毒蛇の計略 〜ヴォルガス子爵の密談〜
ディスカール伯爵領のすぐ隣、ヴォルガス子爵邸。
重厚なカーテンが閉め切られた書斎で、ヴォルガス子爵は品のない笑みを浮かべながら、贅沢に注がれた葡萄酒を揺らしていた。
「……準備は整いましたか、大司教閣下」
向かい側のソファに深く沈み込んでいるのは、純白の法衣に身を包んだ男。
中央教会の大司教だ。
聖職者にあるまじき丸々と太った指には、信者からの寄付で買い漁った宝石の指輪が、下品に輝いている。
彼は教会のトップ層にいながら、その実は金と欲に塗れた汚職の塊だった。
「ふむ……。 ディスカール伯爵の領地で採れる魔導錫が、完全に呪いに侵されたという報告は入っております。 もはやあそこは女神に見捨てられた土地……。 教会の名において没収し、信心深き貴殿に管理を任せるのは、至極当然のことでしょうな」
(ククク……うまくいった)
裏で魔導師を雇い、鉱山に負の魔力を流し込ませたのは正解だった。
さらに、街道に魔物を放ち、物流を止め、領民に「伯爵は女神に見捨てられた」というデマを流す。
陰湿な嫌がらせの数々は、ディスカール領を確実に孤立させ、腐らせていた。
「……だが、先日送り込んだ、黒き鎧の一団が失敗したようです。 私の秘蔵の傭兵共が、たった一人の小娘に一掃されたと。 にわかには信じ難いですが、どうやら、例の聖女を名乗る小娘は、ただのペテン師ではないようですな」
「フン、何かしらの異端の術でも使ったのでしょう。 聖女の認定は我ら教会の専権事項」
大司教は鼻で笑い、脂ぎった手でパンをちぎって口へ放り込んだ。
咀嚼する音が、静かな部屋に不快に響く。
「では、私が自ら出向き、その娘が偽物であることを証明してやりましょう。 大衆の面前で、呪われた錫を浄化してみせよと迫ればいい。 ……万が一にも浄化できなければ、その娘もろとも伯爵家を、邪教徒として処断できます」
「ククク……。 もし、あがきを見せるようであれば、さらに黒き鎧を追加で放ち、公衆の面前で力ずくでねじ伏せる手筈も整えております。 ……いやあ、これは楽しみですな」
ヴォルガスは窓の外、ディスカール領の方角を見ながらほくそ笑んだ。
近々、大司教と共に乗り込み、あの頑固な伯爵を絶望の淵に突き落としてやるのだ。
そして、偽の聖女を処刑台へ送り、豊かな鉱山を手に入れる。
その完璧な計画には、一点の曇りもないはずだった。
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