ミリィの覚醒
読みやすくするために、会話内の区切りにスペースを入れてみました。
急に変更したので、少し違和感があるかもですが、ご理解をお願いいたします。
絶望で言葉を無くしたあたしは、無言のままアクセルを踏み続けていた。
そんなあたしを嘲笑うかのように、目の前の巨大な川は大きく氾濫し、街道にかかる石橋を完全に飲み込んでいた。
濁流が渦を巻き、流木がバキバキと音を立てて砕け散っている。
「嘘でしょ? ……は、橋が、落ちてる……」
あたしは、マジカルキャンピングカーをゆっくりと停止させると、確認するために車から降りた。
その瞬間。
つい最近嗅いだ匂いが、鼻腔をかすめた。
「……なんか硫黄の匂いがするわね」
『この辺りの火山も噴火したのかも知れないね。 地熱で雪解け水が一気に流れ込んだか、地形が変わったか……。 どのみち、車で渡るのは不可能だ』
アルが、やれやれと言ったふうに、両手を顔あたりまで上げる。
「影響範囲でかくない?」
私が、アクアヴェーネだけでなく、この地域一帯が温泉街になるのではないかと、不安に怯えていると背後から暑苦しい声が聞こえた。
「スズネ様! ご安心を! このカイルが、スズネ様を抱えて渡りきって見せましょう!」
「バカなの? 一瞬で流されるでしょうが。自然の力を舐めないで!」
私がカイルの脳筋に呆れていると、後ろからリナが涼しい顔で提案した。
「お嬢様、日も暮れてきましたし、無理に進むのは危険ですわ。 今日はこの手前で野営されてはいかがでしょうか?」
「……そうね、そうしましょう」
あたしは、そう言って右手を上げた。
難しいことは、後回しにするに限る。
明日のことは、明日のあたしがなんとかするだろう。
たぶん。
◇◇◇
川から少し離れた高台にキャンピングカーを停め、あたしたちは野営の準備に入った。
といっても、マジカルキャンピングカーは快適そのものだ。
リナが夕食の支度をしている間、あたしはソファで優雅にコーヒーを飲むことができる。
そんな優雅なひと時を過ごしていると、突如キャンピングカーのドアが開いた。
「ス、スズネ様!! た、大変です!」
さっき、剣の素振りをすると言って、ミリィと一緒に出て行ったカイルが、真っ青な顔で飛び込んで来た。
「な、なに?! どうしたの?まさか魔王軍!?」
あたしはコーヒーを置いて立ち上がる。
カイルが、珍しく動揺を隠せない様子で続ける。
「ち、違います! ミリィ殿が!」
「え? ミリィがどうしたの!?」
あたしは確認するより早く、外へと飛び出していた。
まさか、崖から落ちた?
魔物に襲われた?
最悪の想像が頭をよぎる。
「ミリィ!」
駆けつけた先には、信じられない光景が広がっていた。
「あ、おねえちゃん! 見て見て!」
幸いなことに、ミリィは無傷だった。
満面の笑みで、あたしに手を振っている。
「……は?」
ミリィの足元には、根元からへし折られた巨木が、無惨に転がっていた。
「これ、どうしたの……?」
「あのね、おねえちゃんの真似して『マジカル・ナックル!』ってやったの! そしたらどーんって!」
ミリィは無邪気に笑顔を見せた。
(えええええええええええ!?)
あたしは、目ん玉が飛び出そうなくらい驚き、しばし言葉を無くした。
「……カイル。 これ、本当にミリィがやったの?」
「は、はい……。 私の目の前で、ミリィ殿が小さな拳を突き出した瞬間、大木が悲鳴を上げてメリメリと……」
カイルが理解できないと言った顔で、呆然と立ち尽くしている。
『……なるほどね』
いつの間にか肩に乗っていたアルが、ニヤリと笑った。
『彼女はフェネックの獣人だ。 もともと身体能力は高い種族だけど……どうやら、スズネの加護を受けて、筋力が大幅に増強されちゃったみたいだね。 でも、力の覚醒に制御が追いついていないようだ』
「……増強されすぎでしょ!」
なんで、あんなにちっちゃい子のパンチで、巨木がへし折れるのよ!
(これじゃ、フェネックじゃなくて、ゴリラじゃない!)
可愛い妹のゴリラ化に、あたしの思考が停止した。
「おねえちゃん。 ミリィも魔法少女になれるかな?」
「ミリィ、魔法少女はね、魔法を使うのよ?」
そう言ってあたしは、自分自身の物理攻撃の多さを思い出し、口元をひきつらせた。
無邪気に笑顔で駆け寄ってくるミリィ。
「ま、待ってミリィ! そこから動かないで!」
(その笑顔が、今は怖いんだってば! 抱きつかれたら背骨が折れる!!)
あたしは生命の危機を感じ、後ずさりしながら訴える。
「えっ?おねえちゃん?」
「い、いい子だから! 今はハグ禁止! 絶対禁止だからねぇぇぇ!!」
あたしの悲痛な叫びが、夕暮れの河川敷にこだました。




