第一回眷属会議(3)
「……よし。これで当面の目標は決まりね」
あたしは腕組みをして、会議の締めくくりに入った。
レオは王都へ。
セレナはこの街の復興。
そしてあたしたち本隊は、東の山脈へ向かい、ドワーフの戦士を探す。
完璧なプランだ。
これでしばらくは、暑苦しい……じゃなくて、熱烈すぎるメンバーとも少し距離を置ける。
そう安堵した、その時だった。
『おっと、忘れてた。みんな、ちょっと待って』
アルが思い出したように声を上げ、ポンとテーブルの中央に飛び乗った。
『これからチームはバラバラに行動することになる。でも、魔王の動きや緊急事態があった時、連絡が取れないと不便だろう?』
「確かに……。手紙じゃ遅すぎるし、早馬だって何日かかるか分からないわね」
あたしが頷くと、アルはニヤリと笑い、あたしの左手首――ブレスレットを前足で叩いた。
『そこで、新しい魔法道具さ!名付けて、眷属通信!』
「……なんか、ネーミングがそのまんまな上に、絶妙にダサいんだけど?」
あたしのツッコミを無視して、アルが解説を続ける。
『スズネの加護を受けた眷属は、スズネと魂で繋がっている。このブレスレットを中継することで、離れていてもリアルタイムで会話ができるんだよ』
「え、すごっ!スマホじゃん?」
アルがあたしのブレスレットに鼻先をつけると、ポンっと、あたしのによく似たブレスレットが5つ飛び出した。
『ブレスレット型だから、いつでも身に着けていられるよ。さらに、耐衝撃。防水――』
「防塵!でしょ?」
あたしは、いつぞやのやりとりを思い出して、アルのセリフを奪ってやった。
『その通り!』
アルは自慢げに尻尾を振った。
(……G-SH○CKか!)
あたしの心のツッコミを無視して、みんなの視線がテーブルの上のブレスレットに集まる。
「おお……!これは……!」
「お嬢様とお揃いですわ」
「主様と魂で繋がるのですね……!」
「お姉ちゃんと一緒だー!」
カイル、リナ。セレナにミリィと、みんなが、まるで初めて買ってもらったスマホでも見るように、ブレスレットに食いついた。
レオも「僕たちの絆の証ですね!」と目を輝かせている。
『これを身につけて念じるだけで、いつでもスズネと会話ができる。もちろん、緊急時にはGPS……じゃなくて、居場所を探知することも可能さ。まあ、強い魔力干渉地帯では使えないこともあるかもだけどね』
「便利ね。……って、ちょっと待って?」
あたしはふと、とんでもない事実に気づいてしまった。
「それって、あたしのプライベートな時間、ゼロになるんじゃない?」
いつでもどこでも、この濃いメンツから連絡が来る?
寝てる時も?
お風呂に入ってる時も?
『念じると、まずはブレスレットに通知音がなる。着信すると念じてタッチすれば通話が繋がる仕組みだから、プライベートは問題ないと思うよ。マナーモードも設定できるよ』
アルは、あたしの不安を見透かすようにつづけた。
マナーモードってなに?
普通に携帯電話じゃん。
魔法の要素はどこにあるのよ!
「まあ、便利だし、プライベートが守られるのならいいわ」
あたしはひとまず、胸を撫で下ろした。
それから、皆にアルが使い方を説明した。
現代では幼稚園児でも使えるものだが、みんな、異世界人だ。
仕組みや概念、通話やマナーモードの使い方などを飲み込むのに、皆かなり苦労していた。
ただし、リナを除いて。
「素晴らしい機能ですわ、アル様。これなら、離れていてもお嬢様のお声を耳元で愛でられるのですね」
リナが、ブレスレットを優しく撫でながら、うっとりと呟く。
「いつでもスズネ様の号令が聞けるとは!このカイル、寝る間も惜しんで耳を澄ませておきますぞ!」
「私もです!何かあれば、いえ、何もなくても主様に毎日定時報告をさせていただきます!」
カイルとセレナもやる気満々だ。
(……終わった。あたしの安眠が、今ここで終わった)
あたしはガックリとうなだれた。
便利なのはいいことだ。
でも、使い方一つで毒にもなるのだ。
「……とりあえず、緊急時以外は極力使わないこと!いいわね!特に夜中は絶対禁止だからね!!」
あたしは精一杯の抵抗として、ルールを厳命した。
みんな「はーい」「御意」と返事はいいけれど、その瞳の奥にある、絶対かける気満々な輝きを見て、あたしは早くも胃がキリキリするのを感じた。
こうして、あたしたちは最強の(そして最悪にウザい)ホットラインを手に入れ、それぞれの旅路へと出発することになったのだった。




