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空を飛ぶ白鳥

「ミリィの力の制御をなんとかしないと!」


 あたしは、マジカルキャンピングカーのテーブルを、バンッと叩いた。

 目の前に座っているみんなが、うんうんと頷いている。


 そうなのだ。

 可愛い可愛い妹分のミリィだが、すでに車内のドアノブを二つほどねじ切り、コップを握力で粉砕している。

 その圧倒的なパワーの片鱗に、車内には静かな危機感が漂っていた。


(このままじゃ、死人が出るわ。 真っ先にあたしが死にそうだけど……)


 妹のゴリラ化をなんとかしなければ、うかつに近づくこともできない。


 なんでこう、悩みの種が次から次へと……。

 魔王のことで頭いっぱいなのに……。


 あたしは、わしゃわしゃと頭をかきむしった。


「お嬢様。 ドワーフの里で、ミリィ様に力の制御を学ばされてはいかがでしょう? ドワーフは力が強い種族ですし、指導役として適任かと存じますわ」

 リナが優雅に紅茶を片手に提案した。


「採用!」

 あたしは、食い気味にリナをピシッと指差す。


「スズネ様。 ドワーフは鍛治が得意と聞きます。 できれば、私の剣を新調できればありがたいのですが……。 実はもう結構傷んできておりまして……」

 カイルが、申し訳なさそうに横に置いた剣をさすった。


「採用! いいわ。カイルはこのパーティーの要。 いざという時に剣が折れたりしたら、それこそ大惨事だもの」

 あたしは、カイルに親指を立てた。


「ミリィはグローブが欲しい! さっきマジカル・ナックルした時に少し血が出ちゃったから」

 ミリィはそう言って、自分の拳を見つめる。


(巨木へし折って、すり傷だけって……)


 ミリィ……、恐ろしい子!


「採用! リナ、ミリィの傷の手当てお願いね」


 あたしはそう言うと、フーッと大きく息を吐いた。


 よし、これでドワーフの里へ行く目的が、さらに明確になった。

 あとは、そこへ辿り着くだけだ。


 ◇◇◇


 翌朝。

 そんな決意を嘲笑うかのように、昨日と変わらぬ濁流が、あたしたちの行手を阻んでいた。


「これは、どうしようもないわね……」


 あたしは両手を広げて降参のポーズをとる。

 自然の力を前にしては、さすがのマジカルキャンピングカーでもどうしようもない。


「ひょっとして、魔法道具でなんとかなったりしないわよね? 何かある?」

 あたしは、念の為アルに尋ねてみた。


 すると、アルはこちらを向いて、ふふんと鼻を鳴らした。

『もちろん、あるよ!』


「え? あるの?」

 あたしは、前のめりに食いついた。


『昨日の晩、考えて作っておいたよ。 山も登らないといけないしね』


「昨日? ……ちょっと、即席すぎない?」


 あたしのツッコミを無視し、アルは自信作とばかりにブレスレットを叩いた。


『さあ、ここからは空の旅だ! 新アイテム、魔法回転翼機(マジカル・コプター)の出番だよ!』


「コプター……? ヘリコプターってこと?」


 あたしは少しだけ期待した。


 ヘリコプター。

 それは現代の科学力と、大人のカッコよさの象徴。

 スタイリッシュな機体で空を飛ぶなら、魔法少女の恥ずかしさも少しは紛れる――かもしれない。


『さあ、イメージするんだ! 空を優雅に舞う、美しい翼を!』


「わかったわ! 来なさい、あたしの翼!」


 あたしは、空を切り裂く鋭利なローターと、流線型のボディを思い浮かべブレスレットから取り出す。


 ズガァァァァンッ!!


 重量感のある落下音と共に、、目の前に出現したもの。

 それは――。


「……は?」


 そこに出現したのは、公園の池でよく見かける、あのスワンボート(・・・・・・)だった。


 ただし、サイズは巨大で、白鳥の頭の上に、申し訳程度のプロペラがついている。

 しかも、謎にメタリックで、全体的に白い金属パーツで組み立てられている。

 部品の継ぎ目部分は、謎に赤く発光しており、まるでロボットアニメのように変形するのではないかと思わせるような、無駄に凝った作り込み具合だ。


 スワンの顔の部分には、しっかりと顔が描かれており、そのつぶらな瞳は黄色に輝き、長いまつ毛まで描かれていた。


「……何よこれぇぇぇぇ!!」

 あたしの絶叫がこだまする。


『どうだい? 優雅な白鳥だよ!これなら空の散歩もロマンチックだろう?』


「どこがよ! これじゃ、ただの遊園地のアトラクションじゃない! しかも、なんかメカっぽいし! 美しい翼はどこに行ったのよ!」


『まあ、細かいことは気にしない、気にしない! さあ、みんな乗った乗った!』


 あたしの抗議も虚しく、スワンの背中にあるハッチが「プシューッ」と蒸気を吐き出して開く。


 中は意外にも広く、無数の計器類やモニターが並んでいるのに、操縦席にはなぜか、ハンドル。そして―各座席に足元には自転車のようなペダルがついていた。


「……まさかとは思うけど。 これ、漕ぐの?」


『動力は魔力だけど、ペダルを漕ぐと「頑張ってる感」が出てスピードが上がる仕様だよ』


(なんなのよ、その無駄な仕様は!)


「お嬢様、素晴らしい乗り物ですわ! この愛らしい白鳥の腹に収まり、空へ昇る……。 まるで童話の世界です!」


「うむ! このカイル、全力で漕がせていただきますぞ!」


 リナとカイルはノリノリで後部座席に乗り込み、ミリィも「白鳥さんだー!」とはしゃいで乗り込もうとして――


 バキッ!


 手をついた座席の背もたれを、うっかりへし折った。


「あ……」


「……ミリィ、あんたは座ってるだけでいいから。 絶対に何もしないでね?」


 あたしは死んだ魚のような目で、白鳥に乗り込んだ。


「……行くわよ。 歯ぁ食いしばりなさい!」


 あたしがヤケクソでペダルを踏み込むと、頭上のプロペラがパタパタと軽快な音を立てて回転を始めた。

 ふわりと浮き上がる巨体。


「おお、浮いた!」


 あたしたちを乗せた白鳥は、緊張感のない騒音を撒き散らしながら、ドワーフたちが待つ険しい山脈へとテイクオフした。

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― 新着の感想 ―
ミリィちゃん、このままだと車すべて破壊しちゃうんじゃ.....? 大丈夫かな?
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