血肉
ひしゃげた身体。肉が抉られ、片足が無い。顔は半分潰れ、目が飛び出している。
アイリの亡骸だ。
昔、無我夢中に廃屋に逃げ込んだ時のことを何度も思い出す。
誰にも言うべきじゃない。
俺は誰にも話さずに黙っていた。
いずれ暴かれるまで、口を閉ざさなければ。
アイリが死んだ。
なんで?
俺がアイリを助けなかったからだ。
俺は自分の身を優先した。
だからだ。
アイリは化け物に喰われた。
俺は隠れてみているだけだった。
「……ごめん」
謝罪が澱んだ空気みたいにまとわりつく。
だけど、どうすればよかったのだろう。
***
俺はアイリを森に連れ出した。
昔大泥棒が森の奥の家に宝を隠したって聞いたからだ。
その話を聞いてすぐにアイリを連れてきた。
「なんで私が、一人で行けばいいじゃん」
「暇だろ? いいじゃんか」
「あ、怖いの? 私がいないと森に入れないのかー。なら仕方ないね、よちよち」
「違う! いくぞ!」
二人で話しながら暗い森に入る。
そして廃屋に着いたときに化け物が現れたのだ。
黒い大きな体。人型で、古い衣服を着ている。歩く度に荒い息と子供が笑うような鳴き声をして、人の真似をする狼みたいな見た目だった。
アイリは俺を逃がしてくれた。
「隠れて! 早く!」
「ああ!」
俺は反射的に走り出す。転びそうになりながらも、廃屋に駆け込んで、廃屋の奥に転がって震えていた。
そして耳をつんざく悲鳴を聞いた。頭にアイリの悲鳴、助けを求める声が響く。
目をつぶり、耳が潰れるくらい強く耳をふさいだ。何も起きてない何も起きてない。
暫くすると、何も聞こえなくなった。
「アイリ……」
ふらつきながらも立ち上がり、ゆっくりと廃屋の入り口に向かう。
廃屋を出て、見えたのが赤い肉片だった。耐え難いほどの赤い地面に血の臭い。
「……」
「え?」
肉片からうめき声が聞こえた気がした。潰れた顔が俺を見ている気がした。
「あああああ!!!」
逃げる。逃げる。
こっちを見ないでくれ!
ふらふらになるまで走って、倒れて。吐き気がして地面を汚した。
***
どうすればよかったのだろう。
そんなことばかり考える。
一緒に仲良く食われた方がましだったかもしれない。
「ああ!」
茶色のガラス瓶に入った酒を飲み干す。
瓶を置き、叫ぶ。
部屋には空き瓶が転がり、カーテンも閉め切って薄暗い。テーブルの上には一本の剣。
カーテンの隙間からは日の光が差し込んでいる。
「仕事の時間だ」
意識して呟く。
澱んだ部屋から出ていこう。
それが今の俺には必要だ。
今度こそあの獣を殺して全てを忘れるんだ。
剣を取って外に出る。向かうは何度も何度も入った森。
血が、肉が、頭から消えない。
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