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一話 目覚めた青年の始まり

初めまして。二ノ宮沙久と申します。

本作が初投稿となります。

独学で執筆したため拙い部分もあるかと思いますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

……む…


何も見えない真っ暗なところから小さく細い声が聞こえてくる。


頼…ぞ…さい…のき………し…といさ…


とても弱く小さなその声は、途切れ途切れに聞こえてくる。よく聞こえない。


やつ…らを…た……して……くれ……

おま…の名は………しん…い……む……


ただでさえ小さかったその声がどんどん遠ざかっていく。誰の声なのかわからない。何も見えない。そこにあるのは、ただただ真っ黒な景色だった。




……ん…?ここは…?


目を開くと、俺は布団の上で寝ていた。見渡すとそこは誰かの家だった。誰の家なのかわからない。

窓を見ると、優しい太陽が地面を照らしている。おそらく昼頃だろう。

ここはどこだ…なぜ俺はこんな場所にいる…


服装は、ぼろぼろの裾の長い黒色のズボンのみを履いており、上は何も着ていない。そして、自分が何をしていたのか、寝ぼけているからなのか、全く思い出せない。俺は少しふらつく体を起こし、布団から立ち上がる。


家の中を見渡すと、そこにあるのは最低限の家具と台所がある。小さな家だ。部屋の角には小さな扉がある。俺は扉に向かって歩く。

扉の前に立つ。すると、扉の握り玉がガチャっと音が鳴る。


「ただいまー!って、うわぁあぁあぁ!!!」


中に入ってきたのは歳の頃は15辺りだろうか。自分より少し歳下くらいであろう黒髪の青年。白い服の上に黄緑色の上着を羽織り黄土色のズボンを着ている。少年は俺を見て驚いたのか腰を抜かす。


