怖い! ねぇちょっと待って? 最後のハーレム要素ってこれ?」
異世界に来て4日目。俺の受難の旅は、本当にまだ始まったばかりだ。
もしも異世界へ転移させる女神様が超絶せっかちだったら? という思いつきで書いてみました