「いててて…よかった!目を覚ましたんだね!!」


少年は目を輝かせながら俺の方を見る。その表情は安心と喜びで満ちている。


「おいガキ、ここはどこだ?」


俺は少年に問う。


「え、えっと…とりあえずご飯食べよ!お腹空いてるでしょ?」


少年は俺の強い言葉で放った質問に対して気遣うように返答する。確かにお腹が空いている。

少年は靴を脱いで家に入る。そしてタンスに向かう。

「上の服を探さないと。探すから待ってて!」

少年はそう言いながらタンスをあさる。

「えーっと…お兄さんが着ることができそうな服持ってるかなぁ。お兄さん背高いし筋肉質だし…」

「俺はこのままで構わん。」

俺は少年にそう言うと、少年は「ダメだよ!」と俺に言い返す。随分お人好しな奴だぜ。


「これとかどうかな?探した限り一番大きい服なんだけど…」

少年が渡してきたのは、生地の色が白茶色の長袖の服であった。俺はとりあえず着てみる。着てみると、少し小さいが、なんとか着れる大きさだった。

「ちょっと小さいように見えるけど、これでいい?」

少年の問いに俺は頷く。

「わかった!じゃあ今からご飯作るから!」

少年は台所に行き、手を洗い、料理の支度をする。「ここ座ってて!」と真ん中にある机を指差しながら言われたので、俺は椅子に座って少年を待つ。


少年はエプロンを着て台所に向かい、手際よく料理をする。あの歳で素早く料理が作れてこのように一人暮らしをしていることに俺は感心した。


「できたよ!」


少年が持ってきたのは、山で採ってきた山芋をすりおろし、それを米にかけたものであった。

「いただきます!」という号令が聞こえ、俺は少年の作ったご飯をいただく。箸を持ち、料理を口へ運ぶ。


…美味い…


とても優しい味だった。決して派手な料理ではないが、山芋の優しくほんのりした甘みがとても美味である。山芋の甘味と少年の優しさがこの料理を美味しく引き立てていた。


「ご馳走様!」


少年は箸を茶碗の上におき、手を合わせる。「片付けておくね!」と言い、少年はご飯を食べ終わった俺の茶碗と箸を台所に置く。

そして、再び机の上に座る。


「ビックリしたよね。いきなり知らない人の家で寝ていたんだから。」


少年が表情を張り詰めて俺に聞く。「ああ」と俺は頷く。

「さっきの質問をもう一度するぞ。ここはどこだ。」

黙り込んでしまった少年に俺は問う。


「ここは、東の地の瑞山郷にある己等の家です。あなたは数日前の深夜、この郷で倒れていたんです。」


少年の言葉を俺は理解できなかった。東の地という言葉も瑞山郷という言葉を聞いても、俺は一切ピンと来なかった。

「は…ど、どういうことだ?」

俺は再び少年に問う。

「…やっぱりすぐに、そういうことか。とはならないよね。順番に説明するよ。まず、己等はこの東の地の瑞山郷で一人暮らしをしてるんだ。」

少年は丁寧に説明を始める。

「あれは、確か五日くらい前かな。己等は普通に家で寝ていた。そしたら、そこの窓から光が差し込んできて…。確認すると、空の上で何か光っていたんだ。しばらくすると光は消えた。なんだろうと思って、松明を持って外に出た。それで、己等の家から少し歩いた郷の平地にあなたを見つけたんです。こんな寒い場所で眠ったたら凍え死ぬから、己等は家であなたを看病しました。これがあなたが目を覚ますまでの経緯です。」


少年は説明を終えた。俺は言葉が出なかった。にわかに信じられなかったのだ。なぜ俺は郷のど真ん中で寝ていたのか、光の正体は俺なのか、それが全くわからないのだ。


「なんだそれ…」

俺は下を見つめる。


「眠る前の記憶は、ないの?」


「あぁ。全く覚えてねぇ。」

頭で考えてもまるで思い出せそうにない。俺の記憶は、真っ黒な闇に包まれているようだ。


「そ、そう言えば、名前を聞いてなかったね。己等は緑埜瑛輝(みどの えいき)。名前は?名前は覚えてる?」


少年は黙り込んだ俺に再び声をかける。俺の名前を聞いてきた。


「俺の名は…」

…思い出せない…


俺は俺の名前をすぐに言うことができなかった。


「お、俺は…」

やはり思い出すことができない。俺は、自分が誰なのかすらも忘れちまったのか…


少年は心配そうに俺を見つめる。


すると、その時、夢に出てきた言葉が俺の頭の中をよぎる。


し…といさ…

おま…の名は………しん…い……む……


しんと…いさむ…

そうだ。はっきり思い出したぞ。

俺の名は、進登勇武(しんと いさむ)だ。


「俺の名は進登勇武。」

「…勇武くんだね!よろしく!」

少年は少し黙り込んだ俺が名を名乗ったことに安心したのか、ニコッと笑った。


「瑛輝、看病してくれたこと、飯を食わせてくれたことに関して礼を言うぜ。助かった。ありがとよ。」


俺はそう言い放ち、机から立ち上がる。「どこに行くの?」という少年の言葉を無視し、俺は家の扉に向かう。


扉を開けて、外に出る。


扉の先にあったのは、明るく爽やかな青空の下にある林に囲まれた小さな郷であった。木でできた家が数個あり、話をする大人、追いかけっこで遊ぶ子供、さまざまなものが目に映った。


とても綺麗で言葉に表すことが難しいほど、美しい景色に見えた。初めて見るように見えるその村に対する不安をあまり感じなかった。


…なぜだろうか。


俺はかつてこの景色を見たことがあったのだろうか。それすらも今の俺にはわからない。依然として闇の中だ。


瑛輝の家から足を動かし歩き出す。暖かい気温が体を温め、優しい風が俺の短い髪を揺らした。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

ここから勇武と少年・瑛輝の旅が始まります。

続きが気になった方は、ぜひ次の話も読んでいただけると嬉しいです。

ありがとうございました。


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